2025年02月21日
寒波、襲来。

2月に入り今季最強・最長寒波が襲来し、久しぶりに腰から上半身の筋肉が悲鳴を上げる寸前まで雪かきをしました。腰の方はまだ完全に復調していませんが幸い降り積もり続けることはなくクリニック駐車場も雪山が駐車場1台分残るのみです。更に今週もう一度最強・最長寒波が列島を覆う予報が出て再び戦々恐々としていましたが、前半のピークを過ぎて降雪も少なく写真の如く小春日和にホッとしています。

ただし三連休に冬型が再度強まる予報で気が抜けません。先の寒波で雪に埋もれた水仙も再び顔を出しましたが今週末の寒波で再度雪に覆われてしまうのでしょうか?別名「雪中花」と呼ばれる所以です。

スノードロップもいつの間にか開花していました。
クレアチニンの話
血清クレアチニンは腎機能を表す代表的な検査項目であり、腎機能が低下すると数値が上昇します。クレアチニンは筋肉で産生され(詳しくは肝臓で産生されたクレアチンが筋肉で代謝されクレアチニンに変化)血液中に移行し腎臓から排泄されます。従って産生量と排泄量の差分で血中濃度が規定されます。一般的に筋肉量は急に増減しないためクレアチニン値の上昇は排泄量の低下、つまり腎機能の低下として解釈しているわけです。

一方で血中濃度は産生量にも依存するため、新たに運動を始めた、職業がデスクワークから肉体労働に変わったなど筋肉量が増えた場合は排泄量が一定でもクレアチニン値は上昇します。女性にくらべて男性のクレアチニン正常値が高いことも筋肉量が影響しています。逆に栄養状態が悪い、運動量が減ったなど筋肉量が低下した場合は腎機能に関係なくクレアチニン値は低下します。
腎臓内科外来では検診でクレアチニンがやや高めと指摘された方が時折受診されますが、腎機能低下と関係の無い筋肉量に影響されたクレアチニン軽度高値であるケースがしばしば見られます。故に問診の際には運動習慣の有無や仕事での筋肉負荷などを詳しく伺い、スクリーニングの検査では筋肉量に影響されない腎機能の指標であるシスタチンCを測定します。クレアチニンと年齢から計算される腎臓の機能eGFRとシスタチンCと年齢から計算される腎機能eGFRcysを比較しeGFR

クレアチニンの上昇率は初期には低く腎機能が低下するにつれて変化量が増えていきます。これは初期の段階では腎機能の低下を捉えにくいことになります。このような場合横軸を時間として縦軸に逆数をプロットすると直線上に変化します。故にクレアチニンの軽度上昇で受診希望がある場合には手持ちの過去の検査結果を全て事前に提出していただき1/Crをグラフ化して実際に腎機能が低下している可能性を検討しています。

末期腎不全から透析に至った場合ほぼ腎機能は廃絶(排泄量=0)していると仮定され、血中クレアチニン濃度は産生量のみに依存すると考えて良い事になります。栄養指標の一つであり筋肉量を示す数値として%クレアチニン産生速度(%CGR)が利用されます。これは透析前後の体重、クレアチニンの値、透析時間から算出され、同性同年齢の健康な人の値と透析患者さんの値を比較し、健康な人の筋肉量の何%の筋肉量をもっているかを表します。値が高いほど筋肉の量が多く100%以上ある人は平均以上筋肉がある事を示しており、この値が大きい程生命予後が良いことがわかっています。
2025年2月 治療指標の達成度


先月はお年越しの影響か血清リン(P)の高いケースが目立ちましたが、お正月も終わり食生活も元に戻ったためか達成率も再度90%以上に回復しました。血清カルシウム(Ca)が低下しましたが、これも先月の高リン血症の影響でPTHが上昇し、PTHの上昇にブレーキをかけるカルシウム受容体作動薬を使用したケースが増えたことに起因すると考えています。カルシウム受容体作動薬はカルシウムの振りをすることでPTHの産生を抑制します。そのためCa代謝系ではCaが十分存在すると認識され実際のCaが低下してしまいます。PTHの抑制にはCaを上昇する働きのある活性型ビタミンD製剤も使用されますが、同時にPも上昇させるため高Pが併存した場合は使用が躊躇われます。来月のPTH, Ca, Pを見ながらさらに調節する予定です。

今月の蕗の薹、既に先月先発隊が顔を出しましたが降雪で一休み。2番手が動きはじめました。

今季の寒椿は本当に花付きが良く冬場の殺風景な庭に彩りを与えてくれます。
2月も後半になりました、春の気配もすぐそこでしょうか?
この先の気候は三寒四温とも呼ばれ、寒暖差が大きくなり体調不良の原因にもなります。
体調管理に十分ご留意下さい。
須坂腎・透析クリニック
2025年01月23日
雪のない睦月、令和7年(2025年)

一部の地域で例年以上の降雪があった年末年始、天気予報から流れる「今季最強クラスの寒波到来」の言葉に雪かきと腰痛の悪化を覚悟しながら戦々恐々としていました。ところが意外に温かい日が続き、今のところ道路が雪で覆われ溶けない状態である「根雪」にもなっていません。クリニック中庭で1月に蕗の薹を見たのは初めてです。

葉が落ちきらず逆光に映えるユキヤナギ。

水仙の芽も動きはじめています。「根雪」がないため目に付くのか、いつもより早めに出てきたのかは定かではありません。
日本透析医学会から毎年公表される「わが国の慢性透析療法の現状」2023年版から内容を一部抜粋して紹介します。

透析患者数は2021年をピークに減少傾向にあり、2023年人口100万人あたりの患者数は2762.4人で国民362人に1人が透析患者に相当。透析治療形態は血液透析(HD)37.5%に対し血液濾過透析(HDF)59.1%。腹膜透析(PD)はHD併用を含めて3.1%。HDF療法のうち、on-lineが68.3%、IHDFが30.5%、IHDFの割合が増加傾向。長野県では人口100万人あたりの患者数は2,664.2人で県民375人に1人の割合。治療形態ではHDが48.5%、HDFが49.5%、PDは0.3%と全国と比較してHDF, PDの割合が低い。
当院では溶質除去や循環動態に与える好影響を鑑み、開院当初からOn-line HDFを全ての利用者に提供しています。


