2019年02月25日

暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト

暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト
インフルエンザの流行はピークアウトしましたがA型に加えてB型もチラホラ出てきました。A型とB型が季節初めから同時に流行した昨年度は別として、B型が出始めると春の気配を感じてしまいます。




暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト
ハクモクレンの花芽、気持ち大きくなってきました。




去る2月14日須坂市の依頼で糖尿病予防教室の公開講座で糖尿病の病態と合併症についての講演をを担当させていただきました。
暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト

暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト

80名を越える方々がお見えになりました。




糖尿病はわが国の透析導入原因疾患の1位であるとともに、緑内障に続いて成人の失明原因の2位、また動脈硬化の強いリスクファクターであり脳梗塞、狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患、神経障害による感覚低下や血流障害から生ずる足の壊疽など、放置すると生活の質や生命そのものを脅かす疾患です。一方で早期や前段階にあたる糖尿病の予備軍では自覚症状に乏しいケースがほとんどで見逃されてしまうこともあります。



暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト
自覚症状が無いことは怖いことなのです。




糖尿病の慢性合併症はいずれも血管のトラブル。
暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト
「しめじ」と「えのき」



暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト
動脈硬化は「糖尿病予備軍」の段階から進むため、糖尿病を発症する前から治療介入することが大切です。




血糖値が正常でも「危険因子」を持つ方は要注意!
暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト




そして適切な時期に専門医にかかることも重要。
暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト


暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト






暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト
普段は穀類ばかり啄むスズメが珍しくリンゴをつついていました。今季もヒヨドリ、ムクドリ、メジロが訪れています。




2月の治療指標の達成度です。
暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト


暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト

先月お年越しの影響で上昇したと見られた血清リン(P)はやや低下しました。一方で栄養指標の血清アルブミン(Alb)やGNRIは変動の範囲で維持されています。蛋白質の摂取を反映するnPCRや尿酸(UA)が横這いなのにリンが低下したことは、非蛋白質由来のリンが多かった事を示唆します。つまり添加物中の無機リンです。尿酸も蛋白摂取以外の要因で変動するため基準値を設定した運用は困難ですが、同一人物の数ヶ月レベルの食事内容の把握にはリンと尿酸の比率が利用出来る印象です。リン・尿酸比が前月に比べて高いと非蛋白質由来のリンが多く、逆に低ければ非蛋白質由来のリンも少なかったことを意味します。ただしリン吸着剤や尿酸合成阻害薬の影響も受けますので解釈には注意が必要です。

腎機能が低下するとリン(P)の排泄が低下~途絶するため血中のリンが高くなります。高カリウム血症と異なり異常高値で即心停止する様な事態にはなりませんが、高リン血症は長期に持続すると動脈硬化を確実に進め、カルシウムやそれらをコントロールするホルモン(PTH)よりも生命予後との関連が高い項目です。腎機能が高度に低下~途絶した透析患者においてはこのリンをどのように維持するかが大事です。三大栄養素(炭水化物、蛋白質、脂質)の中でリンを含有するのは蛋白質だけなので、手っ取り早いのは蛋白質の摂取制限をすればリンは下がります。しかし食事制限でリンをコントロールした患者群と、食事制限をしないでコントロールした群では後者の方が予後良好でした。食事制限≒蛋白制限をせずにリンを下げる方法は、
1. 十分な透析を行う(長時間、高血流)
2. 栄養にならないリンを摂らない(添加物中の無機リン)
3. リン吸着剤を上手に使う
の三点になります。高効率透析+リン吸着剤で当院ではほとんど蛋白質制限をしていません。高リン血症が問題となるケースはほとんどが非蛋白質由来の無機リンであり、これを制御することで栄養状態や筋肉量を維持しつつ至適な血清リン値を保つ事が出来ます。添加物以外に高リン血症の原因となりかねないのが魚の缶詰の中骨。サケやサバの水煮は手軽に摂れる蛋白質ですが、透析患者さんはカルシウムとリンの塊である中骨だけは残すようにしましょう。


Clinical Journal of the American Society of Nephrology(CJASN)の2019年2月号に「維持血液透析中の成人における果物と野菜の摂取量と死亡率 (Fruit and Vegetable Intake and Mortality in Adults undergoing Maintenance Hemodialysis)」という論文が発表されました。腎障害のない成人において果物や野菜の積極的な摂取は心血管病を含む総死亡率の低下に関連します。透析患者では高カリウム血症を引き起こすリスクがあるため、果物や野菜の摂取はむしろ制限されます。この論文ではオーストラリアなど複数の国にわたる透析患者1万名弱を登録、2.7年の経過で2000人強の死亡者を解析した結果、果物と野菜の摂取が週5回半以下の群よりもそれを越える群の方が非心血管病死亡率および総死亡率が有意に低く、特に週10回以上の摂取群でその傾向が著明との結果でした。心血管病の死亡率に有意差は無く、果物だけまたは野菜だけの摂取でも有意差は検出されませんでした。果物や野菜の摂取により悪性腫瘍や感染症などの非心血管病による死亡率が低下した可能性が示唆されます。また果物のみ野菜のみの摂取量では有意差が無いことは「何かを食べれば体に良い」のでは無く「バランスの取れた食事が体に良い」と言い変えることが出来るかもしれません。

血清リンの上昇を抑えるためには蛋白制限をしない方が良く、果物と野菜を週10回以上摂ることで非心血管病と総死亡率が下がる可能性があります。何れもしっかり透析をしてリンやカリウムを除去することで初めて達成することが可能となります。更にリンやカリウムの吸着薬を上手に使うことで更に摂取量に余裕が生まれます。しっかり透析でしっかり食事、長く元気に透析治療を行う基本です。



暖冬に思う食事療法のパラダイムシフト
スイセンの花芽もうっすら色付いてきました。春の気配だけではなく春の足音まで聞こえそうです。

今季はこのまま雪が降らないことを・・・希望します。



須坂 腎・透析クリニック


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Posted by Kidney at 21:04│Comments(0)ひとりごと
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