2024年10月24日
残暑長引き気付けば晩秋の神無月

昨年に引き続き10月下旬に咲く金木犀、それまでより半月近く季節がズレている感じがします。しかも花付きが良くありません。クリニックの敷地には2本の金木犀がありますが、より西日の当たる正面の花はまばらに咲いて、あっと言う間に散ってしまいました。

いつも真っ先に咲いていた黄色彼岸花(鍾馗蘭)も10月に入りやっと開花しました。これは咲き始めの画像になります。

後方の半日陰には先行して紅白の彼岸花が咲き三色そろいました。

半日陰の紅白の花、この右手奥にはほぼ日陰に咲く彼岸花の群生があります。そちらは随分前に花が落ちて根元から葉が生えてきました。
彼岸花は通常、花芽が出て花が枯れた後に葉が成長します。花と葉が同時に現れないことから「葉見ず、花見ず」といわれ忌み嫌う風潮もあったのだとか。

しかし今年の彼岸花は開花が昨年よりも大幅におくれたためか、花が枯れないうちに葉が生えてきました。「花葉揃い見る」曼珠沙華が吉兆なのか凶兆なのか・・・。
日中は真夏日にもなった残暑引きずる神無月でしたが今週初めからは打ってかわって朝夕の気温が平年並みに下がるようになりました。一気に晩秋の大気に置き換わった様もであり、それは過ごしやすい季節としての「秋」が無くなってしまった気分です。季節の変わり目は寒暖差が激しく体調不良の原因にもなります。咳や鼻水など上気道炎症状も季節性アレルギーなのか、感染症なのか、はたまた寒暖差アレルギーなのか、迷うケースも多いです。涼しくなると温かい料理を求め汁物の摂取も多くなりがちの影響もあってか、先週末から透析間の体重増加が多く除水量の設定に悩む場面が増えました。その除水量について少し解説します。
血液透析における除水について
通常体内に貯留した余分な水分は尿として体外に排泄されるため体水分量はほぼ一定にコントロールされています。そして腎臓は24時間かけてゆっくり尿を生成します。一方で血液透析では腎臓が行う2日または3日分の仕事を4時間で賄っていることになります。かなり短時間で血管の中の水分を除去するため自ずと除水量には限界が生じます。一般的にドライウェイトの5%以内、心機能低下があり血圧が安定しないケースでは3%以内が推奨されています。これを越えて除水することは可能ですが除水量に対し血管外から血管内に戻る水分の量が追いつかないと、血管内の水分が極端に低下し血圧が急降下してショックを起こすことになります。血管はゴムホースと異なり比較的自由に水が血管内外に移動します。特に血管内に水を引き留める役割を持つ蛋白質(アルブミン)が低下すると、血管内に戻れない水分が皮膚と筋肉の間に溜まり浮腫(むくみ)になります。

血管外から血管内に水分が戻ることをplasma refillingといい個人差が大きいとされます。戻りが悪いと透析時の除水により血管内の水分が少なくなりやすいため、血圧降下や足の攣りなどの原因にもなります。しかし除水しきれず体内に残った水分は過剰になると心臓の負担になるため、なるべく決められた体重(ドライウェイト)まで除水を行うことが望まれます。血液透析による除水には限界があることを認識するとともに自身の摂取可能な水分量を把握し、体液過剰にならないようにコントロールすることが大切です。


彼岸花を撮影していたところアキアカネが目の前に現れ、シャッターチャンス!
2024年10月の治療指標の達成度


透析医会指標の内、貧血項目のみ達成度が90%を下回りました。血液疾患の影響と血液透析導入から間もなく回復途上にあるケースが増えた影響です。造血ホルモンおよび鉄剤投与で調節する一方で、造血ホルモン抵抗性の場合は輸血にて対応します。残暑の影響か栄養指標の回復は足踏み状態です。来月以降の推移を見守りたいと思います。

クリニック正面のジューンベリー、部分的に紅葉してきました。

ハナミズキも色づいてきましたが発色が今ひとつです。
寒くなると呼吸器感染症が流行しやすくなります。基本的な予防策とともに可能な範囲でワクチン接種を済ませることも大切です。当院では今月インフルエンザ予防接種を行いました。新型コロナウイルスに関しては希望の職員の接種は既に終えており、60歳以上の透析患者および60歳未満の希望者の接種を11月初旬に予定しています。正しい知識に基づいた確実な予防が真に有効と考えます。
須坂腎・透析クリニック
2024年09月20日
秋遠し、長月は夏の延長線上に

9月も半ばを過ぎてクリニックの中庭では例年通りに彼岸花が開花しました。この花が咲く頃は少しばかり涼しい気候を思い浮かべるのですが、今年は長月中旬になっても真夏日が続いています。

それでも35℃超の猛暑日は無くなりマリーゴールドの花付きもかなり復活してきました。

コムラサキの実も色づいて視覚的には秋の風物詩が増えています、しかしながら日中の気温のみが矛盾して高値を維持しています。
それでも朝夕の気温は大分過ごしやすくなりました。酷暑で落ちた食欲、栄養状態の低下を挽回する時期でもあります。そこでブログでは度々触れてきたリンを上げずにしっかり蛋白質を摂取する方法について復習したいと思います。
リンを上げずに蛋白質を十分摂取するヒント
はじめに
透析患者さんのミネラルバランスを評価する際に特に注意すべき項目としてカリウムとリンが上げられます。カリウムは野菜や果物など生きた細胞の中に特に多く含まれており、通常腎臓から90%程度排泄されます。従って腎不全ではカリウムの排泄が滞るため血液中での濃度が上昇しやすくなります。一定以上カリウム値が上昇すると心臓が止まってしまうこともあり最も注意すべきミネラルと言えます。一方でリンも腎臓から排泄されるため腎不全患者では血中濃度が上昇します。カリウムとの違いは濃度が急上昇しても心停止のような生命の危機に直結する事態にはならないことです。ただし高い状態が継続すると様々な代謝に影響を及ぼし生命予後を悪化させるリスクがあります。明らかな自覚症状が無いのに生命予後に悪影響を来す意味でサイレントキラーとも呼ばれています。
無機リンについて
リンは肉や魚など蛋白質に含まれる有機リンと、添加物として利用される無機リンに大きく分けられます。有機リンの消化管からの吸収率は50%程度ですが、無機リンは90%以上と大きく少量でも高リン血症の原因になりかねません。