透析患者の平均年齢は70.09歳、年々増加傾向。
当院の平均年齢は72.5歳で75歳以上の割合は48%と全国平均よりも高齢化が進んでいます。

慢性透析患者の原因疾患:糖尿病性腎症39.5%、慢性糸球体腎炎23.4%、腎硬化症14.0%。糖尿性腎症は2011年に慢性糸球体腎炎を抜いて第1位になっているが近年は横這いの傾向。慢性糸球体腎炎は低下傾向にあり腎硬化症は上昇、原因不明も依然として10%前後。糖尿病と高血圧が原因となる腎硬化症の合計は53.5%でいわゆる生活習慣病の割合が半分以上を占める。


慢性透析患者の死因は感染症が22.7%、心不全22.7%、悪性腫瘍20.4%、悪性腫瘍7.6%。長らく心不全が原因の1位であったが2022年に感染症が第1位となった。脳血管疾患、心筋梗塞は緩徐低下傾向。粗死亡率は概ね9〜10%で推移していたが2022年以降は11.0%に増加。

入院原因はアクセストラブル、心疾患、感染症、整形外科疾患で2.6:1.7:1.5:1の割合。
維持透析患者、ここではデータを示しませんが新規導入患者両者において高齢化の傾向が続いています。いずれも糖尿病や高血圧などいわゆる生活習慣病を原因とする腎不全が50%以上を占めており、導入時に原因不明なケースも10%前後認めます。
死因第1位の感染症は新型コロナ感染症の影響とみる向きもありましたが更に増加傾向にあり、高齢化にともなう免疫力の低下など感染症を誘発する素因が顕在化して来たとも取れます。更に低栄養状態では複数の免疫系で機能低下が生ずることが分かっています。加齢による免疫力低下(特に細胞性免疫)に低栄養が加わると複合的な免疫能の低下が起こることになります。また糖尿病では高血糖自体が細菌の増殖に好適な環境であることに加え、炎症反応に預かる白血球(好中球やリンパ球)の機能を低下させることが報告されています。従って栄養状態の維持や血糖値のコントロールは感染症を回避する意味においても大切です。

(日内会誌2019より)
第2位の心不全は低下傾向にありますが未だ比率は高く、血圧や体水分量コントロールの重要性は継続しているといえます。体水分量が過剰になると心筋に負担がかかり、負荷が長期化すると心筋に線維化などが生じいわゆる左室拡張障害を来します。心臓がポンプとしての働きを保つには、心内腔が十分に拡張し血液を充満させてから心筋が収縮し充填した血液を大動脈へ送り出す必要があります。左室拡張障害では血液を十分充填出来ないまま収縮することが特徴で、心収縮力低下を伴わない心不全(HFpEF)と呼ばれます。

(東北大学HPより)
心収縮力を伴う心不全(HFrEF)と比べてHFpEFは有効な治療方法が確立されておらず、体液過剰や高血圧、病的な頻脈といった増悪因子の除去が大切です。特に透析患者では体液過剰になる局面が多く、毎回の透析で除水量を安全圏内(ドライウェイトの5%以内)に調節することがポイントです。また適切なドライウェイトの設定と必要に応じ降圧薬を組み合わせて血圧をコントロールする、心房細動などの不整脈は見逃さず治療に結びつける、心電図で心筋虚血の可能性があれば専門医に診断を仰ぐなど日常診療の中でも注意すべき点は複数存在します。
なるべく元気で通える透析をモットーとする当院としては、個々に合った透析量の設定、栄養状態およびADLの維持・拡大を通して感染症になりにくい状態をなるべく維持することを目指します。同時に発熱など感染症の兆候が見られた場合は直ちに評価を行い、関連病院とも協力して早期の対応に努めます。また心不全の発症や進行を回避する手段として、適切なドライウェイトの設定、飲水量の適正化を以て十分な体水分管理を行います。


年明けすぐの定期検査でした。その影響もあってか血清Pが急上昇するケースが多く、全体でも目標上限の6mg/d以下の割合が久しぶりに90%未満に低下しています。年越しでいつもと違う食事内容、特に添加物の多い加工食品が原因と考えられます。食生活が元に戻れば血清Pも低下するはずなので多くのケースでは処方内容を変えること無く経過を見守ります。ただしPの上昇に伴い副甲状腺ホルモン(iPTH)まで上昇している場合は早急なコントロールが必要であり、透析条件や処方内容に見直しをかけています。

寒椿、彩りの乏しい冬の庭に重宝する花木。

枯れ紫陽花
2月も穏やかな天気を望みたいところです。インフルエンザの流行はピークアウトした様にも見えますがまだ十分に低下していません。新型コロナ感染症も発生者数を見る限り横這いです。基本的な感染対策に引き続き心掛けましょう。
須坂腎・透析クリニック
2024年12月23日
2024年師走

年末にかけて寒波が断続的に南下する予報、長野県の北過ぎない北の方に位置する当院としては大雪情報に一喜一憂しています。今のところ根雪にはなっていませんが南天の実にも着雪する程の雪が降りました。

少し前までは雪の気配もない小春日和で、このまま年を越すことが出来ればと仄かな期待を抱いていましたが・・・

現実は中々に厳しく剪定が終わりさっぱりとした中庭も季節相応の雪景色です。
今月2日より健康保険証の新規発行が終了しました。従来の保険証は資格喪失しない限り2025年12月1日まで利用可能ですが、翌日以降は利用出来なくなるためいずれかの方法に変更しなくてはなりません。当院でもマイナ保険証に対応済みですが利用者は数えるほどもいません。

