週末に雨が滴る神無月

Kidney

2017年10月30日 16:56


逆光を浴びて色付いた葉が映える白樺、午後になり日が射してきましたが台風一過とは言えない微妙な天気。10月は週末になると天気が崩れて雨の日曜日が多い月でした。標高の高い山は既に冠雪しており、台風22号が去った後は木枯らし1号も吹きました。秋晴れと紅葉を楽しむ間もなく次の季節が来てしまいそうです。





クリニック中庭の木々も色を変えつつありますが同時に落葉も多く、なかなかキレイな紅葉になりません。





イチイの朱い実とコムラサキの実。




涼しくなると風邪が流行りやすくなります。手っ取り早い対処法として市販薬の服用がありますが、医療機関で治療を受けている方々は注意が必要です。口から入ってきたクスリなどの化学物質は主に肝臓で代謝され、胆汁とともに腸管経由で便とともに排泄されるか、水溶性の代謝産物は血流に乗って腎臓へ運ばれ濾過され、尿となって排泄されます。従って肝機能や腎機能に障害がある場合に通常量のクスリを服用すると、代謝(分解)や排泄が遅れて思わぬ副作用を来すこともあります。このような理由から、通院されている患者さんには市販のクスリや健康食品は原則使わない様に、どうしても使いたい時は事前に相談して下さいとお話ししています。市販薬では様々な成分が含まれる総合感冒薬、医療機関で貰う処方薬では抗ウイルス薬を含む抗生物質が、特に腎機能の悪い方にとって注意が必要です。


市販薬よりも相談が多いのが健康食品、実に様々な商品が新聞やテレビで紹介されており、これまた実に効果が「ありそうな」文言が並べられています。目立つものの一つに関節痛(変形性関節症)に効く軟骨成分を謳った一連の健康食品があります。深海サメの軟骨成分、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸やその構成成分のグルコサミンなど様々。実際の軟骨の成分も含まれているようですが果たして口から飲んで効くのでしょうか?軟骨の成分が消化管に入ってきても消化液により分解されて、吸収されて血流に乗る頃にはより小さな成分に変わっています。そして肝臓で速やかに代謝されていずれかの経路で排泄されてしまいます。一時的に「軟骨を構成する成分」の血中濃度が高くなっても、それらが都合良く関節内に優先的に運ばれて軟骨を作る材料になるとは到底考えられません。これは医学的に否定されています。
BMJ 2010; 341 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.c4675
(Published 16 September 2010)Cite this as: BMJ 2010;341:c4675)
材料があっても軟骨を形成する細胞の働きを調節しないと完成品である軟骨は増えません。これは腎不全の患者さんに血液の材料である鉄を補充しても、造血組織を活性化する物質「エリスロポイエチン」が足りないと完成品である赤血球が増えず貧血は改善されないことに似ています。軟骨成分を食べて本当に軟骨が増えるのであれば、薄毛に悩むヒトが髪の毛を食べればフサフサになるかもしれません(笑。同じ理由でコラーゲンをたくさん食べても残念ながら肌はプルプルにはなりません・・・






今月も小さな鉢植えが増えました♪ 吉澤さんGJです。




今月の治療指標の達成度です。







今月は栄養の指標である血清アルブミンとGNRIが改善傾向を示し、蛋白質の摂取指標であるnPCRも増加しており名実共に食欲の秋が到来した印象です。今年の栄養指標は暑くなり始めた6月頃から低下傾向を示し、8月から本格的に栄養状態に基づく透析量の調節を開始しました。今月の回復基調が経口摂取の増加によるものか透析条件の調節によるものか、あるいはその両者の関与なのか現時点では判然としませんが、高齢者で経口摂取が低下気味の方への透析条件による介入は今後も継続する予定です。筋肉量の指標である%CGRの回復のみみられていません。遅れて回復するのか、平均年齢の上昇による低下と相殺されているのか、経過観察続行です。平均血流量は今月も若干低下していますが、透析時間の平均および5時間以上の方は増えており、高効率が必要なケースと比較的マイルドな条件が望ましいケースの二極化が進んでいると思われます。今月の貧血の指標ヘモグロビンは増加し上限に近付きました。ESA製剤を減量した方が多かったため来月は低下傾向に転ずると思います。鉄の指標は先月と変わりなく概ね過不足の無いコントロールができていると考えます。





クリニック正面のドウタンツツジ。




10/26付けで共同通信社からこのような内容の記事が発信されました。
「過剰な透析、報酬引き下げ 厚労省、18年度改定で 一部の医療機関が対象」
「腎臓病の患者に対する人工透析で、一部の医療機関が過剰な治療で利益を上げているとみられることから、政府は25日、こうしたケースについて来年度に診療報酬を引き下げる方針を固めた。26日に開かれる経済財政諮問会議で民間議員が医療費抑制のため「実態に応じた適正化」を要請し、加藤勝信厚生労働相が来年4月の診療報酬改定で対応策を講じる考えを示す。人工透析にかかる医療費は推計で年間約1兆6千億円。長期的な通院が必要なため、医療機関は安定的な利益を得られるとされる。一方で地域によって実施率に大きなばらつきがあることから、必要以上に治療回数を多くしているケースがあるのではないかとして、見直しを求める声が上がっていた。」


地元新聞でも掲載されており目にした方も多いと思います。社会保障費が逼迫する中で聖域無き見直しを行うことはむしろ望ましいことです。しかし、無駄を無くす振りをして必要なものまで削ろうとすることは論理のすり替えです。「必要以上に治療回数を多くしているケース」と指摘していますが、保険診療において一ヶ月に行える治療回数は14回までと定められており、それ以上透析を行っても診療報酬は支払われません。一回あたりの透析においても5時間以上行っても延長分の増額はありません。つまり何を以て過剰な治療としているのか何も述べていないのです。人工透析は末期腎不全の患者さんにとって生命をつなぐために中止出来ないものであり、それを支える透析施設は必要な医療機器を配置し、日曜日以外盆暮れ正月祝日無く治療に従事し、高齢化に伴う通院困難者に対して送迎サービスも行っています。どの部分が過剰で何が問題なのかを明確にしないまま透析医療の費用面のみを強調する報道は、真に必要な医療そのものの萎縮や改悪にも繋がりかねず、特定領域の診療報酬減額に迎合する世論誘導のために厚労省側が意図してリークした情報とも取れかねません。

先の衆院選挙では日本維新の党から長谷川何某が小選挙区に立候補して当然ながら落選しました。透析医療を理解しないまま費用面を強調するブログをアップし批判を招いた人物です。軽薄な内容の個人ブログも悪質ですが、同様なスタンスを官製で行うことは更に悪質でありしっかり反論する必要があります。





昨日学会で訪れた横浜ではハロウィンの衣装を纏った親子連れが彼方此方で見られました。クリニック内でもK女史の作品が飾られています。





2017年も残り2ヶ月、元気に乗り切りましょう!


須坂 腎・透析クリニック

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