2020年01月28日

雪のない大寒、雪かきの無い令和二年睦月



大寒を過ぎてもほとんど降雪が無い令和二年の1月の奥信濃です。雪かきをしなくて済むのは大変有り難いことですが、降雪量の減少は春季の融雪量の減少にもつながり夏場の水不足が心配にもなります。昨年秋の台風に伴う豪雨を考えれば年間降水量はあまり変わらないのかもしれませんが、雪として水をストレージ出来ない分だけ変化が急峻となり水害や逆の干ばつが増えるおそれもあります。雪かきのない分、後で別の苦労をすることにならなければ良いのですが。





クリニック中庭も全く雪の無い状態です。例年雪が積もると視認可能な餌が少なくなるためか、野鳥が一気に集まるのですが今年は今のところスズメ時々キジバトしかいません。





そのキジバトも1個体のみ、いつものように群れをなしてきません。






日本透析医学会雑誌の12月号に2018年統計調査報告書「わが国の慢性透析療法の現状(2018年12月31日)」が掲載されています。当院でも施行している血液濾過透析(HDF)を受けている患者数は年々増加しており、2018年は一般的な血液透析(HD)59.6%に対しHDFは37.0%でした。1月26日に松本市で開催された第5回信州HDFカンファレンスでは県内の主な施設へのアンケート結果が発表され、HD 49.8%に対しHDF 46.5%の割合でした。長野県では全国平均よりもHDFで治療を受けている人の割合が多いことになります。

治療法については県内地域ごとに特徴があり、東北信と中信ではオンラインHDFが40〜50%弱に対し南信では16.6%、北信では他と比較し間欠的血液濾過透析(IHDF)が13.3%と突出していました。南信を除くとオンラインHDF+IHDFでほぼ50%強のため、北信では特定の施設でIHDFに力を入れている影響と思われます。HDFはより腎臓のメカニズムに近い治療法で、物理的に除去出来る毒素の大きさ(分子量)もHDを越えます。しかしカリウムやリンなど小分子を十分に除去しなければ食事制限の緩和には繋がりません。HDFは透析(HD)と濾過(F)を同時に行います。このHD部分を十分機能させる事が前提であり、さらにFを適切に行うことで初めて最適な治療となります。適切な濾過(F)とは大きな分子の毒素を十分除去する一方で、似たサイズの栄養成分(アルブミン)を如何に残すか、または除去されたアルブミンと摂取蛋白質とのバランスをどう取るのかとも言えます。具体的にはアルブミン漏出の駆動力となるTMPのコントロールと栄養指標に基づいたヘモダイアフィルターの選択や血流量など透析条件の設定が大事です。






全国の結果では慢性透析患者の粗死亡率はやや上昇して10.0%、死亡原因では心不全がトップで感染症が続き例年と変わりありません。











当クリニックでは開院以来平均粗死亡率は3.02%と低く心不全で亡くなった方は一人もいません。透析条件における血流量の平均は透析患者で205.39mL/min, 血液濾過患者で223.89mL/minと後者の方がやや流量が多い結果ですが、当院の今月の平均はその1.5倍以上の348.6±61.2mL/minであり70%以上の方がspKt/V 1.8以上を維持しています。



使用するヘモダイアフィルターも2018年度よりアルブミン漏出量の少ない膜を採用しました。比較的若く栄養状態の良い方には従来通り高性能膜で溶質除去をより高めた治療を。高齢となり食事摂取量が落ちてきた方にはマイルドな膜を使用し透析効率も毎月の検査結果に合わせて最適化するように調節しています。TMPを低く保つため膜面積は大きめを使用する傾向にあります。

スライドは2018年に院長が日本HDF研究会で発表した資料を改編し、渡辺伸行臨床検査技師が第5回信州HDFカンファレンスで発表したものです。






南天の実、寒風に耐える朱い実。





冬は被写体の選定に苦労します(笑)