医療機関としても現時点では利用するメリットは正直皆無です。今後システムがブラッシュアップされる中で少しずつメリットを享受できるのかなと淡い期待を寄せつつも、読み取り機器のメンテにかかる費用や手間以上のレベルに到達するまでどれほどかかるのか、本当にメリットが得られる様になるのか、疑心暗鬼になってしまいます。はじめから完璧なシステムは求めようもありませんが、本来任意であるはずのマイナンバーカードに生活に密接に関わる極めて公的な健康保険証をかなり強引に紐付けようとしているわけですから、もう少し信頼性のあるレベルに達してからスタートしても良かったのではないかなとも思います。
Dx化といえば学会誌も冊子体の発行を取りやめHP上で閲覧する電子ジャーナルへの移行が進んでいます。私の属する学会では日本腎臓学会が数年前から電子ジャーナル化し、来年1月からは日本透析医学会も冊子体の発行を中止します。電子ジャーナルはHP上にありどの端末からもアクセス可能で、年々増加する冊子体を蔵書するスペースが節約出来るなどメリットがあります。一方で電子書籍に十分慣れていないためか、じっくり読み込む場合は紙媒体の方がしっくりくる事も事実です。PaperもPC上にアーカイブしてペーパーレスで扱うことが多くなりました、いずれは紙媒体からの卒業もやむを得ないのかもしれません。


透析医会の指標では先月低めであった貧血の指標Hbが上昇し通常レベルにもどりました。造血ホルモンの増量 and/or鉄剤の補充で概ね速やかに回復した印象です。消化管出血が除外出来ないケースでは適宜精査を施行中です。また亜鉛製剤内服中の方でここ数ヶ月でHbの低下または使用している造血ホルモンの増量を認めた方に絞り血清銅を調べたところ、およそ半数で血清銅が下限以下未満に低下していました。軽度欠乏では亜鉛製剤の減量、高度欠乏の数例では中止としました。高度欠乏でもHbがほとんど保持されているケースから汎血球減少を来すケースまで臨床像が幅広く、亜鉛製剤の内服が長期になる場合は血清銅のモニターは必須と感じました。栄養指標は残暑の頃と比べて改善傾向にあります。一方で透析的に血清リンの上昇は検出されませんでしたが、個別にみると上昇しているケースが散見され、寒くなると摂取量が増える練り物など添加物由来のリンに注意が必要と思われました。

冬もこれからが本番、季節性インフルエンザの発症数も県内の多くの地点で注意報レベルに到達しています。ここ数年処方薬の出荷調整が相次ぎ、原因は複数存在するにしてもわが国の薬剤供給体制の脆弱さが気になります。今季も呼吸器感染症の流行に伴い咳止めや去痰薬、一部の抗生剤が既に不足気味です。
なるべく罹患しないように基本的な感染対策の徹底が求められます。
今年もあとわずか、元気に年越しを迎えましょう。
須坂腎・透析クリニック
2024年11月27日
霜月の終わりの紅葉

紅葉というと10月頃のイメージでしたが、このところは市街地レベルの標高では11月中旬にならないと彩りが乏しいように感じます。

クリニック玄関脇のジューンベリー、毎年キレイな色付きで目を楽しませてくれます。色合いのグラデーションも華があります。

クリニック中庭では白樺の黄色が目立ちます。手前は常緑樹の寒椿、色彩の対比が面白い構図です。
透析患者と亜鉛欠乏, 亜鉛と銅の関係性
カリウムやカルシウムおよびリンのように体内で比較的多量に存在するミネラルに対し、微量ながら生命活動に必須であるミネラルを必須微量元素と呼びます。ヒトでは鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、コバルト、クロム、セレン、モリブデンの9種類があげられます。通常これらの元素は食事でまかなわれるため、高度に欠乏することは希であるとされます。何らかの原因で経口摂取が長期間不可能になり、高カロリーの点滴で栄養補給を受ける際には不足するリスクが高まるため輸液に微量元素を補う製剤を加えることがあります。
透析患者さんではこれらの内、鉄と亜鉛を積極的にコントロールしています。腎不全の影響で消化管からの鉄の吸収が低下し、鉄は血液中の赤い色素であり酸素を運搬するヘモグロビン(Hb)の材料となるため、不足すると造血ホルモンに抵抗する貧血が生じます。よって毎月の検査で血液中の鉄(Tsat)と貯蔵鉄(ferritin)の両者をモニターして過不足ないようにコントロールしています。
また血液透析患者ではリン吸着剤の影響で消化管からの吸収低下、透析による喪失、食事制限による摂取量の低下などが原因となり亜鉛も欠乏しやすいとされています。2018年の透析会誌では実に透析患者の約半数は低亜鉛血症であるとのデータが示されました。更に亜鉛欠乏症の予備軍まで含めると95%に至ります。

亜鉛は様々な酵素の構成元素でもあるため不足すると多彩な症状が発現します。

特に造血ホルモンの投与に対し反応性が悪い場合には背景に亜鉛欠乏が関与している割合が多いとの報告もあります。当院でも定期的に亜鉛を評価し血清濃度が70µg/dl未満で内服による補充療法を検討します。内服開始後は2ヶ月に一度血液中の亜鉛を測定し、至適濃度となるように内服量の調節を行います。また亜鉛と銅は消化管からの吸収において競合関係にあるため亜鉛補充が長期化した場合は、Hbの低下 and/or 造血ホルモン投与量の増加があれば血清銅を評価します。血清銅の軽度減少があれば亜鉛補充を休止、高度欠乏があれば亜鉛補充の休止とともに銅の補充を検討します。その場合、国内の処方薬またはサプリメントに純粋に銅だけ補充可能な製品が無いため、米国製の銅サプリメントを使用します。国内のサプリメントでは銅と亜鉛の両方を含む製剤が多く、銅欠乏に対しては使いにくい側面があります。普通に食事が取れている場合は滅多に銅欠乏に至ることはありませんが、アルコール過飲でつまみ程度しか食事を摂らないケース、酷暑で食欲が極度に減退し小食が続いたケース、療養環境が変わり食事内容が変化したケースで顕在性の銅欠乏を経験しています。特に高度の欠乏では貧血のみならず全ての造血系統で産生低下(汎血球減少症)を来たし骨髄疾患との鑑別が必要となることもあり、亜鉛と貧血と銅はワンセットで経過を追う必要があります。
今月の治療指標の達成度


