2024年03月26日

手強かった弥生の雪、麻疹と紅麹


3月中旬の中庭、手前のクリスマスローズと奥の水仙が共に満開。写真ではぼけていますが中間にあるユキヤナギの花芽も動きはじめました。

ところが・・・

3月20日夕方、弥生にしては多めの雪が降り始め、




翌21日朝には季節が1ヶ月戻ってしまったかのような降雪。水分が多く除雪が大変でした。




とはいってもやはり弥生の雪、溶け始めるのも早く同日昼頃には埋まっていたクリスマスローズも顔を出し始めました。



水仙の花芽は完全に倒れてしまい回復まで時間がかかりそうです。



はしか(麻疹, mumps)Up to date

風邪症状のあとに全身に発疹が出るウイルス感染症です。感染力が高いこと、一度かかるとほぼ一生かからない強力な免疫が誘導されることも知られています。そのため昔は感染者が出ると免疫を獲得する目的で敢えて近付いて感染させたエピソードもありました。現在新型コロナパンデミックの期間に麻疹ウイルス接種率が低下した結果、世界各地で感染者が増えており海外旅行先で感染し国内に持ち込まれるケースが報告されています。
以前は免疫を獲得する目的で敢えて感染する行為も行われていた麻疹、ここ20年程の新たな知見から感染するとかなり損をすることが明らかとなっています。

ウイルスは自分で増えることが出来ず宿主の細胞に感染してその細胞を利用して増殖します。2000年に麻疹ウイルスが免疫系の細胞に感染するカギとなる蛋白質が同定されました。そのため麻疹に感染すると一過性に免疫機能が低下する機序が明確になりました。そのため肺炎などの二次感染を合併しやすく、現代でも1000人に1人程の死亡率を有しています。また2019年には麻疹感染によってこれまで獲得した免疫がリセットされる可能性も指摘されました。また数万人に1人に割合で治癒後平均7年で重い脳炎を発症することもあり、おいそれと感染して良いウイルスではないことは明らかです。

現時点で国内では大きな流行にはなっていません。慌ててワクチンを接種する必要性は低いと思われますが、麻疹にかかったことが無い、ワクチンを受けたことが無い人は一度麻疹の抗体価を調べてみると良いでしょう。それによりワクチン接種の必要性、1回で良いのか2回必要かの判断が可能になります。


(CRCグループHPより)

余談ですが、新型コロナウイルスも想像よりも多くの割合で神経系や心血管系の細胞に長期感染し、将来的に認知症や心不全の発症率が高まるリスクが指摘されており「ただの風邪」として見ていると思わぬしっぺ返しを貰うかもしれません。


麻疹の症状
RNAウイルスによる感染症で潜伏期は10〜12日。
1. 発症1〜2日(カタル期=風邪のような症状)
・38℃戦後の発熱
・咳
・咽頭痛
・鼻水
・目の充血、涙目

2. 発症3〜5日(発疹期)
・一度解熱し再度高熱が出るとともに発疹が出現
・発疹は頭部から始まり次第に下方へ向かって広がる
・発症から5〜6日で発疹は消失

3. 発症7〜10日(回復期)
・解熱して回復


麻疹の特徴
・非常に感染性が高い(空気、飛沫、接触感染の混合経路)
感染者と同じ空間にいた人で免疫がないと10人中9人が感染する
1人が感染すると、周りに居る12〜18人が感染する(インフルエンザは2人程度)
・感染者はほぼ100%発症する
・免疫を担う全身のリンパ組織を中心に増殖し一過性に強い免疫機能抑制状態となる
別の細菌やウイルス感染が合併して重症化することもある
・発症者は「免疫記憶」が薄れ、他の感染症にかかりやすくなる
・約1000人に1人死亡する
・感染から5〜10年後に数万人に1人が重篤な脳炎(SSPE)を起こす
・治療薬が無い
・ワクチン2回接種で防御率97%
・一度出来た免疫は20年以上持続する

麻疹ウイルスは呼吸器から体内に侵入し、免疫細胞に特異的に発現するSLUM (CD150) を受容体として細胞に感染することが九州大学の橋口先生らの研究により明らかとなりました。(他にもCD46を介して皮膚、腎臓、肝臓、消化器など全身の諸臓器に感染します。)
Tatsuo, H., Ono, N., Tanaka, K. et al.: SLAM (CDw150) is a cellular receptor for measles virus. Nature, 406, 893-897 (2000)
古くから麻疹に感染すると、肺炎などの二次感染を合併し重症化すること、逆にネフローゼ症候群の様に免疫系の暴走で発生する症状は軽快することなど、一過性に免疫抑制が生ずることは経験的に知られていました。
「麻疹ウイルスの感染及び免疫抑制機構」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv1958/45/2/45_2_117/_pdf

免疫系細胞に特異的に発現する蛋白質(SLUM)が感染に関与することが明らかとなり、科学的にその機序が解明されたことになります。更に、2019年にはオランダから、麻疹に免疫を持たない子供が麻疹にかかると11〜73%の抗体が消失したとの論文が発表されました。これまで獲得していた病原体に対する免疫記憶がリセットされ失われた可能性を示唆します。
Measles virus infection diminishes preexisting antibodies that offer protection from other pathogens, Michael. J. Mina. Et al, Science, 1 Nov, 2019
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aay6485

弱毒化生ワクチンであある麻疹ワクチンはウイルスが免疫細胞に感染するターゲットであるSLUMと結合出来ませんが、麻疹ウイルスに対する免疫はしっかり誘導されます。麻疹は感染すると一過性の免疫抑制により二次的に肺炎などの感染症を併発し易いなど現代でも死亡率が高く、稀ですが感染後7年前後で重篤な脳炎を来す可能性があり、インフルエンザの6〜9倍感染力がある感染症です。また免疫記憶がリセットされ他の感染症にかかりやすくなるリスクもあります。決して容易に罹患してはならない手強い相手との認識が必要に思います。麻疹ワクチンの接種率の高い集団は麻疹の減少だけでは説明出来ないほど全体の死亡率が減少することが観察されており、ワクチンが麻疹以外の感染症をも減らすことが一因だと考えられています。



ハクモクレンの花芽、雪解けの後の青空。



もうすぐ開花するサンシュユの花芽。






日本透析医会の指標は何れも90%以上の達成度でした。年末年始の影響が薄れ、透析条件や内服薬の調整も効いてきた印象です。各種栄養指標も1月から改善傾向に有り今後も続いてほしいと考えます。



