2020年05月25日

急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性

急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
朝晩と日中の気温差が大きな日が続きます。朝の外来や朝一番の造影検査では暖房が必要なのに、昼過ぎにはクリニック2階の西に面した部屋は西日が射す頃には冷房が必要な程です。



急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
敷地の植栽も春の花が終わり、藤やツツジの後にハナミズキやライラックの花がピークを越えるとシャクナゲやサツキが咲き始め、しばらく間を置いて芽吹き始めた紫陽花の季節に移り変わります。



急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
ツツジ



急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
キレンゲツツジ



急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
患者さんから鳥用にリンゴをいただきました。冬鳥が渡ってしまったこの時期にリンゴをいただくのは初めてでどんな鳥が来るのか興味がありました。先ずやってきたのはムクドリ、冬の間も頻繁にやってきましたがこの時期は競争相手のヒヨドリがおらず同種同士で熾烈な競争を繰り広げました。ムクドリの鳴き声は余り美しいといえませんが、更にダミ声の大きな鳥がバトルに加わりました。以前にも希に来ていましたが写真に収めることが適わなかったオナガです。



急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
鳩よりも大きく頭は黒、体から名前の通り体の半分程の長さとなる尾羽までは青灰色で尾の先端は白、大きさや体色から目につきやすく水平に飛ぶ姿も優雅な印象です。しかしカラス科の血筋は争えずイメージと正反対の鳴き声です。感染対策の一環で窓を開けて換気をすると鳥たちの声がよく聞こえます。緑を増して風に揺れる木々の景色とともに自然のBGMとして機能しています。





わが国で非常事態宣言が4月7日に発令され緊急事態措置を実施すべき区域として東京都を含む7都府県が指定されました。4月16日に全国に区域が拡大された後に長野県を含む39県では5月14日に解除、遅れて22日に近畿3府県が解除されました。5月25日には全国で解除される見込みです。

急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
5月1日に新型コロナウイルス感染症対策専門会議で提示された全国における推定患者数と実行再生産数(Rt)を見ると、3月下旬には前者がピークアウトしRtも<1に転じていることが分かります。此を以て緊急事態宣言は不要であったとの論調を見かけますが楽観的な結果論と感じます(或いは後出しジャンケン)。Rtがピークであった2月中頃から新型コロナウイルス感染症に対しては各方面から注意が喚起されていました。当ブログでも2月24日の投稿にて

一般的な対応策は
・人混みに行かない
・不要不急な集会は可能な限り延期
・咳エチケットや手洗いの徹底
・乾燥対策(気道粘膜の乾燥により感染リスクが上昇)
→マスクは気道の保湿の意味では有用
・厚労省の公表した受診の目安を参考に医療機関への過度な受診者集中を避ける
・ただし高リスク患者は要注意

今後期待される対応
・アビガン(ファビピラビル)等RNA鎖ウイルスの増殖抑制作用薬の有効性の証明
・患者発生率を低く保てば武漢の様な医療崩壊は回避可能
⇔逆に医療体制を上回るアウトブレイクが生じた場合、最悪武漢レベルの惨事も起こりうる
・半年以上先になるがワクチンの開発と接種優先順位の制定

まとめ
・個人や組織で出来る一般的予防策を徹底して感染数の増加を緩やかにかつピークを低くする。
・更に過剰受診の抑制で医療機関の機能崩壊を防ぐ(これが意外に難しい)
・高リスク患者は早めの対応
(厚労省の目安では微熱が2日継続で行動)
・そして重症化のリスク患者に十分な医療機会を確保する

と掲載しています。
「三密(密集、密閉、密接)」という言葉が世に出てきたのは遅れて3月中旬以降のことです。3月下旬にRtが1を下回り感染拡大にブレーキがかかった背景には2月中から呼びかけられていた行動変容が3月に入り本格的に実践され始めたことが寄与していた可能性が考えられます。PCR数が他の先進国と比較し少ないとの批判も聞かれましたが「封じ込めの成功はsocial distanceが主因であり、PCR検査を広く行う事は関係しない」ことを示唆する論文もあります。