透析医会の指標ではHbの達成率が若干低下しました。鉄剤、造血ホルモンの投与量で既に対応済みですが、前述の亜鉛補充中の症例では血清銅の評価を行い結果によって更に対応を行います。PTHも珍しく達成値が80%を下回りました。9月の結果でPTHに上昇傾向がみられた中で今月急激に上昇したケースが比較的多かった印象です。同時に測定した血清カルシウム値に応じて活性型ビタミンD製剤またはCa受容体作動薬の用量調整を行い対応済みです。PTHの測定は通常2ヶ月おきですが、変化量の大きかったケースでは来月も臨時で測定し変化を見守る予定です。当院独自指標では大きな変化は認められませんでした。
このようにCaやリンといった骨代謝に関わるミネラルのコントロールに必須な薬剤ですが、一時期品薄状態であった活性型ビタミンD製剤は供給が安定化しました。一方Ca受容体作動薬については内服2製剤のうち当院で主に使用していたレグパラ錠®が今月下旬急遽出荷停止となりました。もう一つの同系統内服薬や静注製剤に切り替えて全て対応済みです。

中庭の鉢植え南天、今年の実付きは概ね良好です。

地上も色付き始めました。気温が更に低下しやがて樹上の彩りは全て地上に、木枯らしと共に地上の葉も何処に吹かれてしまいます。
気温低下と乾燥で呼吸器系の感染症が蔓延する時期となりました。基本的な感染対策とワクチンで抜かりなく対応しましょう。
須坂腎・透析クリニック
2024年10月24日
残暑長引き気付けば晩秋の神無月

昨年に引き続き10月下旬に咲く金木犀、それまでより半月近く季節がズレている感じがします。しかも花付きが良くありません。クリニックの敷地には2本の金木犀がありますが、より西日の当たる正面の花はまばらに咲いて、あっと言う間に散ってしまいました。

いつも真っ先に咲いていた黄色彼岸花(鍾馗蘭)も10月に入りやっと開花しました。これは咲き始めの画像になります。

後方の半日陰には先行して紅白の彼岸花が咲き三色そろいました。

半日陰の紅白の花、この右手奥にはほぼ日陰に咲く彼岸花の群生があります。そちらは随分前に花が落ちて根元から葉が生えてきました。
彼岸花は通常、花芽が出て花が枯れた後に葉が成長します。花と葉が同時に現れないことから「葉見ず、花見ず」といわれ忌み嫌う風潮もあったのだとか。

しかし今年の彼岸花は開花が昨年よりも大幅におくれたためか、花が枯れないうちに葉が生えてきました。「花葉揃い見る」曼珠沙華が吉兆なのか凶兆なのか・・・。
日中は真夏日にもなった残暑引きずる神無月でしたが今週初めからは打ってかわって朝夕の気温が平年並みに下がるようになりました。一気に晩秋の大気に置き換わった様もであり、それは過ごしやすい季節としての「秋」が無くなってしまった気分です。季節の変わり目は寒暖差が激しく体調不良の原因にもなります。咳や鼻水など上気道炎症状も季節性アレルギーなのか、感染症なのか、はたまた寒暖差アレルギーなのか、迷うケースも多いです。涼しくなると温かい料理を求め汁物の摂取も多くなりがちの影響もあってか、先週末から透析間の体重増加が多く除水量の設定に悩む場面が増えました。その除水量について少し解説します。
血液透析における除水について
通常体内に貯留した余分な水分は尿として体外に排泄されるため体水分量はほぼ一定にコントロールされています。そして腎臓は24時間かけてゆっくり尿を生成します。一方で血液透析では腎臓が行う2日または3日分の仕事を4時間で賄っていることになります。かなり短時間で血管の中の水分を除去するため自ずと除水量には限界が生じます。一般的にドライウェイトの5%以内、心機能低下があり血圧が安定しないケースでは3%以内が推奨されています。これを越えて除水することは可能ですが除水量に対し血管外から血管内に戻る水分の量が追いつかないと、血管内の水分が極端に低下し血圧が急降下してショックを起こすことになります。血管はゴムホースと異なり比較的自由に水が血管内外に移動します。特に血管内に水を引き留める役割を持つ蛋白質(アルブミン)が低下すると、血管内に戻れない水分が皮膚と筋肉の間に溜まり浮腫(むくみ)になります。

血管外から血管内に水分が戻ることをplasma refillingといい個人差が大きいとされます。戻りが悪いと透析時の除水により血管内の水分が少なくなりやすいため、血圧降下や足の攣りなどの原因にもなります。しかし除水しきれず体内に残った水分は過剰になると心臓の負担になるため、なるべく決められた体重(ドライウェイト)まで除水を行うことが望まれます。血液透析による除水には限界があることを認識するとともに自身の摂取可能な水分量を把握し、体液過剰にならないようにコントロールすることが大切です。


彼岸花を撮影していたところアキアカネが目の前に現れ、シャッターチャンス!
2024年10月の治療指標の達成度


透析医会指標の内、貧血項目のみ達成度が90%を下回りました。血液疾患の影響と血液透析導入から間もなく回復途上にあるケースが増えた影響です。造血ホルモンおよび鉄剤投与で調節する一方で、造血ホルモン抵抗性の場合は輸血にて対応します。残暑の影響か栄養指標の回復は足踏み状態です。来月以降の推移を見守りたいと思います。

クリニック正面のジューンベリー、部分的に紅葉してきました。

ハナミズキも色づいてきましたが発色が今ひとつです。
寒くなると呼吸器感染症が流行しやすくなります。基本的な予防策とともに可能な範囲でワクチン接種を済ませることも大切です。当院では今月インフルエンザ予防接種を行いました。新型コロナウイルスに関しては希望の職員の接種は既に終えており、60歳以上の透析患者および60歳未満の希望者の接種を11月初旬に予定しています。正しい知識に基づいた確実な予防が真に有効と考えます。
須坂腎・透析クリニック
2024年09月20日
秋遠し、長月は夏の延長線上に