小林製薬の紅麹含有サプリに起因する腎障害


3月22日小林製薬から発売されている「紅麹コレステヘルプ」等の製品を摂取した13人に腎障害が生じて6人が入院、一時的に透析が必要となったケースもあった事が報道されました。現時点で原因究明は出来ていない様子ですが、一部の製品のロットと原料のロットに含まれる物質を分析したところ通常ではみられない未知の波形が検出され、想定外の物質が混入し腎臓障害を惹起した可能性が考えられています。紅麹といっても使用されるカビは何種類か存在し、中には腎毒性のあるシトリニンと呼ばれる物質を産生する種もあります。既に欧州ではサプリメント内でのシトリニンの基準値を設定するなど対策が取られています。今回、国内で発生した腎障害に関係したロットの原料からはこのシトリニンは検出されていないそうです。また2020年10月小林製薬と奈良先端科学技術大学院大学との共同研究で、主に日本で使用される紅麹菌 (M. pilosus) はシトリニンを合成する遺伝子を持たないことが明らかとなっています。
https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2020/201002_02/

3月25日更に20人が入院していたことが判明しました。想定していない成分(別のカビ毒の可能性)を含む原料を使用した「紅麹コレステヘルプ」の製造番号が公表されました。

<ドラッグストアなどの店舗やECサイトでの販売分> 
計14種類 製造番号:J3017、X3037、X3027、X3017、H3057、H3047、H3037、H3027、H3017、F3037、F3027、E3037、E3027、D3079
<小林製薬の通信販売を通じての販売分>
 計4種類 製造番号:X304、H306、G301、E301

3月26日には同社の健康相談窓口の集計でサプリの摂取に関連した腎障害で更に多くの入院患者が発生した様子であり、因果関係の否定出来ない死亡例も相談窓口に寄せられています。

「紅麹」がすべて腎障害の原因となるわけではなく冷静な対応が求められます。一方でこれら製品の摂取に心当たりの方は直ちに接種を中止して、心配な症状があれば医療機関を受診することを推奨します。

小林製薬の問い合わせ先
<当社の通信販売を通じてご購入のお客様>
対象製品:紅麹コレステヘルプ 15日分・30日分
小林製薬通信販売 紅麹健康相談受付センター
電話番号:0120‐58‐5090
受付時間:9時~17時(土日・祝日は除く)
※4月末までは土日・祝日も対応いたします。
インターネットからのお問い合わせ:https://www2.kobayashi.co.jp/inquire/
<ドラッグストアなどの店舗やECサイトにてご購入のお客様>
対象製品:紅麹コレステヘルプ 20日分
ナイシヘルプ+コレステロール 地区限定品(石川、富山、福井県) 28個販売済
製造番号:23508 ※製造番号は製品裏面の左下に記載
ナットウキナーゼ さらさら粒GOLD 地区限定品(広島、山口県) 41個販売済
製造番号:J301 ※製造番号は製品裏面の左下に記載
小林製薬 紅麹健康相談受付センター
電話番号:3月26日 0120‐5884‐12
3月27日以降 0120‐880‐220
受付時間:9時~17時(土日・祝日は除く)
※4月末までは土日・祝日も対応いたします


想定外の物質が混入することで腎障害が引き起こされる事例は過去にもあります。1995〜2000年頃に中国から輸入された特定の漢方薬を服用した人に腎機能障害が発生する報告が相次ぎ漢方薬腎症 (Chinese herb nephropathy) と呼ばれました。日本の漢方薬には含まれないアリストロキア酸を含む生薬・漢方薬の摂取が原因であると判明しました。日本薬局方に適合する生薬については問題ありませんが、生薬の呼称は国によって異なる場合もあり、輸入漢方薬の個人使用には注意が必要です。

日腎会誌 2005;47(4) 「民間療法によって末期腎不全に至ったアリストロキア酸腎症の1例」
https://jsn.or.jp/journal/document/47_4/474-480.pdf

アリストロキア酸を含有する生薬・漢方について
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2003/14896/siryou2.pdf

今回の紅麹含有サプリは個人使用の生薬とは比較にならない流通量であり、今後腎障害の発症数はかなり増えるのではないかと予想します。同時に原因物質の究明と治療手段の確立を望みます。



リュウキンカと蕗の薹



ユキヤナギ


季節の変わり目、三寒四温。
寒暖差で体調が乱れやすい早春。
体調管理にご留意ください。


須坂腎・透析クリニック  


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2024年02月23日

如月における春の気配


日中15℃を越える春のような陽気の次の週は1月並みの寒気、ジェットコースターのような寒暖差です。写真は寒椿に積もるみぞれ、2月後半になると降雪しても気温が高いためか水分を多く含み瞬く間に儚く消えて行きます。季節の変わり目を象徴する一瞬かもしれません。




2月中旬には閉じていたクリスマスローズのつぼみ。





先週の温かな気温に誘われて開花していました。





(ウェザーマップより)
2月5日(月)の南岸低気圧通過に伴う降雪は朝から夜半にかけて連続的に続き、翌朝の降雪量は40cm前後に到達しました。委託している業者さんの雪かきでクリニックの駐車場は使用可能となりましたが、いつも以上の降雪量のため通常2台分で済む雪置き場が4台分となり、積み上がる雪の高さも1m近くになりました。最も駐車台数が多くなるのは月水金の午後と夜間帯がクロスオーバーする16時頃、水曜日の同時間帯には駐車スペースに駐めきれないクルマも出ました。翌木曜日の透析終了後は雪置き場のうち2台分を確保すべく雪の壁を削り奥に積み上げる作業に従事、腰痛と全身の筋肉の張りと引き換えに金曜日は余裕で駐車スペースを確保出来ました。翌週の後半は日中15℃を越える日もあり、残る雪の壁も日に日に高さを減じています。温かな日と寒い日が交互に繰り返すようになると、春の訪れが近いと感じます。そういえば同じ頃に増加するB型のインフルエンザ陽性者も増えてきました。



(Tenki.jp より)
2月5日の週は透析の定期検査週でもあり、透析を終えた患者さんのレントゲンを撮影しながらクリニック中庭が次第に雪に埋もれて行く様子を嘆息混じりに眺めていました。さらに大雪の影響で高速道路が通行止めとなり検体がその日のうちにラボに搬入出来ない事態となりました。そのため通常は水曜日には解析可能な月グループの検査結果が木曜日着となり、通常水〜金の3日で解析する検査結果を木・金の2日で行わざるをえなくなり、しばらく眼精疲労気味でした。




透析中の発熱
来院時は平熱で自他覚症状が無く、透析中〜後半に発熱するケースを時折経験します。ふるえを伴い高熱を呈する場合は血液中に細菌が存在する状態(菌血症〜敗血症)が疑われ、炎症反応や白血球数特に好中球比率が高いケースでは、高次機能病院に救急搬送となる場合もあります。また当院では経験がありませんが結核感染が隠れていることもあり、特に一般的な抗生剤が無効なケースではinterferon-gamma release assays(IGRA)であるQFT法やT-Spot法による診断も検討します。透析患者では免疫力が低下しているため種々の感染症を想定して鑑別する必要があります。これら感染性の発熱以外にヘモダイアフィルターや透析液に対するアレルギー反応で発熱するケースがあり非感染性発熱と呼ばれます。当院ではCRP軽度高値で白血球数正常、好中球比率も正常範囲ながら透析毎にふるえと発熱を認めるケースを経験しました。一般的な抗生剤は効果無くT-Spotは陰性で、ヘモダイアフィルターをATA膜からPS膜に変更したところ症状が消失しました。ATA膜は生体適合性が良いとされますが非感染性の発熱が疑われる場合は変更を検討する必要があると改めて実感しました。