岐阜大学の下畑亨良教授の解説を引用します。
67ヶ国のCOVID-19についての公開データでPCR検査率(ER)と検査陽性率(IR)の関係を調べたところ,有意な負の相関が見られた.これは検査率が低い国ほど検査施行を疑いの濃い例に絞っているためと考えられる.これを利用して全人口での陽性率(TIR)を回帰から推定できる.その結果ほとんどの国で,現在見つかっている数の10倍〜数百倍の感染者がいる(TICR)と推定された.東京都での感染率は6.8%と推定され,これは慶応大学での6%のPCR陽性率とよく一致する.米国での2つの抗体検査の結果とも推定感染率はよく一致していた.また,これを元に感染者死亡率(IFR)も推定できる.欧米主要国では0.2〜0.9%,アジア諸国は一般に低く,日本は0.015%で欧米の1/10以下であった.このように現在見つかっているよりはるかに多く感染者が広がっていると考えられることからは,世界どこでも完全な封じ込めは無理である.日本を含むアジアでは既に比較的弱毒であることから,院内感染を防いで強毒ウイルスを封じ込めて自然選択を模倣する弱毒化戦略が特に有効と期待される.

Estimation of the true infection rate and infection fatality rate of COVID-19 in the whole population of each country

90ヶ国のCOVID-19の封じ込め成功度とPCR検査率の間には有意な相関があったが,GDPを説明変数に加えた重回帰を行うとPCR検査率の貢献は消えて,封じ込め成功度はGDPのみで説明できた.GDPはsocial distancingへの遵守度に関連すると推測される.個々の国を見ても,タイ,マレーシア,シンガポールの近接3国を見ると検査率が低いほど(前記の順番,タイが最低)封じ込めは成功しており,全く逆の関係にある.日本はPCR検査率の低さ(0.19%)を批判されているが,検査率2〜7%の欧米主要国と比べると,最新の封じ込め成功度において,日本は欧米での優等生国(フランス,スペイン,ドイツ,イタリア)に匹敵しており,英国,米国,スウェーデンなどよりもはるかに良い.封じ込めの成功はsocial distancingが主因であり,PCR検査を広く行うことは関係しない.

急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性

Correlation between PCR Examination Rate among the Population and the Containment of Pandemic of COVID-19

アジア系患者数や死亡率が欧米諸国と比べてかなり低いことからBCG接種や遺伝的特性を指摘する向きもありますがいずれも科学的に証明されておらず、日本人を含むアジア人は新型コロナに対して耐性を持っていると結論付けるにはまだ早いと感じます。初期対応が遅れた武漢では医療崩壊が生じ多数の死者が出ました。アジア圏であっても感染が急激に広まると危険であることの証左です。また抗体検査などから潜在的な感染者数はPCR陽性者よりも多く、結果的に死亡率はインフルエンザ並みの可能性を根拠に非常事態宣言や自粛を否定する意見もありますが危険な解釈と思います。新型コロナウイルス感染症の厄介な点の一つはその増加と悪化のスピードです。インフルエンザの流行が数ヶ月に対し新型コロナは数日単位で動きます。故にインフルエンザ感染症でICUは逼迫しませんが新型コロナは崩壊させる潜在力を持ちます。Rtが1以下になり感染は収束しつつあっても3月末から4月上旬の新型コロナを診療していた医療機関にかかっていた負荷は異常なもので、感染を「確実に」収束させる急ブレーキが必要であったと推測できます。ウイルスはヒトが運びます、これは武漢で感染数が増大していながら国境を跨ぐ往来を禁止せず、春節を期に一気に感染が世界に拡大した事例を見ても明らかです。もし国内で非常事態宣言が機能せずゴールデンウィークに県境を越える人の往来が例年通りであればRtが再度上昇し感染が再燃していた危険性がありました。長野県内でのクラスター発生を見ても東京からの帰省者から家族を含む濃厚接触者に感染が広がる事例が多発していたことから、罹患率が高い区域からの移動は感染拡大のリスクであったことは明らかです。
一方で感染対策として何が有効で何が無効なのか次第に明らかとなってきました。近年誰もが経験しなかったパンデミックに対してエビデンスがようやく蓄積されてきたとも言えます。3月下旬に感染収束の傾向がみられたことは基本的な感染予防の徹底だけでも感染収束の糸口となった可能性を示唆します。一方でニューヨークなど短期間に感染が拡大した場合都市封鎖をしても効果は限定的であることも事実です。同じアメリカ合衆国内でも比較的早期に都市封鎖したカリフォルニアでは死者数はニューヨークに比べ抑制的です。

