2020年07月24日
長梅雨と感染再拡大と予防のために
今年は長梅雨になりそうです。気象庁のホームページによるとここ10年の梅雨明けは早くて6月29日ころ(2018年)遅くとも7月29日ころ(2016年)ですが今年は8月まで続きそうな様相です。同ホームページの資料では1951年以降梅雨明けが8月にずれ込んだのは4回のみ、直近では2007年の8月1日ころでした。平年が7月21ですからやはり梅雨明けは遅いようです。今年は降水量も比較的多い様で年間降水量が一定ならば冬期に雪が少なかった影響もあるのでしょうか。
写真は桔梗、背景に紫陽花がぼけて写り込みます。
夏の花サルスベリ、晴天が似合う花ですが暫しお預け。
緊急事態宣言が解除されて2ヶ月、県境を越える移動が原則自由となり約1ヶ月が経過しました。6月末に東京では連日50名前後の感染者数が報告されていましたが7月中旬以降は200名を越え300名に至る増加を示しています。東京のほか関東圏や大阪府、愛知県でも感染者は増加傾向にあり都市部での感染増加が目立ちます。
(Flourishより引用。)
(Flourishより引用。)
新規感染者数の増加はPCR検査数の増加によるものといった説明も聞かれましたが、陽性率は確実に増加しており7月下旬に至っては40代以上の感染者も増え始めていることから市中感染に移行した可能性は高いと判断されます。
(東洋経済ONLINEより)
長野県では6月18日を最後に新規感染はゼロとなっていましたが7月11日に新たに報告されてから7月20日までに9名が新規感染として入院しています。前回の流行期と比較し20-30代の若い感染者が多くPCR検査数も増えた事などは現時点での重症化例の少なさと関連していると思われます。しかし感染者の絶対数が増えれば二次感染のリスクも高まり、ヒトの移動で地方に拡散する可能性も出てきました。Go to travelキャンペーンが開始直前で東京都を除くなど右往左往したことも、ウイルス拡散のリスクと観光業など経済の苦しい立場のせめぎ合いの結果であったと推察されます。しかし大規模な感染拡大が生じれば当然経済活動にも急ブレーキがかかる懸念がありGo to troubleにならないことを祈るばかりです。
新型コロナウイルスはインフルエンザと異なり感染者は発熱などの自覚症状が出る前から(発症前から)感染源となり、例え発症しなくても同じく感染源となることが報告されています。感染症専門医の忽那賢志先生の記事でも分かりやすく解説されています。(図も引用)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200723-00189530/
季節性インフルエンザでは症状が出た後に感染性のピークとなるのに対して、新型コロナウイルス感染症では発症前にピークとなり周囲にうつしている可能性があります。
どれくらいの割合で無症状のヒトから感染が生ずるかまとめたデータがあります。感染の45%は発症前の感染者から、5%は無症候性感染者からとなっており半数の感染者は症状のない感染者からの伝播であることが分かっています。これが症状が無くても必要に応じてマスクを付ける理由です。
新型コロナ感染症の感染様式は
1. 飛沫感染
2. 空気感染(飛沫核感染)
3. 接触感染
に分類され主体となるのは飛沫感染と考えられていました。飛沫が環境中に付着し手指を介して粘膜に運ばれるのが接触感染です。上の図では全感染の10%を占めます。石けんによる手洗いやアルコール消毒はこの接触感染を防ぐ有効な手段です。一方で接触による環境からの感染は全体の1割程度であり主体である飛沫感染を防ぐことが大切となります。
以下厚労省のHPからの引用です。
「閉鎖した空間で、近距離で多くの人と会話するなどの環境では、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染を拡大させるリスクがあるとされています。(WHOは、一般に、5分間の会話で1回の咳と同じくらいの飛まつ(約3,000個)が飛ぶと報告しています。)飛沫感染の予防には基本的な感染予防の実施や不要不急の外出の自粛、「3つの密」を避けること等が重要です。これまでに国内で感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていない一方で、一定の条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が報告されています。集団感染が生じた場の共通点を踏まえると、特に、1.密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、2.密集場所(多くの人が密集している)、3.密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や共同行為が行われる)という3つの条件のある場では、感染を拡大させるリスクが高いと考えられています。人と人との距離をとること(Social distancing; 社会的距離)、外出時はマスクを着用する、家の中でも咳エチケットを心がける、さらに家やオフィスの換気を十分にする、十分な睡眠などで自己の健康管理をしっかりすることで、自己のみならず、他人への感染を回避するとともに、他人に感染させないように徹底することが必要です。」
更に6月6日付けの感染症専門誌Clin Infect Dis. July 06 2020(doi.org/10.1093/cid/ciaa939)にて、世界32カ国の科学者239名がCOVID-19は患者の呼吸や咳により生じた空中を浮遊する小さな飛沫(microdroplet)により、数メートルもしくは部屋サイズの範囲で空気感染(airborne transmission)することはほぼ確実であるという論文を発表しました。これはソーシャルディスタンスやマスクの着用だけでは十分に予防できない可能性を示し、空気感染を防ぐ方法として以下の3点を提示しています。