2024年2月 治療指標の達成度




年末年始の影響で血清Pが高めであったケースは、今月何れも許容範囲に低下しました。栄養指標の一つ血清アルブミンは上昇傾向です。年末年始の「特別な」食事からいつもの食生活に戻った印象のデータです。カロリーや蛋白質摂取の観点からは「特別な」食事並みの摂取継続が望ましいのかもしれません。一方で「加工食品」の割合が多くなる年越しの食事内容は栄養にならない無機リン摂取過多に留意する必要があります。お正月くらいは多少羽目を外してもやむを得ないと思います、しかしそのために普段の食事は適切なカロリー、適切な蛋白質摂取で整えておくことも大切です。



水仙も花芽が大きくなってきました。




寒椿の下には蕗の薹です。


季節の変わり目は寒暖差が大きく体調不良を感じる人が多くなります。寒暖差アレルギーに加えて花粉アレルギーも出始めて、鼻炎症状を自覚するケースも多い様です。冷たい空気を気道に入れないためにはマスクが有効です。季節性アレルギー性鼻炎をお持ちの方は早めに抗アレルギー薬の内服や点鼻を開始することもお勧めします。

須坂腎・透析クリニック
  


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2024年01月25日

令和6年辰年睦月の冬景色


令和6年の元日は月曜日。よってクリニックの仕事始めは元日です。幸い雪も降らず落ち着いたスタートとなりました。このまま積雪のない穏やかな冬を期待していましたが・・・




やはり雪の舞う冬景色となりました。




雪がほどよく着雪した「ユキヤナギ」。初春にヤナギのようにしだれる枝に白い小さな花が咲き乱れる様子を雪に見立てて命名されましたが、本物の雪を纏い開花している姿を想像してしまいます。




南天の赤い実にも雪が舞い降りてお正月らしさの漂う絵になりました。
1月中旬にかけて結構な積雪となり雪かきの頻度も多くなりました。雪かきは全身運動でもあり特に腰への負担が大きく腰痛が悪化傾向に。




「山田温泉大湯」
腰痛が悪くなり始めたら必ず訪れる場所、高山村山田温泉の公衆浴場「大湯」。解党00年の歴史を持つ名湯で、入浴後は熟練のマッサージ師に施術を受けた後のように症状が軽くなります。



2024年1月の治療指標の達成度




年末年始で食事内容が普段と変わり、その影響で血清リンや栄養指標に変化がでるのでは?と考えていましたが統計的には有意な変化を検出しませんでした。ただし血清リンが急上昇し、せっかく落ち着いていたPTHまで上昇してしまったケースもあり変動幅の大きな例では処方の調節や栄養指導の予定を入れました。

血液中のCaやPは消化管で吸収され腎臓で排泄され骨と血液の間で動的なやり取り(代謝)が行われています。そしてパラサイロイドホルモン(PTH)やビタミンD等の物質が腎臓、消化管、骨の三者が関係するこれらの代謝を調節しています。PTHが骨に作用すると骨が分解されCaとPが血液中に移動しCa濃度が維持される一方、余計なPは腎臓から排泄されます。しかし腎不全ではPの排泄が滞るため血液中のPが上昇します。また消化管からのCaの吸収に必要なビタミンDは腎臓と肝臓で活性化されて初めて機能します。腎不全では腎臓でのビタミンDの活性化が低下し消化管からのCaの吸収が少なくなりCaは低下しやすくなります。PTHはCa濃度が低くP濃度が高い状態で分泌が亢進するため、中等度異常の腎不全では病的に血液中の濃度が高まります。この状態を二次性副甲状腺機能亢進症といいます。これを放置すると骨からCaやPがくみ出され骨が病的に脆くなるため、PTHの産生を抑制する働きのある活性型ビタミンD製剤や、PTH産生細胞に対してCaが十分あるようなふりをするCa受容体作動薬(Ca mimetics)を用いてPTH濃度をコントロールします。
PTHが高くCaが低い場合はCa濃度を上げるビタミンD製剤を第一選択とします。しかしビタミンD製剤はP濃度も上げてしまうため、同時にPが高いと使用しづらくなります。その場合はPのコントロールを優先させます。PTHが高くCaも高い状態ではCa受容体作動薬を選択します。この薬はCaが潤沢にある「ふり」をするので使用すると実際のCa濃度は低下します。従ってCaが低い場合は使いにくいといえます。実際は両方を使用するケースも多く、毎月の採血の結果からP>Ca>PTHの順でコントロールしています。



ハクモンレンに積もった雪と青空。



真冬に咲くハイビスカス。




インフルエンザA型は例年よりも早く流行した分、ピークアウトも早めでした。1月下旬となりインフルエンザB型もわずかですが検出されるようになりました。COVID-19は漸増傾向にあり第10波と見る向きもあります。
5型感染症になりましたがインフルエンザよりも感染力が高く、高齢者やワクチン未接種者では重症化率も高いため、感染の拡大には一定の歯止めが必要です。雨の降る日には傘をさすように、人混みの中では余計な飛沫を吸い込まないようにマスクを付けることはコロナ禍前から普通に行われていました。新型コロナウイルには持続感染による心血管系や神経系への影響、EBウイルスなど他の持続感染ウイルスの再活性化への関与などまだ十分に解明されていないリスクが潜んでいます。不用意に感染してしまうことは健康にとって非常に損をしていることになります。基本的な感染対策である手洗い、うがい、人混みでのマスク、定期的な換気、油断なく実行したいと思います。

須坂腎・透析クリニック
  


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2023年12月25日

令和5年師走の下旬〜季節に追いついた外気温


2月も中旬を過ぎてやっと冬らしい気温になりました。今年の降雪は昨年より遅め、南天の葉の上の雪も昼過ぎには溶けてなくなりました。




北陸地方では交通が遮断されるなど被害が出た今回の冬将軍、幸い此方では数センチ積もるだけの雪でピークを越えました。




12月初旬、名残の紅葉。夜のヤマモミジ。




雨後のサンシュユの実、今年は豊作です。




白樺とユキヤナギの紅葉。




透析患者と高リン血症
先月は低リン血症に付いてふれ、ミネラルの過不足と心電図変化について説明しました。実際のところ血清リンに関してむしろは高くて調節が必要なケースの方が多いと言えます。腎臓が正常に働いていれば余分なリンは尿中に排泄されて血中濃度が上昇することはまずありません。カルシウムやリンは腸管からの吸収、腎臓からの排泄、両者の貯蔵庫とも言える骨での代謝の三つ巴で調節されています。腎機能低下によるリン排泄の低下はこれらの相互作用に関わる様々なホルモンに影響し次第に調節のバランスが崩れて行きます。