急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
京都大学山中伸弥教授のHPより

未知の状況に対する戦略は限定的な対応を小出しするよりもタイミングを逃さず総力戦で状況をコントロールし、生じた優位性の中で持続的な対策を展開することが肝要です。新型コロナウイルス感染症対策における有効性は戦術の持続性と表裏一体であり、それは感染予防と経済とのバランスそのものです。
今後は有効と思われる対策を継続しながら効果乏しい制限は解除し、経済活動との均衡が取れた感染対策に移行することが期待されます。緊急事態という有事対する急ブレーキは幸い機能しました。この場合経済的損失よりも感染拡大阻止の優先順位が高いと社会が判断した結果とも言えます。感染が収束に向かいつつある現在は平時への移行段階にあり、経済のアクセルを踏むことと副次的に高まる感染リスクのコントロールと両面に展開が必要です。
病院や老人施設など重症化のハイリスク者が集まる場所での感染予防の強化、徹底したクラスター対策は今後も重点課題です。更に武漢やニューヨークの例を見れば感染再拡大が観測された場合は速やかに移動制限を含む行動抑制が求められるでしょう。おそらく来ると予想される第2波のピークがなるべく低くなるように、必要な行動変容は継続しつつ自粛が段階的に解除されることを希望します。そのまま年単位に緩やかに推移すればやがて治療薬やワクチンが整備されインフルエンザと同レベルの共存が達成出来ると考えます。


急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
ヤマブキ



急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
白ヤマブキ


今月の治療指標の達成度です。
急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性

急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性

今月は血清リン高値のケースが先月よりも多く、リン高値によりPTHも高めとなり達成率が先月および先々月と比較しやや低下しました。それでも88%の方は血清リン値5.5mg/dl以下を維持しています。例年暑くなると低下しやすい栄養指標は血清アルブミン、アルブミンをパラメータに持つGNRIとも低下傾向(先月との比較で有意差は今のところ無し)にあり、来月以降の推移が心配です。またリンが高い方の栄養指標は必ずしも十分な数値では無く、特に先月比で尿酸よりもリンの増加量が多いケースがほとんどであり、栄養にならないリンである添加物由来の無機リン摂取が増えた印象を持ちます。新型コロナウイルス感染症の影響で食生活にも変容があったのか定かではありませんが、引き続き栄養になるリン(蛋白質)の摂取を励行します。

透析効率(Kt/V)や透析時間の平均値はほぼ変化がありません。ただし透析後のカリウム値が3.0mEq/Lを下回り食事によるカリウム摂取増加が上手くいかないケースではKt/Vを低下せざるを得ず、多くの方に蛋白質に加えて野菜や果物の摂取増加を勧めました。特に今月はバナナ1本、オレンジ1個など具体的に付加する品目を提示し、2〜3等分して朝と夕食時にまたは三食のデザートとして摂るようにお勧めしました。透析は目的とする物質ごとに除去量を変えることが出来ません。例えばカリウムが低くてリンが高い方の透析条件を変更する際に、リンを下げるために効率を上げると透析後のカリウムは更に低くなってしまいます。逆に効率を下げると透析後のカリウムは許容の範囲に上昇する一方でリンは上限を超えてしまいます。内服薬でKを補充する、リン吸着薬を増やす方法もありますが、クスリを増やすよりもなるべく食事でコントロールすることが望ましいと考えます。

