2024年03月26日

手強かった弥生の雪、麻疹と紅麹


3月中旬の中庭、手前のクリスマスローズと奥の水仙が共に満開。写真ではぼけていますが中間にあるユキヤナギの花芽も動きはじめました。

ところが・・・

3月20日夕方、弥生にしては多めの雪が降り始め、




翌21日朝には季節が1ヶ月戻ってしまったかのような降雪。水分が多く除雪が大変でした。




とはいってもやはり弥生の雪、溶け始めるのも早く同日昼頃には埋まっていたクリスマスローズも顔を出し始めました。



水仙の花芽は完全に倒れてしまい回復まで時間がかかりそうです。



はしか(麻疹, mumps)Up to date

風邪症状のあとに全身に発疹が出るウイルス感染症です。感染力が高いこと、一度かかるとほぼ一生かからない強力な免疫が誘導されることも知られています。そのため昔は感染者が出ると免疫を獲得する目的で敢えて近付いて感染させたエピソードもありました。現在新型コロナパンデミックの期間に麻疹ウイルス接種率が低下した結果、世界各地で感染者が増えており海外旅行先で感染し国内に持ち込まれるケースが報告されています。
以前は免疫を獲得する目的で敢えて感染する行為も行われていた麻疹、ここ20年程の新たな知見から感染するとかなり損をすることが明らかとなっています。

ウイルスは自分で増えることが出来ず宿主の細胞に感染してその細胞を利用して増殖します。2000年に麻疹ウイルスが免疫系の細胞に感染するカギとなる蛋白質が同定されました。そのため麻疹に感染すると一過性に免疫機能が低下する機序が明確になりました。そのため肺炎などの二次感染を合併しやすく、現代でも1000人に1人程の死亡率を有しています。また2019年には麻疹感染によってこれまで獲得した免疫がリセットされる可能性も指摘されました。また数万人に1人に割合で治癒後平均7年で重い脳炎を発症することもあり、おいそれと感染して良いウイルスではないことは明らかです。

現時点で国内では大きな流行にはなっていません。慌ててワクチンを接種する必要性は低いと思われますが、麻疹にかかったことが無い、ワクチンを受けたことが無い人は一度麻疹の抗体価を調べてみると良いでしょう。それによりワクチン接種の必要性、1回で良いのか2回必要かの判断が可能になります。


(CRCグループHPより)

余談ですが、新型コロナウイルスも想像よりも多くの割合で神経系や心血管系の細胞に長期感染し、将来的に認知症や心不全の発症率が高まるリスクが指摘されており「ただの風邪」として見ていると思わぬしっぺ返しを貰うかもしれません。


麻疹の症状
RNAウイルスによる感染症で潜伏期は10〜12日。
1. 発症1〜2日(カタル期=風邪のような症状)
・38℃戦後の発熱
・咳
・咽頭痛
・鼻水
・目の充血、涙目

2. 発症3〜5日(発疹期)
・一度解熱し再度高熱が出るとともに発疹が出現
・発疹は頭部から始まり次第に下方へ向かって広がる
・発症から5〜6日で発疹は消失

3. 発症7〜10日(回復期)
・解熱して回復


麻疹の特徴
・非常に感染性が高い(空気、飛沫、接触感染の混合経路)
感染者と同じ空間にいた人で免疫がないと10人中9人が感染する
1人が感染すると、周りに居る12〜18人が感染する(インフルエンザは2人程度)
・感染者はほぼ100%発症する
・免疫を担う全身のリンパ組織を中心に増殖し一過性に強い免疫機能抑制状態となる
別の細菌やウイルス感染が合併して重症化することもある
・発症者は「免疫記憶」が薄れ、他の感染症にかかりやすくなる
・約1000人に1人死亡する
・感染から5〜10年後に数万人に1人が重篤な脳炎(SSPE)を起こす
・治療薬が無い
・ワクチン2回接種で防御率97%
・一度出来た免疫は20年以上持続する

麻疹ウイルスは呼吸器から体内に侵入し、免疫細胞に特異的に発現するSLUM (CD150) を受容体として細胞に感染することが九州大学の橋口先生らの研究により明らかとなりました。(他にもCD46を介して皮膚、腎臓、肝臓、消化器など全身の諸臓器に感染します。)
Tatsuo, H., Ono, N., Tanaka, K. et al.: SLAM (CDw150) is a cellular receptor for measles virus. Nature, 406, 893-897 (2000)
古くから麻疹に感染すると、肺炎などの二次感染を合併し重症化すること、逆にネフローゼ症候群の様に免疫系の暴走で発生する症状は軽快することなど、一過性に免疫抑制が生ずることは経験的に知られていました。
「麻疹ウイルスの感染及び免疫抑制機構」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv1958/45/2/45_2_117/_pdf

免疫系細胞に特異的に発現する蛋白質(SLUM)が感染に関与することが明らかとなり、科学的にその機序が解明されたことになります。更に、2019年にはオランダから、麻疹に免疫を持たない子供が麻疹にかかると11〜73%の抗体が消失したとの論文が発表されました。これまで獲得していた病原体に対する免疫記憶がリセットされ失われた可能性を示唆します。
Measles virus infection diminishes preexisting antibodies that offer protection from other pathogens, Michael. J. Mina. Et al, Science, 1 Nov, 2019
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aay6485