高リン血症が困る理由
・異所性石灰化:動脈硬化、心臓弁膜症、関節・皮膚の石灰化
・二次性副甲状腺機能亢進症の促進:骨が脆くなる(腎性骨異栄養症)

腎機能が一定以下となった透析患者では排泄されない分だけリンが体内に溜まりやすくなり、高リン血症は全身の様々な組織に異常な石灰化を引き起こします。その結果、動脈硬化の進行、心臓弁膜症の悪化、関節痛や可動域制限、皮膚の頑固な痒みが生じます。また高P血症を放置するとカルシウムとリンのバランス調節に関与する副甲状腺ホルモンの分泌が亢進し骨からミネラル成分が過剰に溶け出て骨が脆くなる「腎性骨異栄養症」を誘発します。

リンを上げないために
1. 効率の良い透析を行う
 透析によるリンの除去には限界がありますがなるべく効率の良い透析を行うことで除去量をアップし、食事制限を緩やかにすることが出来ます。

2. 便秘を回避する
 便秘の改善によりリン値が低下する報告もあり、排便コントロールも考慮すべき項目です。また後述するリンの吸着薬の中には便秘になりやすい薬もあるため吸着したリンを速やかに体外に排泄させる意味でも重要です。

3. リン吸着薬を使用する 
 リンは食事に含まれており消化管で吸収されます。リンが吸収される前に捕まえて(吸着)便とともに体外に排泄させる薬をリン吸着薬と言います。血中カルシウム濃度に影響するカルシウム製剤と影響しない非カルシウム製剤に二分され、透析前のカルシウム濃度を加味してどちらを使用するかまたは併用するかを決めます。薬により食直前に内服するものと食直後に内服するものがあります。

4. 食事に注意する
 リンは主に蛋白質の摂取で上昇します。一方で蛋白質は筋肉や血液を構成する大切な成分でもあり必要量をしっかりと摂取することも大事です。リンは大きく分けて二つあります。
1. 有機リン:肉や魚、卵など蛋白質の構成成分
2. 無機リン:発色剤、防腐剤、増粘剤など食品添加物の成分
有機リンの消化管からの吸収率は50%前後ですが無機リンは90%以上と高率に吸収されます。従ってなるべく無機リン≒添加物を含まない蛋白質の摂取が望まれます。





加工肉であるウインナーやハムはどうしても含有リン値が高くなってしまいますが、ウインナーを切ってから茹でるとリンが湯に溶け出るため摂取リン量を減らす工夫になります。この場合ゆで汁は飲まないように。またインスタント麺もリンが使われていますが、麺のゆで汁は捨てて別に用意した湯でスープを仕立てることでリンを押さえることが可能です。加工肉や練り物は食べていけない食品では無く、量を少なく、また摂取するリン量を抑える工夫をしていただくと考えてみては如何でしょうか。血中リン値が上限に近い場合はヨーグルト、牛乳、プロセスチーズはやめて置いた方が無難です。むしろリンが低値の方は食事の中に組み入れても良いでしょう。

更にビールや清涼飲料水、栄養ドリンクといった飲料は色の濃いものほど含有するリン値が高い傾向にあります。清涼飲料水の種類によっても含有するリン値は随分違うため注意が必要です。







今月の治療指標の達成度です




透析医会、当院独自指標とも大きな変化はありません。年末年始が近いせいかリンが急に高くなったり、週半ばの体重増加急激に増えたりするケースが散見されました。たまに羽目を外すのは良いのですが、くれぐれも重なり継続しないようにお願いしているところでもあります。



青空に映えるサンシュユの実。



逆光に映える寒椿




令和5年(2023年)もあとわずか、残暑から続いていた季節外れの気温もやっと時季に追いついてきたようです。降雪量は少なめを希望します。

令和6年辰年も皆様にとってご多幸でありますように。


須坂腎・透析クリニック

  


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2023年11月23日

霜月の色


11月初旬のクリニック玄関脇、手前はジューンベリー、奥はハナミズキの紅葉。ジューンベリーは新しく伸びた枝の葉はまだ緑色で下方の常緑樹とともに配色のコントラストが綺麗です。



中庭ではギボウシの紅葉が見事。



青空に伸びる紅葉も絵になります。


11月下旬となり初雪も降りました。落葉が進み景色もやや寂しくなりますが、まだ彼方此方にこの時期ならではの色が残ります。

名残の小紫。



今年は実の付きがまばらな南天。



鉢植えのピラカンサ。



ひっそりと咲くサフラン。



寒椿のつぼみと花。

もうすぐ雪が降り限りなく色合いが減るであろう中庭に霜月の色を探してみました。



透析患者と低リン血症

本来腎臓から排泄されるカリウムとリンは腎機能の低下した透析患者では血中の濃度が高くなり易く、十分な透析量を確保するとともに食事制限や吸着薬で上限を超えないようにコントロールします。カリウムに関しては心臓の電気的活動に直結しており、特に高カリウム血症は時に即時心停止のリスクがあるため注意が必要です。また低カリウム血症も心臓の機能に悪影響を来すため透析後の採血で3.0mEq/Lを下回らないように生野菜や果物の摂取を勧める、食思不振の際には透析の効率を下げるなどして対応しています。一方で高リン血症はただちに自覚症状が出現しないため高カリウムほど即時対応の必要性は高くないのですが、継続すると血管の石灰化→動脈硬化、左室肥大、痒みの悪化と身体への様々な悪影響を来すことが明らかとなっており適正内でコントロールすることが大事です。また高リン血症が長引くと二次性副甲状腺機能亢進症も悪化し、やがてホルモン分泌細胞の薬物感受性が失われ外科的治療の対象にもなってしまいます。
逆に低リン血症は身体にどのような影響をもたらすのか、心電図所見との関連から低リン血症も回避した方が良いことが11月12日松本市で開催された第71回長野県透析研究会(大会長:長野市民病院腎臓内科、掛川哲司先生)の特別講演会で東邦大学の常喜信彦先生から興味深い知見とともに示されました。




(日本透析医学会会誌より)

以前より血清リン値は栄養指標と相関し蛋白質摂取量を示すnPCR、筋肉量を示すクレアチニン、栄養指標のアルブミン、適正体重の指標BMIと正の相関を示すことが明らかにされています。つまりリンが低い場合は低栄養状態が存在する可能性があります。常喜先生の講演ではカリウム同様にリンも心電図に影響し高リンも低リンも悪影響を与える可能性が高いことに言及されました。心臓の筋肉が興奮する脱分極と元に戻る再分極の二相のうち、再分極にあたる期間は電気的刺激に敏感でこれが長くなると不整脈が発生するリスクが上がります。