リンが上がりやすい食品とは
蛋白質は血液や筋肉など私たちの体を構成するタンパク成分の材料となります。故にしっかりと摂る事が重要です。しかし添加物由来のリンを多く摂取するなどして血液中のリンの濃度が上がると、蛋白質を摂る余地が損なわれてしまいます。大切なのはリンを上げずに蛋白質を十分に摂ることといえます。そのためには、
・蛋白質の量の割にリンが多い食品を避ける(リン/タンパク比の多い食品を避ける)
乳製品(ヨーグルト、牛乳、プロセスチーズなど)

・食品添加物が多く含まれる加工食品に注意
即席麺・カップ麺、加工肉、練り物、プロセスチーズ、スナック菓子、冷凍食品
清涼飲料水・炭酸飲料など
・意外とリンが多い食品に注意
玄米、ライ麦パン、魚卵(イクラ、たらこ)、干物、きな粉、チョコレート、ポップコーン、ケーキ、アーモンドなど木の実
・骨ごと食べる魚は控えめに
しらす、煮干し、シシャモ、鮭缶などの中骨

加工食品の上手な摂り方
加工食品は便利ですが炭化物由来のリンを多く摂取してしまうリスクがあります。そこで、
・リン含有量の少ない食品を選ぶ
・食べる量や頻度を減らす
・麺の茹で汁は捨ててスープは別のお湯で作る
・カップ麺は調味料を半分にして注ぐ湯量も半分にする
・加工肉や練り物は切って断面を増やして茹でこぼす
なるべくリンを上げずに蛋白質をしっかり摂るヒントを紹介しました。食生活の中で工夫をして栄養の維持、向上に努めましょう。
今月の治療指標の達成度。


残暑の影響か栄養指標の回復が遅れている印象です。今月もドライウェイトを下げるケースが目立ちました。摂取カロリーの低下から筋肉や脂肪が落ちると(痩せると)体重設定に変化が無ければ相対的に体水分量が増えて、心胸郭比の拡大や血圧の上昇に繋がります。実際には心胸郭比や血圧が変化する前に、体水分量の指標の一つである透析後hANPが増加することも多く、hANP>70を目安にドライウェイトを下方修正しています。日本透析医会の指標は全て90%以上達成しています。
9月8日松本市で開催された第72回長野県透析研究会で当院の小林祐介 臨床工学技士が発表を行いました。

カルシウムとリンを調節するホルモンであるPTHの測定結果についての報告です。

外注先の検査会社の都合で採血管を変更したところ、不自然にPTHの値が低下しました。

変更前後の採血管と経時変化に強い別の方法(血漿検体)で測定をしたところ、採血管により測定値にかなりの差が出ることが分かりました。
この結果から当院では最も影響の出にくい検体(血漿)でPTHを測定しています。
毎月の定期検査では結果を鵜呑みにせず細かな変化も検知して、正しく解釈を行えるように最深の注意を払っています。

切り戻した桔梗が二度咲きをしています。
彼岸を過ぎても続く暑さですがそえももうすぐ落ち着き、季節の変わり目がやってきます。体が気温の低下に馴染むまで体調不良の出やすい時期でもあります。しっかり食べて、しっかり睡眠を取って、可能な範囲で体を動かして調子を崩さずに秋の到来を楽しみましょう。
須坂腎・透析クリニック
2024年08月20日
盆空けて夕風涼むも陽射しは強し

日が沈むと少しだけ涼しさを感じるようになり、夕暮れ時も少しずつ早くなっています。コムラサキの実も色付き始めました。

エゴノキの実
一方で陽射しがまだ旺盛な日中は猛暑日手前まで気温が上昇し、ウンザリするような暑さが未だ続いています。

南天の実、今年は落ちずに頑張っています。
毎週のように台風の影響も耳にするようになり、ゆっくり季節が変わりつつあることを感じます。

今年は開花が遅れていた百日紅も見頃になりました。
以前、透析の定期検査について項目ごとに解説をしてみました。その際に当院の定期検査レポートをアップしました。

上3分の1がレントゲンと体水分量を反映するhANPの組み合わせで主にドライウェイトを評価する項目、残りは採血結果を大まかに栄養状態、ミネラルバランス、貧血管理に分けて評価する項目で構成されています。長らく手書きで作成していましたが、毎月100枚以上を仕上げると手首に違和感が残るようになり、キーボード入力に切り替える準備をしていましたがようやく実用に足るカタチになり今月より運用しています。

Kt/VやnPCRを自動計算するためエクセルをベースに作成、主要な項目はIF構文で自動的に判定し表示するようにしました。作成スピードは手書きよりも体感2割ほど早くなり、手首への負担もかなり軽減しました。検査データはデータ管理サーバーから直接飛べば良いのですがシステムの構造が複雑で今後の課題です。検査週の回診日に行うレントゲン結果解説時点でレポートは完成されたいないため(同日に外注結果が到着)、iPadで結果を閲覧しながらの回診となります。
血液透析患者のカルテは、
1. 医師記録
2. 透析記録兼看護記録
3. 処方記録
4. 経過サマリー
5. 検査レポート
7. 他院検査結果・診療情報提供書
など頻回にアクセスすべき項目が多く、システムも電子カルテ、透析監視、画像管理と複数存在する事に加え、週三回治療が行われるため記録の量も膨大となり、瞬時に参照したいデータにアクセスすることがなかなか円滑にいきません。記録の全てを電子化していない理由もここにあります。医療でもDX化は必然と思いますが、伝票管理システムと化した大手電子カルテのような現場が不便となる改悪は是非回避したいところです。
2024年8月の治療指標の達成度。


猛暑が続いている影響か特に高齢の方で食事摂取量が低下している傾向があります。具体的には透析間の体重増加の低下、逆に食事が取れず水分のみ取り過ぎてしまうケース、栄養指標の低下、特に血清アルブミンの低下が例年よりも目立ちます。ドライウェイトを下方修正する方も多く気候が身体に与える影響を改めて実感しています。必要の応じて透析中の頚静脈栄養(アミノ酸製剤、脂肪乳剤)の併用、食思不振改善目的での漢方薬の使用など対策を講じ、透析後低カリウムを生ずるケースでは一時的に透析効率を下方修正しています。

