2025年01月23日
雪のない睦月、令和7年(2025年)

一部の地域で例年以上の降雪があった年末年始、天気予報から流れる「今季最強クラスの寒波到来」の言葉に雪かきと腰痛の悪化を覚悟しながら戦々恐々としていました。ところが意外に温かい日が続き、今のところ道路が雪で覆われ溶けない状態である「根雪」にもなっていません。クリニック中庭で1月に蕗の薹を見たのは初めてです。

葉が落ちきらず逆光に映えるユキヤナギ。

水仙の芽も動きはじめています。「根雪」がないため目に付くのか、いつもより早めに出てきたのかは定かではありません。
日本透析医学会から毎年公表される「わが国の慢性透析療法の現状」2023年版から内容を一部抜粋して紹介します。

透析患者数は2021年をピークに減少傾向にあり、2023年人口100万人あたりの患者数は2762.4人で国民362人に1人が透析患者に相当。透析治療形態は血液透析(HD)37.5%に対し血液濾過透析(HDF)59.1%。腹膜透析(PD)はHD併用を含めて3.1%。HDF療法のうち、on-lineが68.3%、IHDFが30.5%、IHDFの割合が増加傾向。長野県では人口100万人あたりの患者数は2,664.2人で県民375人に1人の割合。治療形態ではHDが48.5%、HDFが49.5%、PDは0.3%と全国と比較してHDF, PDの割合が低い。
当院では溶質除去や循環動態に与える好影響を鑑み、開院当初からOn-line HDFを全ての利用者に提供しています。


透析患者の平均年齢は70.09歳、年々増加傾向。
当院の平均年齢は72.5歳で75歳以上の割合は48%と全国平均よりも高齢化が進んでいます。

慢性透析患者の原因疾患:糖尿病性腎症39.5%、慢性糸球体腎炎23.4%、腎硬化症14.0%。糖尿性腎症は2011年に慢性糸球体腎炎を抜いて第1位になっているが近年は横這いの傾向。慢性糸球体腎炎は低下傾向にあり腎硬化症は上昇、原因不明も依然として10%前後。糖尿病と高血圧が原因となる腎硬化症の合計は53.5%でいわゆる生活習慣病の割合が半分以上を占める。


慢性透析患者の死因は感染症が22.7%、心不全22.7%、悪性腫瘍20.4%、悪性腫瘍7.6%。長らく心不全が原因の1位であったが2022年に感染症が第1位となった。脳血管疾患、心筋梗塞は緩徐低下傾向。粗死亡率は概ね9〜10%で推移していたが2022年以降は11.0%に増加。

入院原因はアクセストラブル、心疾患、感染症、整形外科疾患で2.6:1.7:1.5:1の割合。
維持透析患者、ここではデータを示しませんが新規導入患者両者において高齢化の傾向が続いています。いずれも糖尿病や高血圧などいわゆる生活習慣病を原因とする腎不全が50%以上を占めており、導入時に原因不明なケースも10%前後認めます。
死因第1位の感染症は新型コロナ感染症の影響とみる向きもありましたが更に増加傾向にあり、高齢化にともなう免疫力の低下など感染症を誘発する素因が顕在化して来たとも取れます。更に低栄養状態では複数の免疫系で機能低下が生ずることが分かっています。加齢による免疫力低下(特に細胞性免疫)に低栄養が加わると複合的な免疫能の低下が起こることになります。また糖尿病では高血糖自体が細菌の増殖に好適な環境であることに加え、炎症反応に預かる白血球(好中球やリンパ球)の機能を低下させることが報告されています。従って栄養状態の維持や血糖値のコントロールは感染症を回避する意味においても大切です。

(日内会誌2019より)
第2位の心不全は低下傾向にありますが未だ比率は高く、血圧や体水分量コントロールの重要性は継続しているといえます。体水分量が過剰になると心筋に負担がかかり、負荷が長期化すると心筋に線維化などが生じいわゆる左室拡張障害を来します。心臓がポンプとしての働きを保つには、心内腔が十分に拡張し血液を充満させてから心筋が収縮し充填した血液を大動脈へ送り出す必要があります。左室拡張障害では血液を十分充填出来ないまま収縮することが特徴で、心収縮力低下を伴わない心不全(HFpEF)と呼ばれます。

(東北大学HPより)
心収縮力を伴う心不全(HFrEF)と比べてHFpEFは有効な治療方法が確立されておらず、体液過剰や高血圧、病的な頻脈といった増悪因子の除去が大切です。特に透析患者では体液過剰になる局面が多く、毎回の透析で除水量を安全圏内(ドライウェイトの5%以内)に調節することがポイントです。また適切なドライウェイトの設定と必要に応じ降圧薬を組み合わせて血圧をコントロールする、心房細動などの不整脈は見逃さず治療に結びつける、心電図で心筋虚血の可能性があれば専門医に診断を仰ぐなど日常診療の中でも注意すべき点は複数存在します。
なるべく元気で通える透析をモットーとする当院としては、個々に合った透析量の設定、栄養状態およびADLの維持・拡大を通して感染症になりにくい状態をなるべく維持することを目指します。同時に発熱など感染症の兆候が見られた場合は直ちに評価を行い、関連病院とも協力して早期の対応に努めます。また心不全の発症や進行を回避する手段として、適切なドライウェイトの設定、飲水量の適正化を以て十分な体水分管理を行います。


年明けすぐの定期検査でした。その影響もあってか血清Pが急上昇するケースが多く、全体でも目標上限の6mg/d以下の割合が久しぶりに90%未満に低下しています。年越しでいつもと違う食事内容、特に添加物の多い加工食品が原因と考えられます。食生活が元に戻れば血清Pも低下するはずなので多くのケースでは処方内容を変えること無く経過を見守ります。ただしPの上昇に伴い副甲状腺ホルモン(iPTH)まで上昇している場合は早急なコントロールが必要であり、透析条件や処方内容に見直しをかけています。

寒椿、彩りの乏しい冬の庭に重宝する花木。

枯れ紫陽花
2月も穏やかな天気を望みたいところです。インフルエンザの流行はピークアウトした様にも見えますがまだ十分に低下していません。新型コロナ感染症も発生者数を見る限り横這いです。基本的な感染対策に引き続き心掛けましょう。
須坂腎・透析クリニック
Posted by Kidney at 15:59│Comments(0)
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