2020年08月27日
梅雨明け熱中症警報と引き続きCOVID-19
梅雨明け早々に気温が急上昇し一昨年を思い出す猛暑が続いています。降雨量も少なく庭の水撒きに一苦労、蚊除けスプレーを念入りに噴射しましたが腕を数カ所刺されてしまいました。その赤味が消えかけた頃に新しく刺される・・・エンドレスです。
百日紅に遅れて凌霄花も花を付け始めました。
一度切り戻した桔梗は二番花を咲かせています。
《熱中症について》
体温に近い気温を記録する日が続き熱中症の死亡者が増加しています。熱中症は体温調節機能が未発達な小児での危険性が指摘される一方でやはり老化により体温調節機能の低下した高齢者での発症が圧倒的です。総務省の2019年8月の「熱中症による救急搬送状況」を見ると熱中症で救急搬送されるケースの半分以上を65歳以上の高齢者が占めています。
次に熱中症の発生場所別の統計を見ると住居の割合が最も多く、不特定多数が出入りする「公衆」の項目でも半分弱が屋内です。
高齢者が屋内で熱中症になるケースは意外と多く熱中症全体の死亡年齢割合を見ても若年層よりも60歳以上の高齢者で多くなっています。
屋外の気温が30℃を越える日が続くと屋内でも室温が30℃を越える危険性が高くなります。また加齢に伴い暑さに対する感受性が低下するため「まだ大丈夫」と思っていても室温が30℃を越えている場合も多いようです。実際に救急搬送されたお年寄りの生活背景を見ると、「エアコンが無い・エアコンを使っていなかった」に加えて「エアコンを使っていたが室温が28℃以上になっていた」ケースもあるようです。屋内で熱中症にならないためには自分の温度感覚を当てにせず室温計を置き、28℃を越えたらエアコンを付けて設定温度ではなく室温計が28℃以下になるように調節することが大切です。
《COVID-19関連》
新型コロナウイルス感染症の流行が遷延化しており日本感染症学会では「第2波」との表現が使われました。今春の「第1波」と比較し若年層の感染が多くクラスター対策としてのPCR検査数も増えたため感染者数は2倍強となっていますが重症者数の増加は比較的緩やかです。
しかし若年者層が主体であった新規感染が次第に高齢者に波及し都市部だけではなく地方においても感染者数の増加が散見されます。その結果全国レベルでの重症化数は漸増傾向にありこのまま第2波が収束するか否かは各レベルでの感染対策の徹底に影響される余地は高いと考えます。
「ECMO.netより国内のCOVID-19重症者におけるECMOを含む人工呼吸器装着数」
新型コロナウイルス感染症の特徴は感染してから症状が出る前に他人に移す可能性があることであり、流行が遷延化している原因でもあります。
新型コロナウイルス感染症は若年者にはただの風邪でも(後述の通りだからといってむやみに感染して良いわけではありません)高齢者にとっては命取りになる感染症です。致死率や実行再生産数のみを捉えてインフルエンザや肺炎球菌感染症と同列に論ずるのは現時点では甚だ危険といえます。正しく理解してきちんと予防することが大切であり、早期にわが国で提唱された三密(密閉、密集、密接)を避けることは主たる感染様式の飛沫感染を予防することになり有効です。更に換気を徹底することで空気感染への対策にもなります。わが国の三密回避の有効性が国際的にも受け入れられて3Cを避ける(Avoid the Three C’s)ことが提案されています。
今月BMJに掲載された総説において新型コロナウイルス感染症に関連した最近の知見から
「換気が良いところでマスクして黙っていれば、距離が近くても感染リスクは少ない」ことや
「換気が良くないところで合唱した場合、距離をとっていても感染が広がる」ケースが分かってきています。
距離だけではなく、屋内外・人の数・換気・マスク着用の有無・会話など状況を総合的に考えることが大事と主張されています。
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を若年者では新型コロナウイルス感染症「ただの風邪」とする向きもありますが、
1. 基礎疾患の無い若年成人でもせきや疲労などの症状は長期化しうる報告
Symptom Duration and Risk Factors for Delayed Return to Usual Health Among Outpatients with COVID-19 in a Multistate Health Care Systems Network — United States, March–June 2020
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6930e1.htm?s_cid=mm6930e1_w
2. 診断後2〜3ヶ月経過しても心筋損傷の所見があり、将来心不全等の心疾患が生ずる可能性があるとする報告
Symptom Duration and Risk Factors for Delayed Return to Usual Health Among Outpatients with COVID-19 in a Multistate Health Care Systems Network — United States, March–June 2020
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6930e1.htm?s_cid=mm6930e1_w
3. 退院時においても肺機能障害が認められる報告
Abnormal carbon monoxide diffusion capacity in COVID-19 patients at time of hospital discharge
https://erj.ersjournals.com/content/56/1/2001832
など急性期を過ぎても後遺症が残る可能性の報告があり若年であっても容易に感染すべきではない事が示唆されます。
6月のブログでも無症状感染者は抗体価が低く回復早期に陰性化してしまう報告を引用しました。
https://www.nature.com/articles/s41591-020-0965-6