マリーゴールド、暑さにめげず開花を保ち続けています。

低灌木アベリアの花、小さくて遠目には目立ちませんが、花の少ないこの時期には貴重です。

今年植えた桔梗も二番花が咲きました。
8月中旬より新型コロナ感染症に罹患した患者さん、家族が罹患し経過観察中の患者さんがじわりと増えてきました。集団感染とならないように感染対策は平常運転で継続中です。流行の主体がオミクロン株とその派生亜種となってから、重症の肺炎を起こす率はかなり低下しワクチンを適正に接種している場合は症状も軽く済むようになりました。一方でコロナ後遺症(Long-COVID19)に悩まされるケースが増えているようです。

新型コロナ感染症がただの風邪と違うのは、
・インフルエンザよりも高い感染性
・特定のケース(高齢者や持病持ち)で重症化や死亡例が未だ高い
・後遺症の発生率が高く、その機序に関しては未だ不明なことも多い
の三点に集約されます。このうち後遺症に関しては感染回数が高くなるほど発生率も上がることが確認されています。

広く流行しているため「絶対にかからない」のは無理かもしれませんが、運が悪ければ後遺症と長く付き合わなければならない感染症に罹患することは損であり「なるべくかからない」ように対策をとる事が推奨されます。

当院ではユニバーサルマスク、定期的な換気、感染者および濃厚接触者の一定期間の隔離透析をを行いクラスター発生の防止策としています。
まだまだ暑い日が続きますが体調を万全にお気を付けてお過ごしください。
須坂腎・透析クリニック
2024年07月20日
梅雨明けて猛暑真っ只中、そして第11波

この時期、中庭の彩りがやや寂しくなることもあり今年は予めサルビアとマリーゴールドを待合から眺めやすい場所に植えてみました。猛暑真っ只中ですが奥のブルーサルビアと共に期待通り咲いています。

マリーゴールドも奮闘中、もう少し暑くなると開花は一時休止して秋口に復活するかもしれません。

エゴノキの根元の桔梗も今がピーク、年々桔梗色が薄くなり絞り紋様化しています。

夏の花「百日紅」やっと開花、今年は少し遅れています。

今年初めの第10波から半年余が経過し再び定点あたりの患者数が増加して来ました。今月に入り周辺でも感染者がチラホラと出始めて増加傾向を感じていましたが、夏休みに合わせるように第11波のピークが訪れそうです。昨年5月から新型コロナウイルス感染症は五類感染症に移行し季節性インフルエンザ並みの扱いとなりました。そのためか「ただの風邪」とみなす風潮やワクチンの効果を曲解するカルトじみた論調も増えてきた印象です。
新型コロナウイルス感染症が季節性インフルエンザや普通感冒(つまりただの風邪)と異なるポイントは次のとおりです。
1. 感染力が高い(季節性インフルエンザの数倍)
2. 冬期に限らず夏にも流行する
3. 後遺症になる割合が高く、後遺症に対する治療法が確立されていない
4. 高齢者や持病を持つ方が感染すると重症化しやすい
季節性インフルエンザが普通感冒と別に扱われている理由は、後者よりも感染力が高く症状も重いことにあります。その季節影インフルエンザよりも感染力が高い新型コロナウイルス感染症を普通感冒と同列に扱うのはおかしな話です。しかも後遺症や重症化の割合は季節性インフルエンザよりも高いため尚更対策をしっかり講ずる必要があります。
・飛沫感染のリスクが高い場所ではマスクを
・空気感染の予防に空調中でも定期的な換気を
・高リスク者や医療関係者にはワクチンの追加接種を
感染すればするほど神経系や循環器系に後遺症が発生する率が高まることと、その背景にウイルスの当該細胞への持続感染の機序も明らかになってきています。新型コロナウイルスに感染することは大変な損をすることに他なりません。

長野県内でも同様の傾向があり注意が必要です。10月1日より高齢者、持病を持つ方へのワクチン接種の綱要が発表されましたが現場では詳細な情報待ちの状態です。透析患者には追加接種を強く推奨するとともに私を含むスタッフも任意接種する方針です。

もう一つの夏の花、ギボウシ。
2024年7月の治療指標の達成度


透析医会の指標は全ての項目で90%以上の達成度になりました。先月、先々月の治療介入の効果が現れています。血清Pのみ極端に上昇したケースがあり栄養指導を含めて個別に対策を施行中です。高齢者が多いこともあり栄養指標は低め安定な感が否めません。今年は例年以上の猛暑が予想されており、栄養の維持に傾注したいと思います。

院内でも植物が彩りを添えてくれます。

開院当時に頂いた胡蝶蘭、毎年咲いています。

ゲンペイボク、ここ数年花付きが今ひとつ。

西日を浴びる玄関前の植栽。
18日に梅雨が明けて猛暑が戻って来ました。今年は10年に一度の暑さとの報道も。
エアコンの適正使用で屋内環境を整えることも必須となってきました。感染対策も抜かりなく進めたいと考えています。
須坂腎・透析クリニック
2024年06月21日
おそい梅雨入りと水無月の頃の花々

「梅雨の頃に咲くイメージがある紫陽花、今年は水無月半ばを過ぎても梅雨入りの発表は無く紫陽花の見頃の方が先にやってきました。」と午前中に文章を書き始めていたら、お昼のニュースで関東甲信越の梅雨入りが発表されました。今年は夏至の日に梅雨入りです。

同じくシャラの花も雨滴を纏うイメージが強いのですが晴れた日に開花しました。翡翠玉とも呼ばれる蕾は数日、開花してしまうとほぼ1日で散ってしまう儚い花です。

小紫の花も開花、実の色よりも淡いながら同系色の小さな花弁です。
信州も程なく梅雨入りしそう→本日(21日)梅雨入りですが日中の気温は真夏日となる日もあり、既に初夏の環境となりました。休日外来では熱中症の搬入も出始めている様子です。
「熱中症と脱水症」
熱中症は高温環境に長く滞在するなどして体温が上昇し、更に体温調節機能のバランスが崩れて体内に熱がこもった状態です。体温上昇に対して人体は皮膚浅層の血管を開いて皮膚温度を上昇させる、加えて発汗を促し気化熱によって皮膚面からの熱の放散を促すなど調節機能を働かせます。この機能が低下すると熱中症を発症します。