これを心電図上QTc時間といい500msec以上、変動幅60msec以上が危険域とされます。高リン血症同様に低リン血症(P<1.3)でもQTc延長のリスクが指摘されリンの下げすぎは体にとって良くない可能性が示唆されました。ちなみに低カリウム血症、低カルシウム血症、低マグネシウム血症でもQTcは延長します。リンもカリウム同様に上下至適範囲に調節する必要がありそうです。



今月の治療指標の達成度です。




新規導入の方が複数編入となりKt/VやPTHに若干の影響が見てとれますが、全体としては先月と比較し概ね変化はありませんでした。当院ではカリウムやリンなど主要なミネラルのバランス以外にマグネシウムや亜鉛などの微量元素についてもモニターを行い必要に応じて補正を行っています。




11月12日長野県透析研究会が開催された信州大学医学部の敷地での一コマ、イチョウの絨毯。



夕陽を浴びる白樺。




常緑樹ツゲの生垣に落ちた落葉、遠近法の構図で。少し幻想的な絵になりました。


先日、休日診療の当番で診療を行いましたがほぼ発熱外来でした。40名弱の受診者のうち6割強がインフルエンザA型、1割弱が新型コロナ抗原陽性でした。それ以外は急性胃腸炎または発症から間もなく抗原偽陰性が疑われるケースが散見されました。報道でも取り上げられていますが呼吸器系の処方薬に出荷制限がかかっており、鎮咳薬、去痰薬、解熱薬、抗ウイルス薬の流通量が低下して必要な処方が受けられない状況も出てきそうです。
基本的な感染予防対策を行い
「なるべく感染しない」「なるべく感染させない」行動と配慮が必要に思います。


須坂腎・透析クリニック
  


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2023年10月22日

暑くても寒くても透析間体重は増加する、季節の境目の気温落差


夏の名残にしては気温が高かった2023年の9月。ところが10月に入った途端に朝夕の気温が下がり急に肌寒くなりました。先月のブログでは毎年同じ頃に同じ順番で花芽が形成されるリコリスの開花リズムが変化した事に触れました。



風下に立つと良い香りが流れてくる金木犀、リコリスと同じく今季は金木犀も開花のリズムが変調していました。10月初旬に一部が開花して香りを楽しむ間もなく散ってしまいましたが下旬となり例年並みの開花となりました。今日も良い香りが漂っていました。




この場所のリコリスは例年9月中旬に開花し10月には花茎だけになってしまいますが今年は10月中旬に開花しました。今年は花を見ることが叶わないと半分諦めていたため少し嬉しい気分です。



先月は残暑の影響で涼を求めたり、屋外での作業で必要以上に水分を摂ってしまったりと暑さと水分摂取過多による透析間体重の増加について触れました。10月に入り涼しくなってきたため、体重増加は落ち着くだろうと想像していました。しかし実際はむしろ増加が多くなったケースも散見され原因を考えてみました。
透析間の体重増加が多くなった何名かに食生活で変化が無かったお聞きしたところ・・・


寒くなると食卓に上がる率が多くなる鍋物や汁物、これらの摂取が原因の一つとして考えられました。多くの種類の食材を摂取できて体も温まる、これからの時期には嬉しい料理ですが透析患者さんにとっては2点留意して欲しいポイントがあります。
1. 具を食べて汁は残す
具材のお出汁が出て旨味たっぷりの汁ですが、取り過ぎると水分過多になります。具材にも汁気が入るため余剰な水分を避けつつたっぷり栄養を摂るためには汁はなるべく残しましょう。
2. 練り物・加工食品に注意
ちくわ、かまぼこ、はんぺん等、練り物は製造過程で多くの食品添加物を使用します。その食品添加物には無機リンが含まれており透析患者さんのリン高値の原因になりやすい食材です。練り物や加工肉を避けてタラの切り身、エビ、鶏肉、豚肉など純粋な蛋白源を具材としてみると良いでしょう。


今月の治療指標の達成度です。




秋は本来過ごしやすい時期ですが今年のように寒暖差が大きいとむしろ体調が安定しないと感じる方も多いと思います。治療指標を見る限り栄養状態に大きな変動は見られませんでした。個別のデータでは栄養状態が改善傾向の人、横這いの人、少し悪くなっている人を様々です。検査結果の説明回診では個別に主食(主なカロリー源)、副食(蛋白質)、野菜や果物(カリウム関係)に分けてどの部分が足りていなくて(或いは過剰)、何を食べる(或いは減らすと)とバランスが良くなるかお話ししています。


ヤマモミジの木陰の咲く白いリコリス。



今季、一番最後まで咲いていそうな陽だまりの赤いリコリス。


今年はインフルエンザの流行が早めに始まり、当院でも透析患者さんの予防接種を10月中旬に行いました。新型コロナウイルス感染症はすっかり報道から消えましたが散発は継続しています。インフルエンザウイルスとの違いは次の2点に要約されます。
1. 高い感染性
2. 呼吸器以外の細胞への感染


1. のため流行するとあっと言う間に多くの人が感染し、2.のため呼吸器感染症は軽症で経過してもlong-COVIDと呼ばれる後遺症を抱えてしまうリスクがあります。感染者数が多ければ後遺症が残る人数も増えるため、現時点においても
「かからない」
「うつさない」
「かかっても軽症で済み後遺症をのこさない」

ことが大切です。ワクチン接種が推奨される理由もまさにここにあります。

須坂腎・透析クリニック
  


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2023年09月26日

リコリスと体重増加に見る残暑の影響


毎年9月中旬になると花茎が地面から顔を出し、あっというまに伸びて美しい造形の花を咲かせる彼岸花、園芸名リコリス。



日陰の個体は概ね例年通りに開花しましたが毎年真っ先に開花する黄色のリコリスは未だ沈黙しています。直射日光が当たる場所のため高い気温が花茎の分化・成長に影響を与えているのかもしれません。それほど今年の夏は暑かったのかもしれません。



一方で小紫は順調に色付き始めました。


確かに今年の気温は過去に比べて飛び抜けて高かった様子です。気象庁が発表した「日本の夏の平均気温偏差」は+1.76でこれまで最も高かった2010年の1.08を大幅に上回りました。

「ウェザーニュース」より



「ウェザーニュース」より
11月までの3ヶ月の平均気温も高い状態が予想されています。暑い日が続いたためか9月に入っても飲水量が多く透析の除水調節をしなければならないケースが多かった印象です。

末期腎不全では十分な尿量を確保出来ないため透析により過剰な水分を除去します。その目標となる体重をドライウェイトと言います。またドライウェイトが適切でも透析間の体重増加が多いと血圧が乱高下してしまいます。除水目標としての「体重」透析間の「体重」増加、このふたつの「体重」という言葉をきちんと分けて考える必要があります。


