2019年08月29日

猛暑と暑気あたり


梅雨明けとともに牙を向いた猛暑、そしてお盆の真っ只中四国・中国地方を縦断した台風10号。これを境に気温が少し下がり過ごしやすい気候となりました。かわりに大気が不安定となり雷や集中豪雨の頻度が増えました。それまで降雨が少なく土地も乾いていたため庭の水枯れの心配は少なくなりましたが、九州地方では線状降水帯の発生に伴う水害が報道されています。自然は時に与え、時に奪う大きな存在であると感じる季節です。





ノウゼンカズラにサルスベリは夏を代表する花。





今年は開花がやや遅れてお盆過ぎから本格的になりました。





桔梗も二番花が咲き始めました。白と青の絞り、陶器のような色合いの花弁です。




8月に入ってからお盆までは35℃に迫る猛暑、屋外に出ただけで体力が奪われるような気候でした。毎年暑くなると気になるのが透析患者さんの栄養状態、年間の推移を見ると毎年7〜8月の栄養指標が最も低くなります。暑さの影響で食欲が減退していわゆる「夏痩せ」が起こります。更に栄養補給が不十分であったり高温環境に暴露され続けると、倦怠感や頭痛などを伴い「暑気あたり」と呼ばれる状態になる場合もあります。

「暑気あたり」が急性かつ比較的重い症状で出現するのが「熱中症」といえます。脱水症を伴うことが多いのですが、脱水を伴わずとも高温環境への長時間の暴露により体温調節機構が破綻しても生じ得ます。

今年もこのまま涼しくなれば良いのですが、暑さの揺り戻しもあるかもしれません。暑気あたりや熱中症を避ける時に大切なのは高温環境からの回避です。透析患者さんの場合は尿が出ない分だけ体内に水分は十分保持されているため、脱水症にはなりにくいと言えます。暑いからといって水分を多く摂ると一時的な清涼感は感じますが水分過多となりより体調を乱す要因になりかねません。エアコンを上手に使い環境温度を十分に下げることが安全な解決策となります。その際に目安とする気温は概ね28℃以下ですが、エアコンの設定温度を28℃にするだけでは不十分です。部屋の広さや直射日光の当たる時間、屋根に近い屋上階か否かでも冷房効果は異なってきます。見やすい場所に温湿計をおいて実際の温度に即してエアコンの設定をすると効果的な冷涼環境を整えることが可能となります。




今月の治療指標の達成度です。






透析医会の評価項目はほぼ年間を通じて90%以上を維持しています。新規導入の方や人工血管閉塞に対し血栓吸引術を施行し失血の多かった方で貧血の指標であるHbが目標値以下となりましたが、いずれも対策は開始しており緩徐に改善を認めています。
1年で最も暑い7〜9月は栄養指標が毎年低下します。今年は血清アルブミンの測定方法がBCG法から改定BCP法に変更になりアルブミンの絶対値もやや低下しました。他の栄養指標は例年並みの変化のため、今年のみ極端な低下を示してはいないと判断出来ます。数名透析後のカリウム値が3.0mEq/Lを下回ったため透析効率を落とすべく血流量の低下を指示しました。
気温が下がれば食欲の回復も期待出来ます。当院では高効率の透析をおこなっており透析前カリウムは6.0まで許容の範囲としています。逆に十分にカリウムを取らないと透析後のカリウムが低すぎてしまい、不整脈や脱力発作のリスクが高まります。カリウム値に余裕があり血糖値も高くなく栄養不足の患者さんには夏野菜をそのまま食べるのでは無く天麩羅にして食べることを推奨しています。油を使う分だけ摂取カロリーを増やすことができます。肉や魚も揚げ物にしていただくとカロリーアップが期待出来ます。ただし小魚の揚げ物は少し注意が必要です。天麩羅では小骨ごと食べることが出来ますが骨はカルシウムとリンの塊なので、摂りすぎると血清リンが上昇してしまいます。同じ理由でサケ缶やサバ缶を食べる時は中骨を残すことで栄養価の低いリンの摂取を抑制することが出来ます。





コムラサキの花、手前から色づく前の蕾、色づいた蕾、開花した蕾と一つの枝に三相の形態が同居しています。




既に結実している株もあり、色付き方にグラデーションを見て取れます。




【エリスロポエチン製剤(ESA)に変わる腎性貧血治療薬】
腎機能が低下すると貧血が生じます。何故腎臓と貧血?と思われる方も多いと思います。腎臓の主たる機能は尿を作ることで体液量やミネラルバランスの調節を行うことですが、エリスロポイエチンという赤血球の産生に必要不可欠なホルモンも産生しており、腎組織の荒廃からこの物質の産生が低下すると腎臓の障害に伴う貧血「腎性貧血」が生じます。現在はこのホルモンを人工的に合成し、更に構造に修飾を行うことで作用時間を伸ばした物質(ESA)を補充することで治療としています。ただしこの物質は経口投与を行うと吸収される前に消化され失効してしまうため注射(静脈注射または皮下注射)での投与が必要です。
現在別の方法で赤血球産生を促すHIF-PHIないしHIF安定化剤と呼ばれる腎性貧血治療薬が開発されており、わが国でも治療薬としての承認申請が行われる段階にまで到達しました。特徴は経口投与が可能であることです。何種類か上市される予定ですが中には保存期腎不全に適応のある薬剤もあります。透析患者では血液回路にESAが投与されるため経口に切り替えるメリットはあまりありません。保存期では皮下注射から解放される福音となるため、腹膜透析患者と併せて潜在需要は多いと思われます。

HIFはHypoxia-inducible factorの略で体内が低酸素状態に陥った時に誘導され、低酸素状態に対応するさまざまな反応を促進させます。赤血球中に含まれる赤い色素であるヘモグロビン(Hb)の役割は酸素の運搬ですから、低酸素状態では運搬役のHbを増産するような方向に調節が進みます。HIFはエリスロポエチンの産生を誘導する他にも赤血球の材料である鉄の利用を促進する働きもあり、エリスロポイエチン投与単独よりも多くの造血に対する有益な作用が期待されています。通常HIFはすぐに分解されてしまうため、分解する酵素(プロリン水酸化酵素)を阻害してHIFの分解を抑制し安定化させる薬剤が今回上市予定の一群の新薬となります。このようにエリスロポエチンの作用以外にも造血に対する有益性が期待出来るため、血液透析患者でもエリスロポエチン製剤との併用が認められれば、EPO抵抗性貧血の改善にもつながる可能性があり今後の使用法等の流れに注視したいと考えています。




雨上がりの風景〜チェリーセージ





雨上がりの風景〜サルスベリ





一部ですが秋の気配を感じる変化も。




猛暑も大変でしたが季節の変わり目も体調が崩れやすい時期です。
体調管理に十分な休養と栄養を。


須坂 腎・透析クリニック
  


Posted by Kidney at 15:39Comments(0)ひとりごと
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