熱中症は多くの場合脱水症を合併します。発汗量に対して水分摂取量が不足すると汗の産生量が低下し体温調節機能も低下する悪循環に陥ります。また汗には水分の他ナトリウムなどのミネラルも含まれるため、何リットルといった多量の発汗に対し水分のみを補給すると血液中のナトリウムが低下し筋肉の痙攣や意識障害など、緊急を要する状態に陥るリスクがあります。発汗に対し一般的に水と塩の両方を摂取することが推奨される所以です。ただしきちんと食事が取れていれば、軽度の発汗に対して過剰に塩分を摂る必要はありません。特に心臓や腎臓に病気のある方や高血圧の方の塩分摂取は慎重である必要があります。
先に触れた通り熱中症は人体の体温調節機能の破綻が原因であるため、脱水が無くても発症します。また水分だけ補給していれば発症を回避出来る訳でもありません。特に尿量が低下または全くない透析患者さんでは元々尿として排泄されるはずであった水分が丸々体内に残されているため、相当過酷な発汗を生じない限り脱水になる事は希です。

それでも高温多湿の環境に長く滞在することで熱中症を発症するリスクがあります。透析患者さんの熱中症予防で大切なことは高温多湿な環境をなるべく回避することです。熱中症の過半数は屋内で生じていることから、居間や寝室など滞在時間の長い環境では適切にエアコンを使用して室温を28℃以下にコントロールすることを推奨します。ここで大事なのは室温を28℃以下にすることであって、エアコンの設定温度を28℃以下にすることではありません。室内環境により設定温度と実際の気温は乖離するため、室温計を設置してその気温を目安にエアコンの設定温度を決めることが肝腎です。


桔梗、中庭の待合室から見やすい位置に新たに寄せ植えしてみました。
今月の治療指標の達成度


透析医会の指標ではHb, Pの達成度がやや低下しました。前者では併発症の観血的処置のため低下した例が数名、ESA減量に伴い経過観察中に10.0未満に急に低下した例数例と原因が明らかなためESAの増量および必要なケースでは鉄剤の併用で対応済みです。後者では普段余り高値にならない方で漸増しているケースが散見され栄養指導を含めた原因検索を勧めています。血清Pを低下させる目的で蛋白制限を強化することは栄養面から得策ではありません。蛋白質を十分に摂取しながら、透析効率を十分にアップする、適切にリン吸着薬を使用する、そして最も大切なのは栄養にならないPつまり添加物由来のPをなるべく回避すること、そのためにはリン/蛋白比の少ない食品を積極的に用いることです。


患者さん家族からお借りしている孔雀サボテン(紅)

同じく(白)。クリニック玄関先に置かせて貰っています。

木々の色も新緑から深緑に変わりつつあります。
高温多湿の季節が始まります。適切な環境管理で今年も乗り切りましょう。
須坂腎・透析クリニック
2024年05月24日
GW明けの五月、晩春と初夏の狭間

クリニック駐車場の北西、サインボードの隣の緑地。ライラック、ハナミズキそしてシバザクラの花が終わると数種類寄せ植えしているラベンダーが見頃になります。

玄関向かって右手のサツキもピークを越えて来ました。手前のライラックの樹勢が年々弱まっていることが若干気がかりです。向かって左側のジューンベリーの実も大分大きくなって来ました。

中庭のハクモクレンの周りに植えられたコデマリ、一部はまだ蕾です。

その隣のエゴノキにも花が付きました。下向きに鈴なりに咲く白い花は下から見上げるとキレイです。

エゴノキと手前のシラン。スマホの広角レンズも中々優秀です。
2024年5月 治療指標の達成度


日本透析医会の項目では血清リンの高い方がいつもより多い印象です。個別にお話しを伺うと、乳製品を毎日摂るようになったケース、連休で家族が集まり肉類の摂取が大幅に増えたケース、骨粗鬆症の気があると指摘されカルシウム補給目的で小魚を食べるようになったケースと様々でした。原因が特定出来ない場合は食事内容1週間分を記録して貰い、管理栄養士さんと相談する機会を設けます。一方でカリウムやリンについて高すぎて何とかしたい方々よりも、余裕があるのでもっと食べてほしい方々の方が圧倒的に多い傾向です。そこでミネラル成分から考えた透析食についてまとめてみました。
「ミネラルから考える透析食」
血液透析では本来腎臓が行うはずの水分やミネラルのコントロールを、透析や濾過といった物理現象を応用して腎臓のかわりに担っています。しかし血液透析は本来腎臓の持つ役割の10〜15%程度にしか相当しないため、食事療法や薬物療法を組み合わせてやっと十分なレベルの腎不全管理に到達します。
透析を受けている患者さんの食事内容は一般的に「透析食」と称されます。腎臓から主に排泄されるカリウム、そして骨代謝とのバランスでコントロールされるリンも腎機能低下により排泄されにくくなり、透析食では何れも摂取量に上限が設定されます。また食塩の成分でもあるナトリウムは体水分量に大きく影響(厳密には細胞外液量)するため、やはり摂取量に上限があります。
1. カリウム:透析前<6.0 mEq/L, 透析後>3.0 mEq/Lを摂取量目安1,500〜2.000mg/day
1日1,500mgのカリウムは日本人の成人の標準的摂取量の半分くらいです。透析の効率が高くなると除去量が増えて透析後のカリウムが低くなりすぎることもあり当院では透析前カリウム濃度6.0mEq/Lまで許容内としています。特に女性はカリウムのリザーバー(貯留場所)とも言える筋肉量が少ないため透析前のカリウム値が同じでも男性に比較して透析後のカリウムが低くなりがちです。(筋肉量が低下した高齢の男性でも同じ事が言えます。)カリウムは細胞内に多いミネラルのため生の細胞成分で校正される生野菜や果物に多く含まれます。同じ細胞成分として肉や魚にも含まれます。