透析にまつわる二つの「体重」

透析患者の
・血圧が高い
・浮腫がある
・レントゲンで心臓が大きい(心胸郭比が大きい)
・体内の水分量=心臓の負担を現す数字(hANP)が高い

これらの場合「ドライウェイトを下げましょう」と提案します。箇条書きにした項目は何れも体内の水分量が相対的に高い状態で生ずるために、その改善には体内の水分量を適切に下げる必要があります。では透析患者における体内の水分量はどのように規定されているのでしょうか、それを決めるのがドライウェイト(乾燥体重、基準体重)です。ドライウェイトは体内の水分量が過不足ない状態の体重と規定され透析終了時にその体重になるように除水します。



さて、血液透析では本来腎臓が果たす「尿を作る」行為をかわりに行います。
「尿を作る」とは、
1. 体内に貯留した水に溶ける老廃物を尿として排泄する。
2. 体内に貯留した余計な水分を尿として排泄する。

ことを意味します。末期腎不全では腎機能が一定レベル以上に低下し「尿を作る」事が出来なくなるため、血液透析により血液中から直接尿毒素と余分な水分を除去することになります。この「余分な水分の除去」が1回あたりの透析で除去すべき水分の総量「除水量」です。「除水量」は概ね透析間の「体重増加」量に相当し、飲水量がその大部分を占めます。この時、どれだけ除水するか決めるために必要なものが「ドライウェイト」になり、ドライウェイトからの増量分だけ除水することになります。



今季の様な酷暑の影響で食欲が低下すれば当然痩せます。痩せるとは不足した栄養を補うため体内の脂肪や筋肉が栄養に転化され、それらの重量が低下することを言います。腎臓が正常に機能していれば低下した筋肉や脂肪の重量分に相当する水分は体外に自動的に排泄されます。透析患者ではこの自動調節が働かない、つまり体重がドライウェイトに固定されているため、痩せて低下した筋肉や脂肪の分だけドライウェイトも下げないと相対的に水分過剰となってしまいます。従ってドライウェイトを下げると言うことは体水分量を下方修正することになります。言い換えれば除水の目標値が下がるということです。



ドライウェイトも除水量を規定する体重増加も同じ「体重」という言葉を使うため、ドライウェイトを下げることを提案すると飲水量が多いと指摘されていると勘違いされてしまうケースが多いと感じます。あくまでも飲水量が関係するのは透析間の体重増加であり、飲水コントロールが適切な場合でも経口摂取が低下すれば痩せた分だけドライウェイトは下がることになり、逆に太ればドライウェイトを上げないと体水分量の相対的不足から血圧は下がり気味になってしまいます。
また、ドライウェイトを下げると痩せて元気がなくなると訴える方も時折みかけます。「体重の設定を下げる」=「痩せる」と捉えてしまっていることが原因です。これまで述べてきたようにドライウェイトを下げるのは「痩せてきた結果」に対する調節であり、変化するのは体内の総重量の内水分の重量だけなので筋肉や脂肪の量はドライウェイトの下方修正では減ることは決してありません

水分の取り過ぎによる「体重」増加=除水量の増加と適切な体水分量野目安である乾燥「体重」=ドライウェイトは正しく分けて考えることが大切です。


今月の治療指標の達成度






透析医会の指標では血清Pのコントロールが良好な一方でiPTHが上昇するケースが散見されました。極端な上昇を見せた数例では即時使用薬剤を変更・調節するなど対策済みです。当院独自指標では朝夕涼しくなってきたためか栄養指標の改善がみられました。
来月より定期検査の項目を見直しいくつか変更する予定です。体水分量の指標となる透析後hANPは2ヶ月に1回でしたが毎月測定とします。血清Mgは低めの方が多く、積極的な補正を開始するに当たり2ヶ月に1回と測定頻度をアップします。中分子物質の除去量の指標となるβ2MGは3ヶ月に1回に減じます。



夏の花、百日紅は旬を過ぎて名残の時期です。


オミクロン株の派生型「XBB1.5」に対応する新型コロナワクチンの今季接種が開始されています。ウイルスによる重症肺炎の頻度は減りましたが、高齢者や持病を持つ方では未だ季節性インフルエンザ以上の死亡率であり、その季節性インフルエンザの数倍の感染力を保持することを考えると個人個人のリスクに応じた対策が必要です。mRNAワクチンは
1. 罹患回避
2. 重症化回避
3. 後遺症回避

何れにも有効であることが証明されており高リスク者や医療関係者は基本的に接種が必要と考えます。当院では10月初旬にインフルエンザワクチン接種を、接種券が届き次第10月中旬までには新型コロナワクチンの7回目接種を予定しています。



ミニバラ

今夏は7月が夏の「はしり」、8月が「さかり」、そして9月は「名残」と濃厚かつ散々に味わえて少々食傷気味です。これではますます「秋」が短くなり紅葉も中途半端に冬入りしそうです。四季の構成がずいぶん曖昧になってきました。いずれにせよこれからが季節の変わり目、体調管理に留意したい季節です。

須坂腎・透析クリニック



  


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2023年08月26日

お盆を過ぎても酷暑が続く夏


夏の花、ノウゼンカズラ。彩りの少ないこの時期の庭を飾る数少ない花です。



お盆を過ぎて朝晩は涼しげな風を感じるようになりましたが、日中の35℃を越える酷暑はそれだけで体力が削り取られる様です。百日紅の花付きも例年より寂しげな感じです。


比較的最近に血液透析を導入された患者さんから、お腹の調子が悪い時にこの薬を飲んでも良いかと相談がありました。実際にその市販薬を持参して頂いたところ成分に「スクラルファート」が配合されており、透析患者は飲んではいけない(服用禁忌)に相当する薬でした。スクラルファートにはアルミニウムが含まれており、透析患者ではアルミニウムの蓄積により関節や脳に悪影響が生ずるため避けるべき成分でした。

腎不全の方に内服薬を処方する場合、
1. 腎機能が正常な場合と同量で処方が可能
2. 腎機能に応じて減量して処方
3. 処方そのものが禁忌
このようにおおまかに3種類に分けることが出来ます。


内服した薬の成分は肝臓で代謝され胆汁中に排泄されるか、腎臓で濾過され尿中に排泄されるかいずれかの経路をとります。肝排泄が主体の薬は腎機能が低下していても減量の必要はありません。腎排泄性の薬は腎機能が低下すると排泄されにくくなり血中濃度が上昇するため減量ないし投与禁忌となります。いかなる薬も薬効を期待出来る濃度域があり、それを下回ればでは効果は減少し、逆に上回れば副作用のリスクが高まる=体にとって毒として作用することになります。


