2014年11月27日
冬の足音と感染症、そして鳥について
師走が目の前に迫り、氷点下の気温を記録する朝が出始めました。里山も色付きその後ろの山の山頂は白くなっています。
クリニック中庭のモミジもここ数日で色が鮮やかになりました。対面の白樺は既に落葉が始まり、敷地管理の方々には落ち葉拾いをお願いしています。雪が降る前に剪定もしないと、来年は雑木林になりそうです・・・。
気温が下がり、暖房を使うようになると湿度が低下します。冬の足音が聞こえそうな(本当に聞こえたら困りますが)この時期はウイルス感染症が流行り始める時期でもあります。これはウイルスが寒くて乾燥した環境を好むためであり、呼吸器系に親和性の高いインフルエンザや消化管に親和性の高いノロウイルスが有名ですが、他にも種々雑多なウイルス感染症が多くなります。
今年のインフルエンザの流行は例年と比べて少し早い印象です。11月中旬には長野市内の学校で集団感染が発生しました。先週あたりから小布施町でも確定診断が出始めたと聞いています。予防接種を既に受けた方も、体内で防御抗体が産生され始めるまでおよそ2週間かかるため、この間に感染する可能性もあり油断は禁物です。実際、先々週の休日診療室で、おとといインフルエンザの予防接種を受けた方がA型インフルエンザに罹患している例がありました。うがい、手洗いを小まめに行い、人混みではマスクを着用しましょう。手洗いと言えばアルコール消毒液を置く店舗も珍しくなくなりました。このアルコール消毒、一定の効果はありますがノロウイルスや芽胞という殻を形成する細菌には無効です。ちなみに芽胞形成菌には食中毒の原因菌も多く100℃の加熱でも死滅しないためやっかいな連中です。手洗いを行う際に流水でしっかり洗うこと、特に親指の付け根など洗い残しがないようにまんべんなく洗うことが有効な感染予防につながります。
透析待合室から眺めた中庭
クリニックでも昨年同様に加湿器を動員し湿度管理を開始しました。患者さんにはマスクの着用をお願いしています。
今月の管理指標の達成度
今月も新規導入の患者さんが数名加わったことと、他院で治療後に再編入された方のHbが回復途上にあることからヘモグロビンの達成度が低下しました。鉄剤を適切に併用しながらESA製剤を増量したため来月には目標値到達が可能と考えています。興味深いのはリンの達成度が100%になった一方で、i-PTHの達成度が下がりました。9月の採血とその評価でリンが高めの方へのビタミンD製剤の処方を若干減らしたことが原因の一つと思われます。コントロールの優先順位はP < Ca < PTHですが、PTHの上昇傾向が強くかつリンが高めの方には、リンの吸収に影響しない(むしろリン値を若干低下させる)シナカルセトを併用または増量して対応しました。PTHの増加(続発性副甲状腺機能亢進症)に対して使用されるビタミンDは、消化管からのカルシウム、リンの吸収を促すためにそれらの数値が高い場合は使いにくい製剤です。一方シナカルセト(レグパラ®)はリンを上げずにカルシウムは低下させるため、背景にあるミネラルのバランスによってビタミンD製剤との使い分けが可能です。しかしシナカルセトはPTH値とともに急激にCa値が低下する症例もありきめ細かな容量調節が必要と感じています。現在25mgおよび75mg製剤が発売されていますが、むしろ25mg製剤の隔日投与、透析日のみの投与など少量でコントロールする例が多いように感じます。今後12.5mg製剤の発売も予定されており、よりきめ細かい調節が可能となることが期待されます。
透析時間は概ね4時間以上ですが、透析導入して間もない方で尿量が十分保たれている方の場合、いずれ4時間以上に延長することをお話しした上で例外的に3.5時間としています。また4時間の方でも体重増加が多い場合は5-6時間に延長して時間除水量を少なくし、急な血圧降下を避けるように心掛けています。最近では透析時間について患者さんから30分〜60分延長の申し入れも有り、ベッドコントロールの可能な範囲で対応しています。現時点では除水量が多い症例に対して限定的に透析時間を伸ばしている側面が大きいのですが、将来的には週18時間以上の長時間透析を積極的に取り入れたいとも考えています。その理由は、体重増加が多い症例に5時間オンラインHDF+1時間ECUMとするよりも6時間オンラインHDFとした方が圧倒的に血圧低下が少なく、当然のことながら透析量も増えるためミネラルのバランスが好転した例を経験したことにあります。極端な体重増加は塩分の摂り過ぎの結果で有り食生活の内容是正も必要ですが、透析方法のあり方については1回4時間、週3回が本当にゴールデンスタンダードなのか考えさせられる症例です。
サザンカ
北の端にあるこの一本だけが大量に花を付けました。
11月5日午後「窓に激突した鳥が中庭でひっくり返っている」
と報告があり、スタッフにはマスク、ディスポのグローブ(手袋)着用で「処理」するように指示したところ・・・お亡くなりになってはおらず気絶していただけでした。外傷もなさそうなので庭に放したところしばらくじっとしてから(写真)飛び立ちました。シジュウカラですね。
東京都で回収された死亡野鳥の高病原性トリインフルエンザの疑い事例は確定検査の結果陰性で、半径10kmの野鳥監視重点区域は解除されましたが、千葉県長生郡長柄町で採取したカモ類の糞便から分離された鳥インフルエンザウイルスは高病原性と確定されました。過度に警戒する必要はありませんが、野鳥の死骸を見つけたときは素手で触らないようにすることが必要です。
話はかわりますが、昨今のニュースを見て感じたこと。高病原性ウイルスに汚染された鳥と見るのか、無警戒にまた無節操に自然に近付き過ぎないための警告と読むか。広島で起きた傾斜地の崖崩れで多くの犠牲者が出たこととその背景にある異常気象、里山と人里の境界が荒廃したことによるクマの生息域拡大、エイズやエボラなど本来自然界に封じ込められていたウイルスの蔓延、いささか雑多ですがこのような事例を考えると、人間もまた自然の一部で有り、自然とは恵みだけでなく被害を与える二面性のあるものと改めて感じます。先週末の神城断層地震や御嶽山の噴火もそうでした。従って自然に対し一定の距離感と緊張感を持ち万が一に対する備えが必要であると思います。「立つ鳥跡を濁さず」と同様な意味を持つ英文は「巣を汚す鳥は愚かだ」と訳されます。ヒトの目線においては妥当かもしれませんが、鳥の目線では「鳥が逃げ出すくらい環境を汚しておいて、逃げた鳥のせいにする者が実は最も愚かである」となる可能性もあります。距離感と緊張感は一方的な見地からは生まれないのかもしれません。
来月ブログアップする頃はもう辺りが白くなっているのでしょうか?
益々寒くなる季節、皆様、感染予防で健やかに!
須坂 腎・透析クリニック
Posted by Kidney at 17:26│Comments(0)
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