蛋白源としての肉や魚は十分量の確保が大切なため一般的には野菜や果物の摂取量で調整されることが多いです。糖尿病を合併している場合、果物は糖分を多く含むため血糖値が上昇しやすい空腹時(間食としての摂取)は控えて、三度の食事の最後に摂ることを勧めています。カリウムは高くても低くても生理的な活動に支障を来します。これから夏野菜が美味しくなる季節、カリウムに余裕がある場合はしっかり旬を楽しみましょう。

2. リン:透析前<6.0mg/dlを目標に摂取量の目安750〜1,000mg/day
リンは肉や魚など蛋白質の摂取により消化管から吸収され血液内に入ります。本来骨と血液間のやり取り、腎臓からの余剰分の排泄、それらをコントロールするホルモンのバランスで適正内にコントロールされていますが、腎機能が低下するとそれらが破綻してしまいます。以前は蛋白質制限がリンコントロール主体でしたが蛋白制限を行わずにリンを適正値にコントロールすると蛋白制限をしていた場合より予後が良いことが明らかとなっており、なるべく蛋白質摂取を制限しない方法が求められています。具体的には十分な透析を行うこと、栄養にならない添加物由来の無機リンを避けること、リン吸着剤を規則正しく服用することの3点が大切です。無機リンはほぼ99%近く消化管から吸収されるためわずかでも血中リン濃度を上げてしまいます。加工肉や練り物、乳製品などは添加物由来の無機リンが比較的多く食べ過ぎないことが大切です。また骨ごと食べることが出来る小魚や骨そのもの(鯖缶や鮭缶の中骨)はカルシウムとリンの結晶とも言えるため、回避した方が無難です。一部の清涼飲料水もリン含有量が高い製品があり注意が必要です。栄養にならないリン(無機リン)をできるだけ回避して筋肉や血液の材料として大切な蛋白質を十分に摂ること、また摂取した蛋白質を自分の体に取り込む(同化)には十分なカロリーも必要なため、適切なカロリーを摂取することも併せて考えることが大事です。過剰なリン摂取を控えて蛋白質を十分に摂るには食品中のリン/蛋白比が低い物を摂ると良いでしょう。乳製品はこの比が高いため、リンが高めの方は摂取しない方が良いでしょう。

3. ナトリウム(塩分):6g/day未満
体内の水分バランスにおいて塩と水は常にペアで考えます。簡単に言うと体内ではナトリウム濃度を常に一定にしようと様々な調節が行われています。摂取する塩分量が多いと余剰な塩分を薄めるための水を欲します。塩辛い物を食べると喉が渇くのはこのためです。腎臓が正常に機能していれば薄まった塩分と水分は尿として体外に排泄されるためバランスが保たれます。末期腎不全では尿量が減少しナトリウムや水分の排泄量も減るため摂取量も減らさないとバランスが破綻して体水分量過多になります。塩分を取り過ぎると口渇感から水分を欲し何の制限も無く飲水すると体水分量が上限を超えて、高血圧、むくみ、更には心臓への負荷が高まり心不全を誘発することもあります。

口渇感はかなり強い欲求であるため、喉が渇いてから飲水を我慢するのはかなり厳しいことです。故に喉が渇かないように塩分を制限しつつ飲水量を適正化する方が容易とされます。
今回はミネラルの面から透析食の内容と必要性について見てきました。細かな部分は患者さんによって許容範囲が異なるため、採血やレントゲン結果を見ながら個別にお話しするようにしています。

屋内のブーゲンビリア、今年も沢山の花が咲きました。

やや目立たない場所の昇藤(ルピナス)

紫陽花の花芽も出てきました。
連休が明けて新年度も本格的に始動しました。朝晩の肌寒い気温に春の名残を感じ、夏日となる日中には初夏の兆しを想います。その前に梅雨を経ねばなりませんが、スコールの如き事醒めな雨にならないようにと希望します。
須坂腎・透析クリニック
2024年04月25日
春爛漫2024

サンシュユの黄色い花が開き始めると、あっと言う間に隣の彼岸桜と奥のハクモクレンも開花の時期を迎えます。

中庭で最も早く色づくサンシュユ。

ソメイヨシノよりも早い時期に咲き、花弁の色も濃い彼岸桜。

ハクモクレン、背景の下草はレンギョウ。

遠景のユキヤナギ、近景のチューリップにはさまれたムスカリ。

玄関先には香りも楽しめる沈丁花とジューンベリー。比較的長く咲く沈丁花に対してジューンベリーの花はあっと言う間に散ります。


日本透析医会、当院独自指標とも大きな変化はありませんでした。データには表れませんが季節の変わり目は気温の変動幅が大きいためか体調不良を来す、感染症で入院加療が必要となるケースが散見されます。十分な栄養摂取と睡眠、適切な体水分管理で万全な体調管理を。