またつい先日香港からの報告で一度新型コロナウイルスに感染して治癒した33歳の男性が二度目の感染を引き起こしたことが明らかとなりました。
COVID-19 re-infection by a phylogenetically distinct SARS-coronavirus-2 strain confirmed by whole genome sequencing
https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciaa1275/5897019
更に炎症性サイトカインであるTNF-αの蓄積が胚中心の形成を阻害し長期に渡り液性免疫の産生に関わるメモリーB細胞の存在減少に関与する可能性も報告されています。
Loss of Bcl-6-expressing T follicular helper cells and germinal centers in COVID-19
https://www.cell.com/cell/pdf/S0092-8674(20)31067-9.pdf?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0092867420310679%3Fshowall%3Dtrue
英国が感染初期に集団免疫の成立を目指したことから感染爆発と都市のロックダウンを引き起こし、先進国の中でも前期比最低のGDPを記録したことは記憶に新しいことです。これらの報告を考えると感染による免疫獲得はいささか困難でありそれこそ「普通の風邪」と同じように何度も罹患する可能性が高いことになります。つまり集団免疫の獲得はワクチンの開発を待たなければならないことになります。
感染予防の話題としてマスクの種類と飛沫拡散の関係を研究した報告がありました。
1. サージカルマスク
2. 呼気バルブ付きN95マスク
3. ニット生地のマスク
4. 2層ポリプロピレンマスク
5. ポリプロピレンフィルター内装のコットンマスク
6. プリーツ入りコットンマスク(Hudson’s Hill社製MAXIMA AT)
7. コットン二枚重ねマスク
8. 手縫いコットンマスク
9. プリーツ入りコットンマスク二枚重ね
10. プリーツ入りコットンマスク一枚重ね
11. ネックフリース
12. バンダナ
13. リボン付き2層コットンマスク
14. N95マスク
最も効果的だったのはN95マスク(14)で飛沫の透過率は0.1%、これに近い効果はサージカルマスク(1)、次にポリプロピレン素材のマスク(4,5)。
布製マスクに関してあまり差は見られず、むしろ顔にフィットしているか、どれだけ大声で話すかによって効果は異なるとの指摘。
ニット製のTシャツ素材のマスク(3)やバンダナ(12)は布マスクよりも効果が低く、ランナーがよく使うストレッチ素材のネックフリース/ネックゲイター(11)は大きな飛沫を細かく分割し簡単に生地の外へ漏れ出る可能性があり、マスクをしてないよりも悪い結果となっています。
感染者と接触する医療者はN95、通常の医療現場ではサージカルマスク、一般的な使用においては顔にフィットした布マスクで良さそうです。バンダナを巻き付けただけやネックゲイターは着用しない方が良いかもしれません。しかしBMJの総説ではマスクの有無にかかわらず大声や歌唱は飛沫拡散のリスクが高い事が示唆されており総合的に考えた予防策の実践が望まれます。
今月の治療指標の達成度です
透析医会の指標はほぼ変化無しで貧血の指標ヘモグロビン(Hb)も血清リン(P)も90%以上を維持しています。透析量Kt/Vは全体平均でやや低下しました。新規導入者が何名か同時に編入したことと超高齢者で透析後カリウム低値から意図的に透析量を落としたケースが数例あった結果と見ています。独自指標ではやはり暑さの影響でからか栄養関係の数値が漸減傾向にあります。高齢でもしっかり食べて透析量も最大限高く設定できている方と、比較的若くてもADLの低下も相まってなかなか食事量や運動量が限られてしまい、透析後の数値によっては透析量を絞らざるを得ないケースもあります。血清アルブミン< 3.5g/dlで数ヶ月にわたり改善傾向に乏しい例では、
1. 栄養指導
2. 経口栄養補助食品の導入
3. IDPN(透析時経静脈栄養)
を順次取り入れていますが家庭での栄養摂取状況が変わらないと効果も限定的な印象です。ケアマネや訪看など在宅での状況に精通している職種と情報共有して、持続的な介入を行う必要があると考えています。
コムラサキの実が少し色づいてきました。暑い日は続きますが少しだけ秋の気配も漂い始めています。
新型コロナ感染症と向き合う日々はまだ続きます。
長期化する中で正しい情報収集と冷静な行動が求められています。
1. 環境を総合的に考えた感染予防=三密の回避
2. 予防の程度は個人によって異なる
→医療者・高齢者・持病のある方はより慎重に、
同時に他者に自分の基準を押しつけない
3. 誰でも感染しうる可能性がある
→感染者を差別・排斥する行為は下衆の極み
4. ワイドショーなどのテレビ番組はエンターテイメント(娯楽)であって「情報番組」の質を担保できていない〜見ない方が良い(特にテレ朝)
過日、某ワイドショーで「水中毒」について取り上げていました。警視庁警備部の公式ツイッターで注意喚起がなされていたことがきっかけかもしれません。本来水中毒は特殊な状態でしか起こりえず一般化して説明してしまうと、かえって水分補給を躊躇したり塩分の過剰補給を招く危険性を感じました。今月はブログ内容が随分長くなってしまったので、詳しい解説はこちらから。
https://www.facebook.com/takayuki.koyama.3382/posts/3201547229927660?notif_id=1598436543373550¬if_t=feedback_reaction_generic&ref=notif
須坂 腎・透析クリニック
Posted by Kidney at 16:33│Comments(0)
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