今月の治療指標の達成度です。





秋口から改善傾向の栄養指標、血清アルブミンは≧3.6g/dlを維持しています。平均の血清リン値は横這いですが、年末年始の影響かいつもよりもリン値が高い方が散見され高リンの影響でPTHも同時に上昇していました。そのため平均PTHはかなり上昇しており達成度も低下していました。昨年も1月のPTHは高く2ヶ月後には10%強低下していたので、食生活が通常に戻れば自然に低下すると思われます。極端な上昇や漸増傾向のケースには処方変更を行い、高リンにともなう軽度上昇は次回まで経過観察としました。β2MGは冬場に上昇することが多く、特にウイルス感染で非常に高値を示す印象です。インフルエンザ罹患後の患者さんでは最大2倍程度の上昇がありました。除去率は80%弱を維持しています。

「わが国の慢性透析療法の現状(2018年12月31日)」には識者による2018 year in reviewも掲載されています。興味深かったのは透析患者さんの栄養についてです。当院でも力を入れている栄養管理ですが、世界的にも蛋白質や体脂肪はが不足している状態 "Protein-Energy-Wasting"にある透析患者は多く28〜54%を占めているとされます。

透析患者さんの場合「何でも食べて良いか」と問われれば残念ながら答えは「否」です。一方でしっかり透析をして老廃物を除去すればその分だけ食べても大丈夫な余裕が生まれます。上がると困るリン(P)を消化管で吸着し血中濃度を制御するクスリの種類も増えてきました。これらを上手に使うことで、栄養価の無い添加物由来の無機リンさえ気をつければ、純粋な蛋白質はほぼ制限しない食事が可能です。当院ではむしろ食べて下さいと指導することがほとんどです。

カリウムについても野菜や果物は積極的に摂取した方が長生きできるデータが昨年発表されました。わが国のデータの分析からも透析前値でカリウム(K)<4.5mEq/Lで有意に生命予後が悪くなる事が示されています。つまり透析前低カリウムは食事摂取自体が十分で無い事が多いことを示唆します。当院では透析前Kは6mEq/L以下を許容とし4.5mEq/L未満の方には積極的な果物・野菜の摂取をお勧めしています。またreviewでも触れていますが、体内のカリウムは圧倒的に細胞内に存在し血管内を含めた細胞外の存在割合はわずかです。これは細胞内に大きなカリウムバッファー(緩衝装置)が存在することになります。細胞が壊れる(腫瘍崩壊、広範囲に及ぶ組織障害〜crush syndrome)出来事が無い限り破綻しませんが、血管内から細胞内への移動にやや時間がかかります。よって一度に沢山の野菜や果物を食べてしまうと、緩衝装置の容量を越えてしまい血中カリウム濃度が急上昇し最悪心停止などのトラブルに至ります。逆に小分けにして摂る事で血中カリウム濃度の上昇は緩やかになり、結果として沢山食べることが可能となります。同時に食物線維が摂れるため便秘の解消や蛋白質との同時摂取により食後血糖の上昇を抑制する効果にも期待出来るかもしれません。
野菜や果物は小分けにして摂りましょう。リンゴならば丸かじりでは無く三等分して毎食いただくのが理想です。特にもうすぐ透析だからといって中二日空きの朝に一気に食べることは危険です。カリウムが最も蓄積しており血液の酸性度も高いことから緩衝機構の働きも鈍り危険レベルまで濃度が上昇してしまう危険性が高まります。

塩分と水分だけ気をつければ他の食事制限はかなりの割合で緩和することが可能です。それにはしっかり透析することが大切です。




温かい室内に置いてあったゲンペイボクが花を咲かせました。





診察室の鉢植え。





常緑樹に引っ掛かった落葉。



雪が少なくらしくない冬ですが寒さはまだ続きます。インフルエンザや急性胃腸炎がまだ猛威を奮っています。隣国では新型のコロナウイルスが爆発的な流行を見せ始めました。情報が統制されている可能性があり信憑性に劣りますが、現時点で致死率はそれほど高く無いようです。冷静に構えて一般的な感染予防をコツコツ行うことが1番です。

またこの出来事は集団免疫の大切さも教えています。インフルエンザ予防接種をしても感染率はゼロにはなりません。しかし免疫を持っている人が多いだけ感染拡大のブレーキになります。予防接種は自分を守るだけでは無くコミュニティーや社会を守る側面も持ち合わせています。



須坂 腎・透析クリニック
  


Posted by Kidney at 17:33Comments(0)ひとりごと

2020年01月24日

須坂 腎・透析クリニックだより No.25, 2020年1月号

須坂 腎・透析クリニックだより No.25, 2020年1月号











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