4月も下旬になるとライラックが開花し芳香があたりを漂います。

ハナミズキ双色、手前の白は花付き不良です。

駐車場のライラック、芝桜。

ミツバツツジと咲き始めた藤の花。
今月は春爛漫の写真のみです。
須坂腎・透析クリニック
2024年03月26日
手強かった弥生の雪、麻疹と紅麹

3月中旬の中庭、手前のクリスマスローズと奥の水仙が共に満開。写真ではぼけていますが中間にあるユキヤナギの花芽も動きはじめました。
ところが・・・

3月20日夕方、弥生にしては多めの雪が降り始め、

翌21日朝には季節が1ヶ月戻ってしまったかのような降雪。水分が多く除雪が大変でした。

とはいってもやはり弥生の雪、溶け始めるのも早く同日昼頃には埋まっていたクリスマスローズも顔を出し始めました。

水仙の花芽は完全に倒れてしまい回復まで時間がかかりそうです。
はしか(麻疹, mumps)Up to date
風邪症状のあとに全身に発疹が出るウイルス感染症です。感染力が高いこと、一度かかるとほぼ一生かからない強力な免疫が誘導されることも知られています。そのため昔は感染者が出ると免疫を獲得する目的で敢えて近付いて感染させたエピソードもありました。現在新型コロナパンデミックの期間に麻疹ウイルス接種率が低下した結果、世界各地で感染者が増えており海外旅行先で感染し国内に持ち込まれるケースが報告されています。
以前は免疫を獲得する目的で敢えて感染する行為も行われていた麻疹、ここ20年程の新たな知見から感染するとかなり損をすることが明らかとなっています。
ウイルスは自分で増えることが出来ず宿主の細胞に感染してその細胞を利用して増殖します。2000年に麻疹ウイルスが免疫系の細胞に感染するカギとなる蛋白質が同定されました。そのため麻疹に感染すると一過性に免疫機能が低下する機序が明確になりました。そのため肺炎などの二次感染を合併しやすく、現代でも1000人に1人程の死亡率を有しています。また2019年には麻疹感染によってこれまで獲得した免疫がリセットされる可能性も指摘されました。また数万人に1人に割合で治癒後平均7年で重い脳炎を発症することもあり、おいそれと感染して良いウイルスではないことは明らかです。
現時点で国内では大きな流行にはなっていません。慌ててワクチンを接種する必要性は低いと思われますが、麻疹にかかったことが無い、ワクチンを受けたことが無い人は一度麻疹の抗体価を調べてみると良いでしょう。それによりワクチン接種の必要性、1回で良いのか2回必要かの判断が可能になります。

(CRCグループHPより)
余談ですが、新型コロナウイルスも想像よりも多くの割合で神経系や心血管系の細胞に長期感染し、将来的に認知症や心不全の発症率が高まるリスクが指摘されており「ただの風邪」として見ていると思わぬしっぺ返しを貰うかもしれません。
麻疹の症状
RNAウイルスによる感染症で潜伏期は10〜12日。
1. 発症1〜2日(カタル期=風邪のような症状)
・38℃戦後の発熱
・咳
・咽頭痛
・鼻水
・目の充血、涙目
2. 発症3〜5日(発疹期)
・一度解熱し再度高熱が出るとともに発疹が出現
・発疹は頭部から始まり次第に下方へ向かって広がる
・発症から5〜6日で発疹は消失
3. 発症7〜10日(回復期)
・解熱して回復
麻疹の特徴
・非常に感染性が高い(空気、飛沫、接触感染の混合経路)
感染者と同じ空間にいた人で免疫がないと10人中9人が感染する
1人が感染すると、周りに居る12〜18人が感染する(インフルエンザは2人程度)
・感染者はほぼ100%発症する
・免疫を担う全身のリンパ組織を中心に増殖し一過性に強い免疫機能抑制状態となる
別の細菌やウイルス感染が合併して重症化することもある
・発症者は「免疫記憶」が薄れ、他の感染症にかかりやすくなる
・約1000人に1人死亡する
・感染から5〜10年後に数万人に1人が重篤な脳炎(SSPE)を起こす
・治療薬が無い
・ワクチン2回接種で防御率97%
・一度出来た免疫は20年以上持続する
麻疹ウイルスは呼吸器から体内に侵入し、免疫細胞に特異的に発現するSLUM (CD150) を受容体として細胞に感染することが九州大学の橋口先生らの研究により明らかとなりました。(他にもCD46を介して皮膚、腎臓、肝臓、消化器など全身の諸臓器に感染します。)
Tatsuo, H., Ono, N., Tanaka, K. et al.: SLAM (CDw150) is a cellular receptor for measles virus. Nature, 406, 893-897 (2000)
古くから麻疹に感染すると、肺炎などの二次感染を合併し重症化すること、逆にネフローゼ症候群の様に免疫系の暴走で発生する症状は軽快することなど、一過性に免疫抑制が生ずることは経験的に知られていました。
「麻疹ウイルスの感染及び免疫抑制機構」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv1958/45/2/45_2_117/_pdf
免疫系細胞に特異的に発現する蛋白質(SLUM)が感染に関与することが明らかとなり、科学的にその機序が解明されたことになります。更に、2019年にはオランダから、麻疹に免疫を持たない子供が麻疹にかかると11〜73%の抗体が消失したとの論文が発表されました。これまで獲得していた病原体に対する免疫記憶がリセットされ失われた可能性を示唆します。
Measles virus infection diminishes preexisting antibodies that offer protection from other pathogens, Michael. J. Mina. Et al, Science, 1 Nov, 2019
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aay6485
弱毒化生ワクチンであある麻疹ワクチンはウイルスが免疫細胞に感染するターゲットであるSLUMと結合出来ませんが、麻疹ウイルスに対する免疫はしっかり誘導されます。麻疹は感染すると一過性の免疫抑制により二次的に肺炎などの感染症を併発し易いなど現代でも死亡率が高く、稀ですが感染後7年前後で重篤な脳炎を来す可能性があり、インフルエンザの6〜9倍感染力がある感染症です。また免疫記憶がリセットされ他の感染症にかかりやすくなるリスクもあります。決して容易に罹患してはならない手強い相手との認識が必要に思います。麻疹ワクチンの接種率の高い集団は麻疹の減少だけでは説明出来ないほど全体の死亡率が減少することが観察されており、ワクチンが麻疹以外の感染症をも減らすことが一因だと考えられています。

ハクモクレンの花芽、雪解けの後の青空。

もうすぐ開花するサンシュユの花芽。


日本透析医会の指標は何れも90%以上の達成度でした。年末年始の影響が薄れ、透析条件や内服薬の調整も効いてきた印象です。各種栄養指標も1月から改善傾向に有り今後も続いてほしいと考えます。
小林製薬の紅麹含有サプリに起因する腎障害