9月も半ばを過ぎてクリニックの中庭では例年通りに彼岸花が開花しました。この花が咲く頃は少しばかり涼しい気候を思い浮かべるのですが、今年は長月中旬になっても真夏日が続いています。

それでも35℃超の猛暑日は無くなりマリーゴールドの花付きもかなり復活してきました。

コムラサキの実も色づいて視覚的には秋の風物詩が増えています、しかしながら日中の気温のみが矛盾して高値を維持しています。
それでも朝夕の気温は大分過ごしやすくなりました。酷暑で落ちた食欲、栄養状態の低下を挽回する時期でもあります。そこでブログでは度々触れてきたリンを上げずにしっかり蛋白質を摂取する方法について復習したいと思います。
リンを上げずに蛋白質を十分摂取するヒント
はじめに
透析患者さんのミネラルバランスを評価する際に特に注意すべき項目としてカリウムとリンが上げられます。カリウムは野菜や果物など生きた細胞の中に特に多く含まれており、通常腎臓から90%程度排泄されます。従って腎不全ではカリウムの排泄が滞るため血液中での濃度が上昇しやすくなります。一定以上カリウム値が上昇すると心臓が止まってしまうこともあり最も注意すべきミネラルと言えます。一方でリンも腎臓から排泄されるため腎不全患者では血中濃度が上昇します。カリウムとの違いは濃度が急上昇しても心停止のような生命の危機に直結する事態にはならないことです。ただし高い状態が継続すると様々な代謝に影響を及ぼし生命予後を悪化させるリスクがあります。明らかな自覚症状が無いのに生命予後に悪影響を来す意味でサイレントキラーとも呼ばれています。
無機リンについて
リンは肉や魚など蛋白質に含まれる有機リンと、添加物として利用される無機リンに大きく分けられます。有機リンの消化管からの吸収率は50%程度ですが、無機リンは90%以上と大きく少量でも高リン血症の原因になりかねません。

リンが上がりやすい食品とは
蛋白質は血液や筋肉など私たちの体を構成するタンパク成分の材料となります。故にしっかりと摂る事が重要です。しかし添加物由来のリンを多く摂取するなどして血液中のリンの濃度が上がると、蛋白質を摂る余地が損なわれてしまいます。大切なのはリンを上げずに蛋白質を十分に摂ることといえます。そのためには、
・蛋白質の量の割にリンが多い食品を避ける(リン/タンパク比の多い食品を避ける)
乳製品(ヨーグルト、牛乳、プロセスチーズなど)

・食品添加物が多く含まれる加工食品に注意
即席麺・カップ麺、加工肉、練り物、プロセスチーズ、スナック菓子、冷凍食品
清涼飲料水・炭酸飲料など
・意外とリンが多い食品に注意
玄米、ライ麦パン、魚卵(イクラ、たらこ)、干物、きな粉、チョコレート、ポップコーン、ケーキ、アーモンドなど木の実
・骨ごと食べる魚は控えめに
しらす、煮干し、シシャモ、鮭缶などの中骨

加工食品の上手な摂り方
加工食品は便利ですが炭化物由来のリンを多く摂取してしまうリスクがあります。そこで、
・リン含有量の少ない食品を選ぶ
・食べる量や頻度を減らす
・麺の茹で汁は捨ててスープは別のお湯で作る
・カップ麺は調味料を半分にして注ぐ湯量も半分にする
・加工肉や練り物は切って断面を増やして茹でこぼす
なるべくリンを上げずに蛋白質をしっかり摂るヒントを紹介しました。食生活の中で工夫をして栄養の維持、向上に努めましょう。
今月の治療指標の達成度。


残暑の影響か栄養指標の回復が遅れている印象です。今月もドライウェイトを下げるケースが目立ちました。摂取カロリーの低下から筋肉や脂肪が落ちると(痩せると)体重設定に変化が無ければ相対的に体水分量が増えて、心胸郭比の拡大や血圧の上昇に繋がります。実際には心胸郭比や血圧が変化する前に、体水分量の指標の一つである透析後hANPが増加することも多く、hANP>70を目安にドライウェイトを下方修正しています。日本透析医会の指標は全て90%以上達成しています。
9月8日松本市で開催された第72回長野県透析研究会で当院の小林祐介 臨床工学技士が発表を行いました。

カルシウムとリンを調節するホルモンであるPTHの測定結果についての報告です。

外注先の検査会社の都合で採血管を変更したところ、不自然にPTHの値が低下しました。

変更前後の採血管と経時変化に強い別の方法(血漿検体)で測定をしたところ、採血管により測定値にかなりの差が出ることが分かりました。
この結果から当院では最も影響の出にくい検体(血漿)でPTHを測定しています。
毎月の定期検査では結果を鵜呑みにせず細かな変化も検知して、正しく解釈を行えるように最深の注意を払っています。

切り戻した桔梗が二度咲きをしています。
彼岸を過ぎても続く暑さですがそえももうすぐ落ち着き、季節の変わり目がやってきます。体が気温の低下に馴染むまで体調不良の出やすい時期でもあります。しっかり食べて、しっかり睡眠を取って、可能な範囲で体を動かして調子を崩さずに秋の到来を楽しみましょう。
須坂腎・透析クリニック
2024年08月20日
盆空けて夕風涼むも陽射しは強し

日が沈むと少しだけ涼しさを感じるようになり、夕暮れ時も少しずつ早くなっています。コムラサキの実も色付き始めました。

エゴノキの実
一方で陽射しがまだ旺盛な日中は猛暑日手前まで気温が上昇し、ウンザリするような暑さが未だ続いています。

南天の実、今年は落ちずに頑張っています。
毎週のように台風の影響も耳にするようになり、ゆっくり季節が変わりつつあることを感じます。

今年は開花が遅れていた百日紅も見頃になりました。
以前、透析の定期検査について項目ごとに解説をしてみました。その際に当院の定期検査レポートをアップしました。

上3分の1がレントゲンと体水分量を反映するhANPの組み合わせで主にドライウェイトを評価する項目、残りは採血結果を大まかに栄養状態、ミネラルバランス、貧血管理に分けて評価する項目で構成されています。長らく手書きで作成していましたが、毎月100枚以上を仕上げると手首に違和感が残るようになり、キーボード入力に切り替える準備をしていましたがようやく実用に足るカタチになり今月より運用しています。