1. 十分かつ効果的な換気を行う(外気を取り入れる。特に公共の建物、職場、学校、病院、高齢者施設では重要)
2. 通常の換気に加え、局所の排気、高効率空気濾過、殺菌性紫外線などの空気感染対策を行う。
3. 特に公共交通機関や公共の建物では過密状態を避ける。
当院でも院内では原則全員マスク着用の上で1時間に1回1分間の換気を施行中です。
マスクの有用性については院内感染の予防の観点から有用性を認める報告も出ています。
JAMA. July 14, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.12897)
Association Between Universal Masking in a Health Care System and SARS-CoV-2 Positivity Among Health Care Workers
「病院におけるユニバーサル・マスキングのエビデンス」
病院におけるユニバーサル・マスキング(UM)とはすべての医療従事者,患者が常時マスクを着⽤することである。院内UMが医療従事者のPCR陽性率に及ぼす効果について、米国マサチューセッツの12病院からの報告。調査期間は①医療従事者のUM実施前(ピンク)、②患者のUM実施までの移行期間(紫)、③症状の発現を考慮した遅延時間(黄色)、④介入期間(緑)の4つに分けられ、検査を受けた9850名の医療従事者のうち1271名(12.9%)がPCR陽性であった。介入前の期間中PCR陽性率は0%から21.3%へと指数関数的に増加した。介入期間中陽性率は14.7%から11.5%へと直線的に低下し、1日あたりの平均低下率は0.49%、傾きの変化は1.65%(P<0.001)であった(図1).UMは患者と医療従事者間および医療従事者間の感染の減少に寄与したと考えられた。 院内感染を防止するためには医療従事者に加えて患者もマスク着用を徹底する必要があることが示唆されています。
何処まで感染予防を徹底するかは若年者と高齢者、健康な人と有病者ではレベルが異なります。透析を受けている方は高齢者が多く感染すると重症化しやすい最も気をつけなければいけない集団の一つです。
50代での死亡率は全国平均1.0%に対して透析患者では5.6%
60代での死亡率は全国平均4.9%に対して透析患者では11.5%
70代での死亡率は全国平均16.6%に対して透析患者では29.7%
80代以上での死亡率は全国平均39.4%に対して透析患者では26.9%
(日本透析医会の集計より)
80代以上は一見低く見えますが母集団が少ない影響であり当然高齢者であればリスクは高くなります。8月にはお盆もあり都市部からの帰省者と接触する機会も増えますが、透析患者さんにおいては濃厚接触者とならないように距離やマスク、面会時間など十分感染対策を取るようにお願いします。
今月の治療指標の達成度です。
暑くなってくると例年栄養指標が低下傾向を示しますが、今年も血清アルブミンが下がりつつあります。夏風邪等で炎症反応CRPが増加すると逆相関で低下する事例もあるため、有意差の無いレベルでは評価がやや困難ですがnPCR, GNRI, %CGRは概ね横這いのため、経口摂取の維持を呼びかけるとともに推移を見守ります。
暑くなるとよく認められるパターンの一つに食欲が低下し主食や副菜の摂取が低下する傍らで、果物や水気の多い食べやすい物が多くなる事が挙げられます。透析患者では尿量が少ないか全く出ないため、本来は尿として体外に失われるはずの2L近い水分が常に備蓄されています。ダムに例えるならばほぼ放流の出来ない状態で水が貯留している状態です。水位を下げるには自然に蒸発する(汗や不感蒸泄)かポンプで強制的に水をくみ上げる(透析による除水)しかありません。しかしポンプの容量は限られているためそれ以上水が流れ込むと(飲水すると)容易に危険水域(高血圧や心不全・呼吸不全)に到達します。透析患者さんは冷たい水を飲むことで涼を取ることは避けた方が安全です。冷房で部屋全体を涼しくし、扇風機で特に身の回りに冷風を流すなど環境で涼を取る工夫が大切です。
当院ではフットケアチームによる足趾の定期的な経過観察を行っており、末梢動脈疾患に対してはABIによるリスク層別管理としています。ABIが正常範囲で診察上も異常所見がない場合は月一回のフットケア回診と年1回のABI測定。ABI<0.9では測定期間が半年に1回となり<0.7では三ヶ月に1回で所見があれば関連病院のフットケア外来へ紹介となります。ほかにも白癬菌感染等による足爪肥厚に対する物理的処置も行っています。この度爪を削るグラインダーと削り滓飛散防止のためのデバイスを新たに備えました。
AC電源-DCモーターのグラインダー。従来の充電型製品よりパワフルかつ長時間使用が可能となりました。
球形の透明なプラスチックで作業空間を閉鎖して治療を行うため削り滓が飛散せず衛生的です。
肥厚部分を削り必要に応じて抗真菌薬を塗布します。
ガクアジサイ
感染制御と経済活動との両立を前提に非常事態宣言は解除され県境を越える移動も自由化されました。その結果が現在の感染者数であり遅れて重症者数の増加と空きベッド数の逼迫が生じれば死亡者数の著増に至る危険性も出てきました。ワクチンや治療薬の導入まで年余の期間が想定されるため我々は根本的な価値観のパラダイムシフトを要求されているのかもしれません。
須坂 腎・透析クリニック
Posted by Kidney at 16:46│Comments(0)
│ひとりごと