3月22日小林製薬から発売されている「紅麹コレステヘルプ」等の製品を摂取した13人に腎障害が生じて6人が入院、一時的に透析が必要となったケースもあった事が報道されました。現時点で原因究明は出来ていない様子ですが、一部の製品のロットと原料のロットに含まれる物質を分析したところ通常ではみられない未知の波形が検出され、想定外の物質が混入し腎臓障害を惹起した可能性が考えられています。紅麹といっても使用されるカビは何種類か存在し、中には腎毒性のあるシトリニンと呼ばれる物質を産生する種もあります。既に欧州ではサプリメント内でのシトリニンの基準値を設定するなど対策が取られています。今回、国内で発生した腎障害に関係したロットの原料からはこのシトリニンは検出されていないそうです。また2020年10月小林製薬と奈良先端科学技術大学院大学との共同研究で、主に日本で使用される紅麹菌 (M. pilosus) はシトリニンを合成する遺伝子を持たないことが明らかとなっています。
https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2020/201002_02/
3月25日更に20人が入院していたことが判明しました。想定していない成分(別のカビ毒の可能性)を含む原料を使用した「紅麹コレステヘルプ」の製造番号が公表されました。
<ドラッグストアなどの店舗やECサイトでの販売分>
計14種類 製造番号:J3017、X3037、X3027、X3017、H3057、H3047、H3037、H3027、H3017、F3037、F3027、E3037、E3027、D3079
<小林製薬の通信販売を通じての販売分>
計4種類 製造番号:X304、H306、G301、E301
3月26日には同社の健康相談窓口の集計でサプリの摂取に関連した腎障害で更に多くの入院患者が発生した様子であり、因果関係の否定出来ない死亡例も相談窓口に寄せられています。
「紅麹」がすべて腎障害の原因となるわけではなく冷静な対応が求められます。一方でこれら製品の摂取に心当たりの方は直ちに接種を中止して、心配な症状があれば医療機関を受診することを推奨します。
小林製薬の問い合わせ先
<当社の通信販売を通じてご購入のお客様>
対象製品:紅麹コレステヘルプ 15日分・30日分
小林製薬通信販売 紅麹健康相談受付センター
電話番号:0120‐58‐5090
受付時間:9時~17時(土日・祝日は除く)
※4月末までは土日・祝日も対応いたします。
インターネットからのお問い合わせ:https://www2.kobayashi.co.jp/inquire/
<ドラッグストアなどの店舗やECサイトにてご購入のお客様>
対象製品:紅麹コレステヘルプ 20日分
ナイシヘルプ+コレステロール 地区限定品(石川、富山、福井県) 28個販売済
製造番号:23508 ※製造番号は製品裏面の左下に記載
ナットウキナーゼ さらさら粒GOLD 地区限定品(広島、山口県) 41個販売済
製造番号:J301 ※製造番号は製品裏面の左下に記載
小林製薬 紅麹健康相談受付センター
電話番号:3月26日 0120‐5884‐12
3月27日以降 0120‐880‐220
受付時間:9時~17時(土日・祝日は除く)
※4月末までは土日・祝日も対応いたします
想定外の物質が混入することで腎障害が引き起こされる事例は過去にもあります。1995〜2000年頃に中国から輸入された特定の漢方薬を服用した人に腎機能障害が発生する報告が相次ぎ漢方薬腎症 (Chinese herb nephropathy) と呼ばれました。日本の漢方薬には含まれないアリストロキア酸を含む生薬・漢方薬の摂取が原因であると判明しました。日本薬局方に適合する生薬については問題ありませんが、生薬の呼称は国によって異なる場合もあり、輸入漢方薬の個人使用には注意が必要です。
日腎会誌 2005;47(4) 「民間療法によって末期腎不全に至ったアリストロキア酸腎症の1例」
https://jsn.or.jp/journal/document/47_4/474-480.pdf
アリストロキア酸を含有する生薬・漢方について
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2003/14896/siryou2.pdf
今回の紅麹含有サプリは個人使用の生薬とは比較にならない流通量であり、今後腎障害の発症数はかなり増えるのではないかと予想します。同時に原因物質の究明と治療手段の確立を望みます。

リュウキンカと蕗の薹

ユキヤナギ
季節の変わり目、三寒四温。
寒暖差で体調が乱れやすい早春。
体調管理にご留意ください。
須坂腎・透析クリニック
2024年02月23日
如月における春の気配

日中15℃を越える春のような陽気の次の週は1月並みの寒気、ジェットコースターのような寒暖差です。写真は寒椿に積もるみぞれ、2月後半になると降雪しても気温が高いためか水分を多く含み瞬く間に儚く消えて行きます。季節の変わり目を象徴する一瞬かもしれません。

2月中旬には閉じていたクリスマスローズのつぼみ。

先週の温かな気温に誘われて開花していました。

(ウェザーマップより)
2月5日(月)の南岸低気圧通過に伴う降雪は朝から夜半にかけて連続的に続き、翌朝の降雪量は40cm前後に到達しました。委託している業者さんの雪かきでクリニックの駐車場は使用可能となりましたが、いつも以上の降雪量のため通常2台分で済む雪置き場が4台分となり、積み上がる雪の高さも1m近くになりました。最も駐車台数が多くなるのは月水金の午後と夜間帯がクロスオーバーする16時頃、水曜日の同時間帯には駐車スペースに駐めきれないクルマも出ました。翌木曜日の透析終了後は雪置き場のうち2台分を確保すべく雪の壁を削り奥に積み上げる作業に従事、腰痛と全身の筋肉の張りと引き換えに金曜日は余裕で駐車スペースを確保出来ました。翌週の後半は日中15℃を越える日もあり、残る雪の壁も日に日に高さを減じています。温かな日と寒い日が交互に繰り返すようになると、春の訪れが近いと感じます。そういえば同じ頃に増加するB型のインフルエンザ陽性者も増えてきました。

(Tenki.jp より)
2月5日の週は透析の定期検査週でもあり、透析を終えた患者さんのレントゲンを撮影しながらクリニック中庭が次第に雪に埋もれて行く様子を嘆息混じりに眺めていました。さらに大雪の影響で高速道路が通行止めとなり検体がその日のうちにラボに搬入出来ない事態となりました。そのため通常は水曜日には解析可能な月グループの検査結果が木曜日着となり、通常水〜金の3日で解析する検査結果を木・金の2日で行わざるをえなくなり、しばらく眼精疲労気味でした。