Kt/VやnPCRを自動計算するためエクセルをベースに作成、主要な項目はIF構文で自動的に判定し表示するようにしました。作成スピードは手書きよりも体感2割ほど早くなり、手首への負担もかなり軽減しました。検査データはデータ管理サーバーから直接飛べば良いのですがシステムの構造が複雑で今後の課題です。検査週の回診日に行うレントゲン結果解説時点でレポートは完成されたいないため(同日に外注結果が到着)、iPadで結果を閲覧しながらの回診となります。
血液透析患者のカルテは、
1. 医師記録
2. 透析記録兼看護記録
3. 処方記録
4. 経過サマリー
5. 検査レポート
7. 他院検査結果・診療情報提供書
など頻回にアクセスすべき項目が多く、システムも電子カルテ、透析監視、画像管理と複数存在する事に加え、週三回治療が行われるため記録の量も膨大となり、瞬時に参照したいデータにアクセスすることがなかなか円滑にいきません。記録の全てを電子化していない理由もここにあります。医療でもDX化は必然と思いますが、伝票管理システムと化した大手電子カルテのような現場が不便となる改悪は是非回避したいところです。
2024年8月の治療指標の達成度。


猛暑が続いている影響か特に高齢の方で食事摂取量が低下している傾向があります。具体的には透析間の体重増加の低下、逆に食事が取れず水分のみ取り過ぎてしまうケース、栄養指標の低下、特に血清アルブミンの低下が例年よりも目立ちます。ドライウェイトを下方修正する方も多く気候が身体に与える影響を改めて実感しています。必要の応じて透析中の頚静脈栄養(アミノ酸製剤、脂肪乳剤)の併用、食思不振改善目的での漢方薬の使用など対策を講じ、透析後低カリウムを生ずるケースでは一時的に透析効率を下方修正しています。

マリーゴールド、暑さにめげず開花を保ち続けています。

低灌木アベリアの花、小さくて遠目には目立ちませんが、花の少ないこの時期には貴重です。

今年植えた桔梗も二番花が咲きました。
8月中旬より新型コロナ感染症に罹患した患者さん、家族が罹患し経過観察中の患者さんがじわりと増えてきました。集団感染とならないように感染対策は平常運転で継続中です。流行の主体がオミクロン株とその派生亜種となってから、重症の肺炎を起こす率はかなり低下しワクチンを適正に接種している場合は症状も軽く済むようになりました。一方でコロナ後遺症(Long-COVID19)に悩まされるケースが増えているようです。

新型コロナ感染症がただの風邪と違うのは、
・インフルエンザよりも高い感染性
・特定のケース(高齢者や持病持ち)で重症化や死亡例が未だ高い
・後遺症の発生率が高く、その機序に関しては未だ不明なことも多い
の三点に集約されます。このうち後遺症に関しては感染回数が高くなるほど発生率も上がることが確認されています。

広く流行しているため「絶対にかからない」のは無理かもしれませんが、運が悪ければ後遺症と長く付き合わなければならない感染症に罹患することは損であり「なるべくかからない」ように対策をとる事が推奨されます。

当院ではユニバーサルマスク、定期的な換気、感染者および濃厚接触者の一定期間の隔離透析をを行いクラスター発生の防止策としています。
まだまだ暑い日が続きますが体調を万全にお気を付けてお過ごしください。
須坂腎・透析クリニック
2024年07月20日
梅雨明けて猛暑真っ只中、そして第11波

この時期、中庭の彩りがやや寂しくなることもあり今年は予めサルビアとマリーゴールドを待合から眺めやすい場所に植えてみました。猛暑真っ只中ですが奥のブルーサルビアと共に期待通り咲いています。

マリーゴールドも奮闘中、もう少し暑くなると開花は一時休止して秋口に復活するかもしれません。

エゴノキの根元の桔梗も今がピーク、年々桔梗色が薄くなり絞り紋様化しています。

夏の花「百日紅」やっと開花、今年は少し遅れています。

今年初めの第10波から半年余が経過し再び定点あたりの患者数が増加して来ました。今月に入り周辺でも感染者がチラホラと出始めて増加傾向を感じていましたが、夏休みに合わせるように第11波のピークが訪れそうです。昨年5月から新型コロナウイルス感染症は五類感染症に移行し季節性インフルエンザ並みの扱いとなりました。そのためか「ただの風邪」とみなす風潮やワクチンの効果を曲解するカルトじみた論調も増えてきた印象です。
新型コロナウイルス感染症が季節性インフルエンザや普通感冒(つまりただの風邪)と異なるポイントは次のとおりです。
1. 感染力が高い(季節性インフルエンザの数倍)
2. 冬期に限らず夏にも流行する
3. 後遺症になる割合が高く、後遺症に対する治療法が確立されていない
4. 高齢者や持病を持つ方が感染すると重症化しやすい
季節性インフルエンザが普通感冒と別に扱われている理由は、後者よりも感染力が高く症状も重いことにあります。その季節影インフルエンザよりも感染力が高い新型コロナウイルス感染症を普通感冒と同列に扱うのはおかしな話です。しかも後遺症や重症化の割合は季節性インフルエンザよりも高いため尚更対策をしっかり講ずる必要があります。
・飛沫感染のリスクが高い場所ではマスクを
・空気感染の予防に空調中でも定期的な換気を
・高リスク者や医療関係者にはワクチンの追加接種を
感染すればするほど神経系や循環器系に後遺症が発生する率が高まることと、その背景にウイルスの当該細胞への持続感染の機序も明らかになってきています。新型コロナウイルスに感染することは大変な損をすることに他なりません。

長野県内でも同様の傾向があり注意が必要です。10月1日より高齢者、持病を持つ方へのワクチン接種の綱要が発表されましたが現場では詳細な情報待ちの状態です。透析患者には追加接種を強く推奨するとともに私を含むスタッフも任意接種する方針です。