弱毒化生ワクチンであある麻疹ワクチンはウイルスが免疫細胞に感染するターゲットであるSLUMと結合出来ませんが、麻疹ウイルスに対する免疫はしっかり誘導されます。麻疹は感染すると一過性の免疫抑制により二次的に肺炎などの感染症を併発し易いなど現代でも死亡率が高く、稀ですが感染後7年前後で重篤な脳炎を来す可能性があり、インフルエンザの6〜9倍感染力がある感染症です。また免疫記憶がリセットされ他の感染症にかかりやすくなるリスクもあります。決して容易に罹患してはならない手強い相手との認識が必要に思います。麻疹ワクチンの接種率の高い集団は麻疹の減少だけでは説明出来ないほど全体の死亡率が減少することが観察されており、ワクチンが麻疹以外の感染症をも減らすことが一因だと考えられています。



ハクモクレンの花芽、雪解けの後の青空。



もうすぐ開花するサンシュユの花芽。






日本透析医会の指標は何れも90%以上の達成度でした。年末年始の影響が薄れ、透析条件や内服薬の調整も効いてきた印象です。各種栄養指標も1月から改善傾向に有り今後も続いてほしいと考えます。



小林製薬の紅麹含有サプリに起因する腎障害


3月22日小林製薬から発売されている「紅麹コレステヘルプ」等の製品を摂取した13人に腎障害が生じて6人が入院、一時的に透析が必要となったケースもあった事が報道されました。現時点で原因究明は出来ていない様子ですが、一部の製品のロットと原料のロットに含まれる物質を分析したところ通常ではみられない未知の波形が検出され、想定外の物質が混入し腎臓障害を惹起した可能性が考えられています。紅麹といっても使用されるカビは何種類か存在し、中には腎毒性のあるシトリニンと呼ばれる物質を産生する種もあります。既に欧州ではサプリメント内でのシトリニンの基準値を設定するなど対策が取られています。今回、国内で発生した腎障害に関係したロットの原料からはこのシトリニンは検出されていないそうです。また2020年10月小林製薬と奈良先端科学技術大学院大学との共同研究で、主に日本で使用される紅麹菌 (M. pilosus) はシトリニンを合成する遺伝子を持たないことが明らかとなっています。
https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2020/201002_02/

3月25日更に20人が入院していたことが判明しました。想定していない成分(別のカビ毒の可能性)を含む原料を使用した「紅麹コレステヘルプ」の製造番号が公表されました。

<ドラッグストアなどの店舗やECサイトでの販売分> 
計14種類 製造番号:J3017、X3037、X3027、X3017、H3057、H3047、H3037、H3027、H3017、F3037、F3027、E3037、E3027、D3079
<小林製薬の通信販売を通じての販売分>
 計4種類 製造番号:X304、H306、G301、E301

3月26日には同社の健康相談窓口の集計でサプリの摂取に関連した腎障害で更に多くの入院患者が発生した様子であり、因果関係の否定出来ない死亡例も相談窓口に寄せられています。

「紅麹」がすべて腎障害の原因となるわけではなく冷静な対応が求められます。一方でこれら製品の摂取に心当たりの方は直ちに接種を中止して、心配な症状があれば医療機関を受診することを推奨します。

小林製薬の問い合わせ先
<当社の通信販売を通じてご購入のお客様>
対象製品:紅麹コレステヘルプ 15日分・30日分
小林製薬通信販売 紅麹健康相談受付センター
電話番号:0120‐58‐5090
受付時間:9時~17時(土日・祝日は除く)
※4月末までは土日・祝日も対応いたします。
インターネットからのお問い合わせ:https://www2.kobayashi.co.jp/inquire/
<ドラッグストアなどの店舗やECサイトにてご購入のお客様>
対象製品:紅麹コレステヘルプ 20日分
ナイシヘルプ+コレステロール 地区限定品(石川、富山、福井県) 28個販売済
製造番号:23508 ※製造番号は製品裏面の左下に記載
ナットウキナーゼ さらさら粒GOLD 地区限定品(広島、山口県) 41個販売済
製造番号:J301 ※製造番号は製品裏面の左下に記載
小林製薬 紅麹健康相談受付センター
電話番号:3月26日 0120‐5884‐12
3月27日以降 0120‐880‐220
受付時間:9時~17時(土日・祝日は除く)
※4月末までは土日・祝日も対応いたします


想定外の物質が混入することで腎障害が引き起こされる事例は過去にもあります。1995〜2000年頃に中国から輸入された特定の漢方薬を服用した人に腎機能障害が発生する報告が相次ぎ漢方薬腎症 (Chinese herb nephropathy) と呼ばれました。日本の漢方薬には含まれないアリストロキア酸を含む生薬・漢方薬の摂取が原因であると判明しました。日本薬局方に適合する生薬については問題ありませんが、生薬の呼称は国によって異なる場合もあり、輸入漢方薬の個人使用には注意が必要です。

日腎会誌 2005;47(4) 「民間療法によって末期腎不全に至ったアリストロキア酸腎症の1例」
https://jsn.or.jp/journal/document/47_4/474-480.pdf

アリストロキア酸を含有する生薬・漢方について
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2003/14896/siryou2.pdf

今回の紅麹含有サプリは個人使用の生薬とは比較にならない流通量であり、今後腎障害の発症数はかなり増えるのではないかと予想します。同時に原因物質の究明と治療手段の確立を望みます。



リュウキンカと蕗の薹



ユキヤナギ


季節の変わり目、三寒四温。
寒暖差で体調が乱れやすい早春。
体調管理にご留意ください。


須坂腎・透析クリニック  


Posted by Kidney at 15:48Comments(0)ひとりごと
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