ややサイズの大きい尿毒素であるβ2MGの除去率について以前は80%を越えていましたが、栄養状態の十分で無い方向けに蛋白漏出量の少ないマイルドな膜を採用して数%低下しました。透析は基本的に毒素を除去する「引き算」の治療であるため、栄養状態を考えずに効率を上げてもバランスが取れません。栄養を十分に摂る「足し算」とペアで考えることが大切です。生活習慣である食事の内容を「変容」するのは一筋縄ではいきませんが、粘り腰で対応したいと思います。

透析治療における「体重の増加」には複数の意味があり混同してしまうと栄養管理にも影響を与えます。
体内のどの成分が増えるかの違いで

1. 水分の摂り過ぎで起こる短期的な体重増加(透析間の体重増加)
2. 栄養状態が良く筋肉や脂肪の質量が増える長期的な体重増加(ドライウェイトの上昇)

に分けて考えると理解し易くなります。
その上で透析間の体重増加は経口摂取した「水分」の重さであり、その他多くの固形物は便秘がない限り「大便」として排泄されてしまうことに注目しましょう。つまり水分以外は食べた分だけ排泄され体重増加はプラマイゼロです。透析間の体重増加=除水量を気にする余り食事量を極端に少なくするケースを見受けますが、長期的には栄養失調となり筋肉や脂肪が減ってドライウェイトを下方修正することになります。透析間の体重増加を抑え長期的にはBMI 24程度までドライウェイトを増やす食事がベストです。BMIが26以上の場合はカロリーコントロールと適度な運動で脂肪量を減らします。

BMI(body mass index)=体重kg/(身長m)の2乗



急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
ルピナス(昇藤)



日本透析会・日本透析医学会・日本腎臓学会
新型コロナウイルス感染症対策合同委員会資料より
急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
わが国における透析患者の新型コロナウイルス感染者数は5月22日午前の段階で96名、死亡者数は14名で死亡率14.6%と一般の感染者と比べ高く推移しています。


急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
患者数、死亡率とも60台から上昇し後者は高齢である程高くなっています。男性で患者数が多いことも一般の新型コロナウイルス感染症と同じ傾向ですが、透析患者では死亡率の高さが目立ちます。



国内での年齢別感染者数(東洋経済 ONLINEより)
急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
80歳以上の患者数:1536名、死亡者数:228名、死亡率:14.8%(26.1%)
70台の患者数:1496名、死亡者数:102名、死亡率:6.8%(20%)
60台の患者数:1743名、死亡者数:44名、死亡率:2.5%(11.8%)
50台の患者数:2555名、死亡者数:16名、死亡率:0.6%(0%)
()内は透析患者

透析治療は物理的に遠隔化不可能なため必ず通院が必要となります。同室で何人もの患者が治療を行うため一人でも感染者が出た場合クラスター化しやすく、感染した場合特に60歳台以上の患者では一般の患者と比較し予後不良となる可能性が高いと言えます。従って緊急事態宣言が解除された後も感染予防には十分留意する必要があります。患者さんには引き続き院内でのマスク着用、手洗いの徹底、なるべく三密空間を回避すること、体調不良時は来院前の連絡をお願いします。クリニックとしては治療室入室前の検温、酸素飽和度測定、定期的な換気、スタッフの体調管理の徹底を継続します。



急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性
サツキ


感染リスクの高い方は通年で手洗いと人混みでのマスク着用が推奨されます。
マスクについての考え方は感染症専門医の高山義浩先生の案が参考になります。
急ブレーキの必要性とその後、有効性と持続性

感染対策は一人一人が自主的に行うもので他者に押しつけるものではありません。
過度な権利制限やプライバシー侵害、罰則規定のない施策で感染拡大と医療崩壊を回避したわが国に「自粛警察」は不要です。

須坂 腎・透析クリニック


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Posted by Kidney at 17:39│Comments(0)ひとりごと
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