2019年11月22日

秋深まる霜月と工事



11月も中旬を過ぎると遠くに見える北アルプスの尾根が白くなり、やがて里山の紅葉が深くなる頃に一つ奥の深山の頂きに冠雪が現れます。先月は台風19号の影響で透析条件の変更や送迎先の変更などありましたが、次第に収束し今月は通常モードでの運用に復帰しています。千曲川の決壊により避難を余儀なくされていた方も臨時に用意された住宅に転居されました。床上浸水の被害に合われた方々の中には未だ復旧作業中の方もおり、寒くなる中一層気をつけて生活していただきたいと願うばかりです。




中庭のシラカバも一気に紅葉が進みました。今週に入り葉が風に飛ばされて秋から冬の佇まいに移りつつあります。





災害時への備えとして予てから計画していた貯水槽の容量拡大工事が終了しました。従来に比較し3倍の容量があり、上水道が停止した場合に次の給水までの予備水量が大幅に増えた事になります。そのため無給水透析稼働時間が長くなり安定した治療環境の構築に寄与します。





貯水される水の重さから通常時は最大貯水量の70%程度で運用されますが、上水道停止の場合に非常時モードに切り替えると100%貯留が可能となる設定です。




併せて透析排水の浄化装置の設置が現在進行中です。深さ3m程の穴に浄化槽が埋設され再舗装されました。

人の背よりも高い浄化水槽





固定されて埋め戻される浄化槽





今後、浄化装置の到着を待ち来月中旬までには稼働開始を予定しています。これまでも透析排水に関しては年1回BOD, pHを測定し、結果を地元上下水道課に提出するなど排水の管理には留意してきましたが、浄化装置の設置により一層環境に配慮した治療の継続が見込まれます。透析施設における浄化装置の設置義務は今のところ法制化されていませんが、東京都下での透析医療医間からの酸性排水による下水道管の損傷事例が報告されており道路陥没の原因にもなっています。
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/topics/touseki/
本年1月には厚生労働省医政局総務課からも医療機関における下水排除基準の遵守について徹底を依頼する旨の、また国土交通省水管理・国土保全局下水道部からは透析医療機関の排水による下水道管の損傷について情報共有のための事務連絡が通達されました。これらの状況を鑑み当院では周辺医療機関よりも早急に対策を講じ今年中には稼働出来る見込みです。




イチイの実


11月17日松本市で長野県透析研究会が行われ当院の小林祐介臨床工学技士が「治療条件変更による栄養状態改善への取り組み」という演題で発表を行いました。透析回路径の変更および、より蛋白漏出量の少ない血液濾過膜への変更により栄養指標の一つ血清アルブミンが上昇した経緯をデータを示しながら報告しました。血液濾過透析(HDF)は物質透過性の良い膜を使用するため尿毒素に加えて栄養成分も除去されてしまいます。それを透析条件の工夫により減らす事が出来るか検討した結果になります。







また、昨年の透析研究会で発表した木戸ゆう看護師が看護部門の最優秀賞を受賞し表彰されました。2015年に引き続き二度目の授賞となります。今回の授賞内容は定期処方毎に残薬の聞き取りを行い処方内容に反映させるとともに、残薬が発生する原因やそれに対する対策を検討しました。地味な取り組みですが腎不全治療は透析に加えて服薬、栄養療法に補完されて成り立つものであり、高齢化で服薬アドヒアランスが低下しがちな現状に対し一石を投じた事が評価されたと感じています。



今月の治療指標の達成度です。






透析医会の評価項目(達成度1)はほぼ年間を通じて90%以上を維持していますが、今月はPTHのみ80%半ばに低下し数値も高めでした。新患のPTHが高めであった事に加えて、涼しくなり食欲が出てきた方の中で無機リンの摂取過多と思われる血清リンの増加が原因となったケースが多いように感じました。特に高い方のお話しからは寒くなると鍋物が多くなり練り物など加工品を摂取する頻度が高くなる傾向を感じました。リンが高めの方には蛋白質摂取は減らさずリン酸系添加物の多い加工品を避ける工夫、リン吸着薬の増量で高リン対策を取るとともに、リンに余裕がある方でカルシウムの低めの方にはビタミンD製剤、カルシウムの高めの方にはCa mimeticsの増量で対応します。
栄養指標は例年通り先月から回復の傾向を示しています。今月は松本市で長野県透析研究会が開かれました。当院からも透析条件の変更で栄養状態の改善を試みる発表を行いました。最適な透析条件の設定は大切ですが、栄養状態への寄与率は圧倒的に経口摂取に依存します。栄養状態の維持にはやはりしっかり食べることが極めて大切です。
寒くなるとβ2MGが上昇する傾向にあります。除去率はほぼ維持している一方で今月は透析前後ともに上昇しました。β2MGは感染症により上昇することがありおそらくその影響と思われます。





8月のブログで腎性貧血の新しい治療手段として期待されるHIF(Hypoxia-inducible factor)プロリン水酸化阻害薬について触れましたが、今年のノーベル医学生理学賞の授賞内容が正に「細胞の低酸素応答の解明」でした。更に医薬品としてロキサデュスタット錠(エベレンゾ®)がわが国でも発売となりました。適応は透析施行中(血液、腹膜)の腎性貧血で、週三回の経口投与、院内処方のみ可能との条件付きです。透析導入前の慢性腎不全による腎性貧血は適応になっていません。またESAとの併用も認められていません。経口投与が可能なので皮下注射をしなくて済む透析導入前の患者さんにメリットがある印象ですが、現時点では適応外です。血栓症、高血圧、悪性腫瘍、肝機能等に副作用の可能性が指摘されていますが、血栓症・高血圧は急な貧血の改善と関係があるようです。当院ではすぐに採用はせず症例の蓄積を待って導入の是非を検討する予定です。





サルスベリの周りのシランとニシキギ。


透析患者さんにおいて血清リンが高くなる意外な原因は「おでん」。練り物には種々の添加物が使用されており、それらに含まれるリン酸塩が犯人?です。蛋白質中のリンは吸収率50%前後に対して無機リンは99%と高く、少量でも血清リン上昇に影響してしまします。栄養にならないリンを回避しつつ、しっかり蛋白質を摂ることが大事です。




ジューンベリー



長野県内もインフルエンザの流行期に入りました。
うがい、手洗い、人混みでのマスク。
感染予防にご留意を。


須坂 腎・透析クリニック  


Posted by Kidney at 15:09Comments(0)ひとりごと
QRコード
QRCODE
インフォメーション
長野県・信州ブログコミュニティサイトナガブロ
ログイン

ホームページ制作 長野市 松本市-Web8

アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 3人
プロフィール
Kidney