またアルミニウムなど透析患者では少量でも脳や骨代謝への影響が強い成分を含有している場合は禁忌です。抗生物質は種類によって減量不要〜要減量と扱いが異なり、他科受診の際に減量が必要な抗生剤を常用量で処方される場合も散見されるため、当院では処方箋を薬局で処方薬に引き換える前に処方内容を確認するように努めています。薬局から直接疑義照会が入る事もあります。


腎不全患者に処方する場合の容量については本が1冊出版されるくらい複雑であり注意が必要です。


また処方薬に限らず市販薬や置き薬も同様な事が言えます。一般的な市販薬は肝臓や腎臓の機能が正常であることを前提に製造されています。そのため説明書には「持病のある方は医師と相談の上で内服を・・・・云々」の注意書きが記されています。特に胃腸薬では制酸剤としてアルミニウムを含有する製品が多く透析患者は使用禁忌です。「正露丸」は飲みやすく表面をコーティングした糖衣錠のみアルミニウムを含むため使用禁忌と剤型によって異なるケースもあり、使用する前には必ず医師に相談して欲しいと思います。

他にも胃酸を中和する目的で「重曹=炭酸水素ナトリウム」を慢性的に服用した結果、血液中の酸塩基バランスが乱れて頭痛が悪化したケースもありました。末期腎不全では代謝の結果生じた酸が腎臓から排泄されず血液は酸性化します(代謝性アシドーシス)。これを補正するために透析では血液をアルカリ化するため重炭酸イオンを透析液から血液側に補充します。末期腎不全の人が重曹を慢性的に服用すると、重炭酸イオンが貯留し透析前から血液がアルカリ化(代謝性アルカローシス)され、透析中に重炭酸イオンの補充を受けて透析後は更にアルカリ化が進みます。すると呼吸性代償が働き二酸化炭素が貯留し血液を酸性に戻そうとします。貯留した二酸化炭素は血管を広げる作用があり特に頭蓋骨により容積が限られた頭蓋内の血管拡張は頭痛の原因になります。過度な血液のアルカリ化は骨代謝にも悪影響を与えるため是正が必要です。処方薬に限らず市販薬や重曹といった身の回りにあるありふれた物質も腎不全時には使い方によっては毒になる危険性があり、慎重な対応が求められます。


8月の治療指標の達成度




透析医会の指標は全て90%以上の達成率、当院独自指標も大きな変化はありませんでした。酷暑が続き食思不振から痩せた方も散見されました。食思不振があり特に体水分量≒心臓への負担の指標となる透析後hANPが高めの方は、胸部単純における心胸郭比や血圧に大きな変化が無くてもDWを下方修正しました。また食欲がないため果物の摂取が増えた方の中にカリウム値が上限を超えるケースも目立ちました。食欲低下は熱中症の初期症状でもあります。暑い日はまだ続きそうな予報です、適切な室温管理と偏りの無い食生活への留意も継続が必要です。




切り戻した桔梗が再度花を付けました。何故か二度目は桔梗色の割合が多い花弁です。



コムラサキの実にまばらに色がつき始めています。

お盆を過ぎて新型コロナの定点観測数はやや増加、今後の推移が気になります。当院では患者もスタッフもきちんと予防接種を施行しているため重症化例のリスクは低いと判断しています。しかし感染力の高さを侮ると集団感染が生じそこから中等症以上の症例を出してしまう危険性は尚高く、ガードを下げない取り組みを継続します。同じくお盆を過ぎて朝晩は過ごしやすくなってきました。しかし9月中旬までは残暑が続く予報、室温管理、体調管理はもうしばらく注意が必要です。


須坂 腎・透析クリニック

  


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2023年07月30日

猛暑襲来、食欲低下は熱中症のはじまり


毎年葉は立派に萌出するも中々花芽をつけなかったグラジオラスが今季は開花。地上高160cm程の高さになり添え木が必要です。




盛夏の象徴ノウゼンカズラ。




紫陽花は盛りを過ぎて名残の花となりました。




年々色素が薄くなる桔梗、今年はほぼ白色のみの固体が多く咲いています。




わずかに色を残す固体。



いよいよ梅雨明けとなり暑さも本番です。熱中症による救急搬送事例も毎日のように報道されています。熱中症は高温多湿な環境下で体温が上昇し体温の調節機能がうまく働かなくなることで生じます。発汗と水分補給のバランスが崩れて体内の水分や塩分が不足する「脱水」を伴うことが多いとされますが、猛暑日など過酷な環境下では水分を十分に摂っていても熱中症を発症してしまうことがあります。


一般的にヒトは1日1.5〜2.0Lの尿を排泄するのに対し、透析患者さんでは尿量が減少〜無尿となるため健常者に比べて水分補給の必要性は少ないと言えます。体内の水分量が過不足無く適切な状態としてドライウェイト(DW)が設定されるため、理論的には体重がDWを下回らない限り積極的な水分補給は不要です。透析患者さんが沢山の汗をかいた後で水分補給が必要どうかを判断するには体重測定が大切です。体重がDWよりも多ければ体内の水分は十分に足りており追加の補充は不要です。DWを下回っていればDWまでの差分を参考に飲水をすると良いでしょう。例えばDWが50.0kgのヒトの発汗後の体重が49.5kgならば0.5kg分の水分(比重1として)0.5Lまでは水分補給を追加しても良い事になります。ここで大切なことは先にも触れた通り熱中症は脱水が無くても発症すると言う点です。透析患者さんが高温多湿な環境下で過ごした結果、体調不良を感じた場合(症状は図を参照)


体重がDWを下回っていれば適切な分量の水分を補給しますが飲み過ぎは心臓の負担となるため注意が必要であり、水を沢山飲んでもそれほど体全体は冷却されません。体重がDW以上であれば水分補給の必要性すらありません。その場合は冷房の効いた涼しい屋内で体全体を冷やす、更に扇風機で体表面の熱を飛ばす、首の周りや脇の下、足の付け根に冷却剤を置いて冷やす、可能であれば常温〜ぬるま湯のシャワー浴をする等、体全体を効率よく冷却することが効果的で安全です。

熱中症の予防策として
1. 暑さを避ける
屋外では炎天下の外出・屋外での作業は控える、日傘や帽子、クールタオルを活用
屋内では室温28℃を目安にエアコンを使用、扇風機・カーテンやブラインドを有効に利用
室温の目安は設定温度ではなく実測温度→温湿計を身近な場所に置きましょう

2. 体表面からの熱の放散を十分に
通気性の良い、吸水性・速乾性のある素材の衣服を選択

3. 普段からの体調管理
睡眠、食事を十分に

特に高齢の方は暑さを感じる感覚や口渇感が若い頃と比べて鈍化しており、知らず知らずに熱中症になってしまうケースが多く報告されています。夜間にエアコンを切って就寝し夜半に熱中症を発症するケースも多いとされます。エアコンを嫌う方も散見されますが直接冷風に当たらない、扇風機を併用して室内の空気を循環させるなど対策をして24時間通しで室温管理をすることが安全です。



