2021年08月30日

出口戦略と隠忍自重

出口戦略と隠忍自重
お盆を過ぎて少し朝晩が涼しくなってきました。さすがに日中は30度を超える日が続きますが何気に空が高く見える日もあり、涼しげな夕風が吹き抜けると遠くに秋の到来を感じます。


出口戦略と隠忍自重
クリニック中庭でこの時期に咲く花は百日紅と凌霄花。彩りが少ないこの時期の庭には貴重な存在です。



出口戦略と隠忍自重
(Yahoo newsより)
今月は中国武漢由来の新型コロナウイルスの第5波が拡大し非常事態宣言や蔓延防止等予防措置の適応自治体も増えました。より感染力が高く、より重症化しやすいインド型(δ)株が蔓延し感染抑制のため人流を最も抑えなければならない局面で五輪が開催され、国民の感染対策への意識が最悪のタイミングで箍を外される事態を招きました。五輪と感染拡大は関係ないと言い切る五輪や政府関係者の発言は到底納得の出来る内容ではありません。

以下、岐阜大学医学部下畑亨良教授がFacebookにアップされていた文章を引用します。
『「五輪開催と感染拡大は無関係」と責任ある立場の人々が発言している報道を目にしました.海外は日本をどのように報道しているのかと思い,Time誌を眺めていたところ,Japan's COVID-19 Strategy Relied on Trust. Holding the Olympics Shattered It at the Worst Possible Timeという記事が目に止まりました.「日本のCOVID-19戦略は政治や行政に対する信頼に基づいていた.五輪開催は,それを最悪のタイミングで打ち砕いた」という意味です(https://bit.ly/3jTtrTd).つまり緊急事態宣言のようなソフトロックダウンを従順に守ってきた国民を裏切る行為だったと述べています.信頼を失った今,従来のように国民に自粛を求めるだけの対策ではもはや感染は制御できないと思います.記事には「国民も医療システムも疲弊している今,日本はパンデミックの致命的な新局面に直面している」と書かれてありました.感染拡大を止めるため,我が国のすべての叡智を結集することが求められていますし,私たちもどうしたら政治と対話し,動かすことができるのか考える必要があると思います.』


医療崩壊の報道とともに医療体制の不備を指摘する論調も出てきました。病床確保は確かに大切ですが毎日全国で数千名の感染者が発生すればその10%は中等症以上に悪化する可能性があり、どんなに重症病床を確保しても野戦病院を設置してもカバーできません。病床確保は感染抑制と対で取り組まなければ無謀の限りです。

感染抑制を有効に進めるには有事法制がないわが国においては現時点で国民一人一人の自覚と行動に頼らざるを得無い割合が大きいと言えます。
1. ワクチン接種率の向上
2. 密を避ける行動変容の持続


国はこれに応え
1. 柔軟で効率的なワクチン接種機会の付与
2. 自粛内容の細分化(飲食店への一律規制の撤廃)

と共に
3. 抗体カクテル療法の適応拡大、使用制限の緩和
4. 診療報酬枠にとらわれない有事病床の確保

が求められると思います。

ワクチン接種率の推移
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東洋経済Onlineより

ワクチン2回接種者がやっと40%を越えて来ました(先月は23.1%)。40〜50代の重症者や20代以下の感染が明らかに増えている現状では接種可能な全年齢層への接種促進が望まれます。東京で始まった若者への予約無し接種会場が非常に混雑している記事を目にしました。IT後進国のわが国と言えせっかく感染予防に前向きな若者を失望させないように、オンラインを活用した予約や接種会場への誘導が今後充実されることを期待します。



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3学会(日本腎臓学会、日本透析医学会、日本透析医会)感染対策合同委員会より
透析患者でも全体の死亡率が16%に対してワクチン2回接種した場合は2.6%まで低下しており重症化予防にかなり有効である結果が出ました。また抗体カクテル療法(ロナプリーブ®)を使用したケースでは例数は少ない物の死亡者は出ていません。当院でも透析患者さんはほぼ全員が2回の接種を完了しました。現在は患者さんの同居家族で未接種の方への接種を準備しています。



8
月の治療指標の達成度です。
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酷暑による食欲低下から例年この時期の栄養指標が年間最低値を示すことが多い印象です。今年も若干の低下を認めましたが有意差は無く涼しくなるとともに回復することを期待します。
血清リンの高い方が増えるのは8月後半と1月中旬盆、いずれも普段とは違う料理を食べる機会が多いようです。盆と正月とは良く言った物で現在においても日本人にとっては特別な期間なのでしょう。
当院は感染治療の最前線とは距離がありますが罹患すると重症化しやすく死亡率の高い腎不全患者の治療を担当しています。社会におけるワクチン接種率が十分に上昇しロナプリーブ®(抗体カクテル療法薬)など治療薬の配備が確実となるまでは、ガードを下げる事無く感染予防に留意して普段の透析管理も従前通り全力で対応したいと考えます。



4月に透析血管用のエコーを新規配備してシャント血管の機能を数値化して経過観察する取り組みを始めました。
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Kt/vが低下した場合や定期的にPTAを行っているケースに血流量(VF)と抵抗係数(RI)を測定し経時的に変化を見ます。



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同時に再狭窄の評価も行います。


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グラフト出口部の狭窄に対してステントが留置された症例です。通常の走査では開存度良好に見えますが、


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カラードップラーで観察するとステント内狭窄を認め後日PTAを施行しました。
今後は造影検査に加えてエコーによる定量的経過観察を併用して、よりきめの細かなシャント管理を目指します。



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第1透析室から見える百日紅。



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同じくシラカバ。回診をしているときも目の前に庭の緑があるとしばし癒やされた気分になります。


ワクチン2回接種後の感染例(ブレークスルー感染)やワクチン接種後8ヶ月ほどで効果が低下するなど次の対策を検討する知見も出てきました。一方で投与方法やタイミングの調整は必要なものの抗体カクテル療法の有効性は高く、国産の経口治療薬やワクチン開発の動きも地道ながら進んでいます。ワクチン接種率を上げて容易に流行しない背景をつくり、基本的な飛沫感染対策を油断なく継続して感染機会を減少させ、更にブースター接種のタイミングを検討し感染しても重症化させない環境を広げてゆく、このように出口は見えはじめています。短絡的な思考や行動を戒め国民全体が伝染病が内包するリスクをもう一度考え直して理解することを希望します。


須坂 腎・透析クリニック







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Posted by Kidney at 17:04│Comments(0)ひとりごと
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