透析中の発熱
来院時は平熱で自他覚症状が無く、透析中〜後半に発熱するケースを時折経験します。ふるえを伴い高熱を呈する場合は血液中に細菌が存在する状態(菌血症〜敗血症)が疑われ、炎症反応や白血球数特に好中球比率が高いケースでは、高次機能病院に救急搬送となる場合もあります。また当院では経験がありませんが結核感染が隠れていることもあり、特に一般的な抗生剤が無効なケースではinterferon-gamma release assays(IGRA)であるQFT法やT-Spot法による診断も検討します。透析患者では免疫力が低下しているため種々の感染症を想定して鑑別する必要があります。これら感染性の発熱以外にヘモダイアフィルターや透析液に対するアレルギー反応で発熱するケースがあり非感染性発熱と呼ばれます。当院ではCRP軽度高値で白血球数正常、好中球比率も正常範囲ながら透析毎にふるえと発熱を認めるケースを経験しました。一般的な抗生剤は効果無くT-Spotは陰性で、ヘモダイアフィルターをATA膜からPS膜に変更したところ症状が消失しました。ATA膜は生体適合性が良いとされますが非感染性の発熱が疑われる場合は変更を検討する必要があると改めて実感しました。
2024年2月 治療指標の達成度


年末年始の影響で血清Pが高めであったケースは、今月何れも許容範囲に低下しました。栄養指標の一つ血清アルブミンは上昇傾向です。年末年始の「特別な」食事からいつもの食生活に戻った印象のデータです。カロリーや蛋白質摂取の観点からは「特別な」食事並みの摂取継続が望ましいのかもしれません。一方で「加工食品」の割合が多くなる年越しの食事内容は栄養にならない無機リン摂取過多に留意する必要があります。お正月くらいは多少羽目を外してもやむを得ないと思います、しかしそのために普段の食事は適切なカロリー、適切な蛋白質摂取で整えておくことも大切です。

水仙も花芽が大きくなってきました。

寒椿の下には蕗の薹です。
季節の変わり目は寒暖差が大きく体調不良を感じる人が多くなります。寒暖差アレルギーに加えて花粉アレルギーも出始めて、鼻炎症状を自覚するケースも多い様です。冷たい空気を気道に入れないためにはマスクが有効です。季節性アレルギー性鼻炎をお持ちの方は早めに抗アレルギー薬の内服や点鼻を開始することもお勧めします。
須坂腎・透析クリニック
2024年01月25日
令和6年辰年睦月の冬景色

令和6年の元日は月曜日。よってクリニックの仕事始めは元日です。幸い雪も降らず落ち着いたスタートとなりました。このまま積雪のない穏やかな冬を期待していましたが・・・

やはり雪の舞う冬景色となりました。

雪がほどよく着雪した「ユキヤナギ」。初春にヤナギのようにしだれる枝に白い小さな花が咲き乱れる様子を雪に見立てて命名されましたが、本物の雪を纏い開花している姿を想像してしまいます。

南天の赤い実にも雪が舞い降りてお正月らしさの漂う絵になりました。
1月中旬にかけて結構な積雪となり雪かきの頻度も多くなりました。雪かきは全身運動でもあり特に腰への負担が大きく腰痛が悪化傾向に。

「山田温泉大湯」
腰痛が悪くなり始めたら必ず訪れる場所、高山村山田温泉の公衆浴場「大湯」。解党00年の歴史を持つ名湯で、入浴後は熟練のマッサージ師に施術を受けた後のように症状が軽くなります。
2024年1月の治療指標の達成度


年末年始で食事内容が普段と変わり、その影響で血清リンや栄養指標に変化がでるのでは?と考えていましたが統計的には有意な変化を検出しませんでした。ただし血清リンが急上昇し、せっかく落ち着いていたPTHまで上昇してしまったケースもあり変動幅の大きな例では処方の調節や栄養指導の予定を入れました。
血液中のCaやPは消化管で吸収され腎臓で排泄され骨と血液の間で動的なやり取り(代謝)が行われています。そしてパラサイロイドホルモン(PTH)やビタミンD等の物質が腎臓、消化管、骨の三者が関係するこれらの代謝を調節しています。PTHが骨に作用すると骨が分解されCaとPが血液中に移動しCa濃度が維持される一方、余計なPは腎臓から排泄されます。しかし腎不全ではPの排泄が滞るため血液中のPが上昇します。また消化管からのCaの吸収に必要なビタミンDは腎臓と肝臓で活性化されて初めて機能します。腎不全では腎臓でのビタミンDの活性化が低下し消化管からのCaの吸収が少なくなりCaは低下しやすくなります。PTHはCa濃度が低くP濃度が高い状態で分泌が亢進するため、中等度異常の腎不全では病的に血液中の濃度が高まります。この状態を二次性副甲状腺機能亢進症といいます。これを放置すると骨からCaやPがくみ出され骨が病的に脆くなるため、PTHの産生を抑制する働きのある活性型ビタミンD製剤や、PTH産生細胞に対してCaが十分あるようなふりをするCa受容体作動薬(Ca mimetics)を用いてPTH濃度をコントロールします。
PTHが高くCaが低い場合はCa濃度を上げるビタミンD製剤を第一選択とします。しかしビタミンD製剤はP濃度も上げてしまうため、同時にPが高いと使用しづらくなります。その場合はPのコントロールを優先させます。PTHが高くCaも高い状態ではCa受容体作動薬を選択します。この薬はCaが潤沢にある「ふり」をするので使用すると実際のCa濃度は低下します。従ってCaが低い場合は使いにくいといえます。実際は両方を使用するケースも多く、毎月の採血の結果からP>Ca>PTHの順でコントロールしています。

ハクモンレンに積もった雪と青空。

真冬に咲くハイビスカス。

インフルエンザA型は例年よりも早く流行した分、ピークアウトも早めでした。1月下旬となりインフルエンザB型もわずかですが検出されるようになりました。COVID-19は漸増傾向にあり第10波と見る向きもあります。
5型感染症になりましたがインフルエンザよりも感染力が高く、高齢者やワクチン未接種者では重症化率も高いため、感染の拡大には一定の歯止めが必要です。雨の降る日には傘をさすように、人混みの中では余計な飛沫を吸い込まないようにマスクを付けることはコロナ禍前から普通に行われていました。新型コロナウイルには持続感染による心血管系や神経系への影響、EBウイルスなど他の持続感染ウイルスの再活性化への関与などまだ十分に解明されていないリスクが潜んでいます。不用意に感染してしまうことは健康にとって非常に損をしていることになります。基本的な感染対策である手洗い、うがい、人混みでのマスク、定期的な換気、油断なく実行したいと思います。
須坂腎・透析クリニック