2023年7月の治療指標の達成度



透析医会の指標は何れも90%を越えました。ビタミンD製剤の出荷調整でPTHのコントロールが一時期乱れましたが、供給の安定化とともに落ち着いて来た感じがします。梅雨が明けて連日猛暑日が続きます。高温多湿の日々が続くと特に高齢者で栄養指標の低下が目立ちます。冷房を嫌う方も多いですが、この外気温では室内での熱中症発症を予防するためにも適切な冷房の使用が望まれます。



5類に移行し数ヶ月が経過した新型コロナウイルス感染症です。毎週水曜日に公表される定点観察の結果も右肩上がりとなり静かな感染拡大を感じます。


透析患者やその家族、スタッフの家族にも感染者が出始めており、隔離透析、出勤停止など感染対策も再稼働しています。新型コロナのパンデミック前はインフルエンザが流行れば手洗い・うがい・人混みでのマスク、定期的な換気など普通に行っていました。現在ではマスクをする・しないの二極論になってしまい、必要な人が必要な時に装着するという当たり前の判断がうまく出来ていない印象です。オミクロン株以降は重症肺炎の発生は希となりましたが、神経系や血管内皮への感染が証明されるなど普通の風邪とは明らかに異なる感染リスクを有していることは明らかで、long COVIDや心血管系の持病悪化など感染したら絶対的に「損する」感染症です。以下は岐阜大学神経内科下畑先生のスライドをお借りしました。



ワクチンを含む感染対策が有効なことも事実であり冷静に対応することが現時点でも大切であることに変わりはありません。




ギボウシも開花。



開花の進むグラジオラス。




最後の花影で涼を取る?カマキリの子


皆様が健やかに酷暑を乗り切れますように、暑中お見舞い申し上げます。

須坂 腎・透析クリニック
  


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2023年06月28日

空梅雨でも紫陽花は梅雨の景色


昨年よりもやや遅れ気味の開花でしたがこの時期の風物詩、紫陽花が見頃になりました。



まだ蕾の株



薄く色付き始めた株




赤味の強い株




青みの強い株




更に青みがかった株




華やかな額紫陽花


クリニックの中庭だけでも様々な開花様式が楽しめます。経時的に色調が変化する株もあり、ジメジメと鬱陶しい梅雨の季節に一服の清涼剤的な存在感を示します。とはいっても今季は雨量が少なく今のところ空梅雨の雰囲気です。



紫陽花以外にも初夏を告げる花がこちら。

シャラの木またはナツツバキ。大きめの蕾は「翡翠玉」とも呼ばれ成熟すると肉厚の白い花弁が開きます。一夜花とも呼ばれ開花して1日で落ちてしまいます。




雨露に濡れて咲く姿も清楚で品があります。




透析中の運動療法
透析中に何らかの運動を行う事で、
1. 下肢筋肉量の増加
2. 透析効率の改善
3. 循環動態への好影響
4. 下肢の攣りの抑制効果
等の効果が期待され多くの透析施設で実施されています。当院でも開院した年から希望された方にベッド上でのペダル足こぎ運動を行ってきました。



来月より透析時の運動療法を更に充実させるため低周波をベルト式電極で筋肉に伝え、下肢全体の筋収縮を起こすことで随意運動の代用とするG-TESを導入します。

透析を行う4〜6時間中の20分程度の施行となります。当院には「透析患者の運動移動に関わる研修」を受講した看護師が2名おり、個々に合わせた運動計画を策定しながら徐々に適応患者を増やしたいと考えています。



過日1号機が納入されました。




今月の治療指標の達成度です。




気温が高くなってきましたがまだ過ごしやすい時期です。猛暑による暑気あたりを防ぐためにも今からしっかりとした食事摂取を推奨します。
腎不全で留意が必要なミネラルの筆頭がカリウムです。腎臓から99%排泄されるため腎機能が低下すると蓄積して高値となりやすいのが特徴です。このカリウムの細胞内外での濃度差(電位差)で心筋を収縮させるペースメーカー電位が発生するため、特に高カリウム血症では電位の消失=心停止となるリスクがありカリウム制限が必要な理由となります。一方で透析が始まるとカリウムは一定量除去されるため制限が強いとむしろ低カリウムとなりこれはこれで不整脈や心機能低下の誘因となります。当院ではカリウムに余裕があるケースがほとんどなので、これから旬を迎える夏野菜や果物は可能な範囲で楽しんでもらいたいと思います。その際の注意点は一度の食事で大量に野菜や果物を摂らないことです。人体には血中カリウムの濃度が急上昇しないようにブレーキを掛けるシステム(バッファー)があります。緩やかなカリウムの上昇であればこのシステムで問題の無い範囲にカリウム濃度が制御されます。しかし短時間に多量のカリウムが負荷されるとバッファーの許容範囲を超えてしまい、心臓に影響を及ぼすような高カリウム血症が誘発されるリスクがあります。一度の食事で沢山摂らず、1日に食べる分を三等分して三度の食事で小分けにして頂く方法がお勧めです。また血糖値の高い方の果物摂取は空腹時に摂ると血糖値が急上昇するため、毎食のデザートの位置づけが最適です。




コムラサキの花、秋の実が特徴ですが花も紫色をしています。




南天の花、こちらも冬の赤い実が特徴ですが、雨滴を纏う花も情緒があります。




足許にはホタルブクロ、多年草で毎年この時期に顔を出します。



当院ではほぼ全ての透析患者およびスタッフの6回目の新型コロナウイルスワクチン接種が完了しました。5類に移行しても医療施設内はノーコロナが要求されます。インフルエンザウイルスと異なり気道系のみならず神経系や血管内皮への持続感染例が明らかとなっており、一般社会においても罹患することは人体にとってかなり「損」をすることになります。

以下、岐阜大学の下畑先生のFBから引用です。
・COVID-19罹患はアルツハイマー病のリスクを2倍程度上昇させる.
・認知症のリスク因子として,高齢者,重症感染,3ヶ月以上の嗅覚障害がある.
・軽症感染でも(気が付かないだけで)高次脳機能に影響が生じている可能性がある.
・軽症感染でも脳血管に炎症が生じうる.
・高齢者では感染後,眼窩前頭皮質の萎縮や機能障害が生じうる.
・嗅球から眼窩前頭皮質までの嗅覚伝導路にウイルス感染や炎症の伝播が生じうる.
・神経後遺症の機序として,ウイルスの持続感染が重要視されている(咽頭のPCR陰性は全身のウイルス消失を意味しない)
・ワクチン接種はlong COVID予防・治療に有効である.
・抗ウイルス薬の長期間投与がlong COVID治療に有効かどうかが注目されている.
・COVID-19から脳を守ることを啓発する必要がある.

https://onl.sc/c13tGae

「かからない」、「うつさない」気遣いをしながら日常生活を送りたいものです。

須坂 腎・透析クリニック

  


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