もう一つの夏の花、ギボウシ。
2024年7月の治療指標の達成度


透析医会の指標は全ての項目で90%以上の達成度になりました。先月、先々月の治療介入の効果が現れています。血清Pのみ極端に上昇したケースがあり栄養指導を含めて個別に対策を施行中です。高齢者が多いこともあり栄養指標は低め安定な感が否めません。今年は例年以上の猛暑が予想されており、栄養の維持に傾注したいと思います。

院内でも植物が彩りを添えてくれます。

開院当時に頂いた胡蝶蘭、毎年咲いています。

ゲンペイボク、ここ数年花付きが今ひとつ。

西日を浴びる玄関前の植栽。
18日に梅雨が明けて猛暑が戻って来ました。今年は10年に一度の暑さとの報道も。
エアコンの適正使用で屋内環境を整えることも必須となってきました。感染対策も抜かりなく進めたいと考えています。
須坂腎・透析クリニック
2024年06月21日
おそい梅雨入りと水無月の頃の花々

「梅雨の頃に咲くイメージがある紫陽花、今年は水無月半ばを過ぎても梅雨入りの発表は無く紫陽花の見頃の方が先にやってきました。」と午前中に文章を書き始めていたら、お昼のニュースで関東甲信越の梅雨入りが発表されました。今年は夏至の日に梅雨入りです。

同じくシャラの花も雨滴を纏うイメージが強いのですが晴れた日に開花しました。翡翠玉とも呼ばれる蕾は数日、開花してしまうとほぼ1日で散ってしまう儚い花です。

小紫の花も開花、実の色よりも淡いながら同系色の小さな花弁です。
信州も程なく梅雨入りしそう→本日(21日)梅雨入りですが日中の気温は真夏日となる日もあり、既に初夏の環境となりました。休日外来では熱中症の搬入も出始めている様子です。
「熱中症と脱水症」
熱中症は高温環境に長く滞在するなどして体温が上昇し、更に体温調節機能のバランスが崩れて体内に熱がこもった状態です。体温上昇に対して人体は皮膚浅層の血管を開いて皮膚温度を上昇させる、加えて発汗を促し気化熱によって皮膚面からの熱の放散を促すなど調節機能を働かせます。この機能が低下すると熱中症を発症します。

熱中症は多くの場合脱水症を合併します。発汗量に対して水分摂取量が不足すると汗の産生量が低下し体温調節機能も低下する悪循環に陥ります。また汗には水分の他ナトリウムなどのミネラルも含まれるため、何リットルといった多量の発汗に対し水分のみを補給すると血液中のナトリウムが低下し筋肉の痙攣や意識障害など、緊急を要する状態に陥るリスクがあります。発汗に対し一般的に水と塩の両方を摂取することが推奨される所以です。ただしきちんと食事が取れていれば、軽度の発汗に対して過剰に塩分を摂る必要はありません。特に心臓や腎臓に病気のある方や高血圧の方の塩分摂取は慎重である必要があります。
先に触れた通り熱中症は人体の体温調節機能の破綻が原因であるため、脱水が無くても発症します。また水分だけ補給していれば発症を回避出来る訳でもありません。特に尿量が低下または全くない透析患者さんでは元々尿として排泄されるはずであった水分が丸々体内に残されているため、相当過酷な発汗を生じない限り脱水になる事は希です。

それでも高温多湿の環境に長く滞在することで熱中症を発症するリスクがあります。透析患者さんの熱中症予防で大切なことは高温多湿な環境をなるべく回避することです。熱中症の過半数は屋内で生じていることから、居間や寝室など滞在時間の長い環境では適切にエアコンを使用して室温を28℃以下にコントロールすることを推奨します。ここで大事なのは室温を28℃以下にすることであって、エアコンの設定温度を28℃以下にすることではありません。室内環境により設定温度と実際の気温は乖離するため、室温計を設置してその気温を目安にエアコンの設定温度を決めることが肝腎です。


桔梗、中庭の待合室から見やすい位置に新たに寄せ植えしてみました。
今月の治療指標の達成度


透析医会の指標ではHb, Pの達成度がやや低下しました。前者では併発症の観血的処置のため低下した例が数名、ESA減量に伴い経過観察中に10.0未満に急に低下した例数例と原因が明らかなためESAの増量および必要なケースでは鉄剤の併用で対応済みです。後者では普段余り高値にならない方で漸増しているケースが散見され栄養指導を含めた原因検索を勧めています。血清Pを低下させる目的で蛋白制限を強化することは栄養面から得策ではありません。蛋白質を十分に摂取しながら、透析効率を十分にアップする、適切にリン吸着薬を使用する、そして最も大切なのは栄養にならないPつまり添加物由来のPをなるべく回避すること、そのためにはリン/蛋白比の少ない食品を積極的に用いることです。


患者さん家族からお借りしている孔雀サボテン(紅)

同じく(白)。クリニック玄関先に置かせて貰っています。

木々の色も新緑から深緑に変わりつつあります。
高温多湿の季節が始まります。適切な環境管理で今年も乗り切りましょう。
須坂腎・透析クリニック
2024年05月24日
GW明けの五月、晩春と初夏の狭間

クリニック駐車場の北西、サインボードの隣の緑地。ライラック、ハナミズキそしてシバザクラの花が終わると数種類寄せ植えしているラベンダーが見頃になります。

玄関向かって右手のサツキもピークを越えて来ました。手前のライラックの樹勢が年々弱まっていることが若干気がかりです。向かって左側のジューンベリーの実も大分大きくなって来ました。

中庭のハクモクレンの周りに植えられたコデマリ、一部はまだ蕾です。

その隣のエゴノキにも花が付きました。下向きに鈴なりに咲く白い花は下から見上げるとキレイです。

エゴノキと手前のシラン。スマホの広角レンズも中々優秀です。
2024年5月 治療指標の達成度


日本透析医会の項目では血清リンの高い方がいつもより多い印象です。個別にお話しを伺うと、乳製品を毎日摂るようになったケース、連休で家族が集まり肉類の摂取が大幅に増えたケース、骨粗鬆症の気があると指摘されカルシウム補給目的で小魚を食べるようになったケースと様々でした。原因が特定出来ない場合は食事内容1週間分を記録して貰い、管理栄養士さんと相談する機会を設けます。一方でカリウムやリンについて高すぎて何とかしたい方々よりも、余裕があるのでもっと食べてほしい方々の方が圧倒的に多い傾向です。そこでミネラル成分から考えた透析食についてまとめてみました。
「ミネラルから考える透析食」
血液透析では本来腎臓が行うはずの水分やミネラルのコントロールを、透析や濾過といった物理現象を応用して腎臓のかわりに担っています。しかし血液透析は本来腎臓の持つ役割の10〜15%程度にしか相当しないため、食事療法や薬物療法を組み合わせてやっと十分なレベルの腎不全管理に到達します。
透析を受けている患者さんの食事内容は一般的に「透析食」と称されます。腎臓から主に排泄されるカリウム、そして骨代謝とのバランスでコントロールされるリンも腎機能低下により排泄されにくくなり、透析食では何れも摂取量に上限が設定されます。また食塩の成分でもあるナトリウムは体水分量に大きく影響(厳密には細胞外液量)するため、やはり摂取量に上限があります。
1. カリウム:透析前<6.0 mEq/L, 透析後>3.0 mEq/Lを摂取量目安1,500〜2.000mg/day
1日1,500mgのカリウムは日本人の成人の標準的摂取量の半分くらいです。透析の効率が高くなると除去量が増えて透析後のカリウムが低くなりすぎることもあり当院では透析前カリウム濃度6.0mEq/Lまで許容内としています。特に女性はカリウムのリザーバー(貯留場所)とも言える筋肉量が少ないため透析前のカリウム値が同じでも男性に比較して透析後のカリウムが低くなりがちです。(筋肉量が低下した高齢の男性でも同じ事が言えます。)カリウムは細胞内に多いミネラルのため生の細胞成分で校正される生野菜や果物に多く含まれます。同じ細胞成分として肉や魚にも含まれます。

蛋白源としての肉や魚は十分量の確保が大切なため一般的には野菜や果物の摂取量で調整されることが多いです。糖尿病を合併している場合、果物は糖分を多く含むため血糖値が上昇しやすい空腹時(間食としての摂取)は控えて、三度の食事の最後に摂ることを勧めています。カリウムは高くても低くても生理的な活動に支障を来します。これから夏野菜が美味しくなる季節、カリウムに余裕がある場合はしっかり旬を楽しみましょう。

2. リン:透析前<6.0mg/dlを目標に摂取量の目安750〜1,000mg/day
リンは肉や魚など蛋白質の摂取により消化管から吸収され血液内に入ります。本来骨と血液間のやり取り、腎臓からの余剰分の排泄、それらをコントロールするホルモンのバランスで適正内にコントロールされていますが、腎機能が低下するとそれらが破綻してしまいます。以前は蛋白質制限がリンコントロール主体でしたが蛋白制限を行わずにリンを適正値にコントロールすると蛋白制限をしていた場合より予後が良いことが明らかとなっており、なるべく蛋白質摂取を制限しない方法が求められています。具体的には十分な透析を行うこと、栄養にならない添加物由来の無機リンを避けること、リン吸着剤を規則正しく服用することの3点が大切です。無機リンはほぼ99%近く消化管から吸収されるためわずかでも血中リン濃度を上げてしまいます。加工肉や練り物、乳製品などは添加物由来の無機リンが比較的多く食べ過ぎないことが大切です。また骨ごと食べることが出来る小魚や骨そのもの(鯖缶や鮭缶の中骨)はカルシウムとリンの結晶とも言えるため、回避した方が無難です。一部の清涼飲料水もリン含有量が高い製品があり注意が必要です。栄養にならないリン(無機リン)をできるだけ回避して筋肉や血液の材料として大切な蛋白質を十分に摂ること、また摂取した蛋白質を自分の体に取り込む(同化)には十分なカロリーも必要なため、適切なカロリーを摂取することも併せて考えることが大事です。過剰なリン摂取を控えて蛋白質を十分に摂るには食品中のリン/蛋白比が低い物を摂ると良いでしょう。乳製品はこの比が高いため、リンが高めの方は摂取しない方が良いでしょう。

3. ナトリウム(塩分):6g/day未満
体内の水分バランスにおいて塩と水は常にペアで考えます。簡単に言うと体内ではナトリウム濃度を常に一定にしようと様々な調節が行われています。摂取する塩分量が多いと余剰な塩分を薄めるための水を欲します。塩辛い物を食べると喉が渇くのはこのためです。腎臓が正常に機能していれば薄まった塩分と水分は尿として体外に排泄されるためバランスが保たれます。末期腎不全では尿量が減少しナトリウムや水分の排泄量も減るため摂取量も減らさないとバランスが破綻して体水分量過多になります。塩分を取り過ぎると口渇感から水分を欲し何の制限も無く飲水すると体水分量が上限を超えて、高血圧、むくみ、更には心臓への負荷が高まり心不全を誘発することもあります。

口渇感はかなり強い欲求であるため、喉が渇いてから飲水を我慢するのはかなり厳しいことです。故に喉が渇かないように塩分を制限しつつ飲水量を適正化する方が容易とされます。
今回はミネラルの面から透析食の内容と必要性について見てきました。細かな部分は患者さんによって許容範囲が異なるため、採血やレントゲン結果を見ながら個別にお話しするようにしています。

屋内のブーゲンビリア、今年も沢山の花が咲きました。

やや目立たない場所の昇藤(ルピナス)

紫陽花の花芽も出てきました。
連休が明けて新年度も本格的に始動しました。朝晩の肌寒い気温に春の名残を感じ、夏日となる日中には初夏の兆しを想います。その前に梅雨を経ねばなりませんが、スコールの如き事醒めな雨にならないようにと希望します。
須坂腎・透析クリニック