2018年09月24日

曼珠沙華の季節

曼珠沙華の季節

7月からの猛暑、8月からの災害的な台風襲来、9月も終盤となり気候だけは落ち着いてきた感があります。しかし未だ風水害そして北海道では地震の爪痕が残っており、涼しさが寒さになる前に復旧過程が十分に進むことを祈るばかりです。



曼珠沙華の季節
9月初旬、残暑が色濃く残るにも関わらず鉛筆よりも一回り太い緑色の茎が庭先に現れます。日に日に長さを増して先端が色付くとともに四方に開き、やがて花弁が展開してネコのヒゲを逆さにしたような蘂が伸びます。曼珠沙華(リコリス)の中で最も早く開花するのはこの黄色の個体。




曼珠沙華の季節
続いて白




曼珠沙華の季節
そして最も見慣れた赤が開花。




曼珠沙華の季節
赤い花の群生は年々豪華になってきました。




今月は埼玉県川越市で開催された第24回HDF研究会のワークショップに参加しました。
曼珠沙華の季節
黎明期の透析液は難溶性の炭酸塩の析出を防ぐために二酸化炭素を液中に供給する方法を取っていました。水と二酸化炭素の反応により炭酸を生成することで炭酸カルシウムが生成されない状態を保つ方法ですが、これは極めて不安定で大がかりな手段でした。やがて A液に酸を添加しB液の炭酸水素Naと混合させることで炭酸を生成させる方法が開発され、その酸として酢酸、クエン酸、乳酸など体内にも存在する有機酸が候補として挙がりました。
乳酸は疲労物質としても知られるため体外から供給される対象にはならず、代謝が速やかであること、金属イオンとキレート体を作らない事などから酢酸が選択され従来型重炭酸透析液として大きく普及するに至りました。しかし酢酸は一般的に用量依存性に循環動態に負の影響を来す酢酸不耐症のリスクがあり、その濃度に関しては十分に検討され現行の透析液では酢酸不耐症が起こりえない濃度に抑えられているとされています。
一方で酢酸の代わりにクエン酸を使用した無酢酸重炭酸透析液が開発されわが国では2007年から使用可能になりました。循環動態の安定、代謝性アシドーシスの十分な改善、栄養状態の改善、骨ミネラル代謝への好影響が報告されており当院でも高血流高効率透析を支える柱の一つに位置づけて採用しています。



曼珠沙華の季節
透析液A剤に添加する有機酸としてクエン酸がどの点で酢酸より優れているかは十分明らかにされていません。クエン酸が酢酸に劣る点として代謝の遅さ、カルシウムイオンをキレートし錯体を形成することが指摘されています。その結果アシドーシスが過剰に補正され血液がアルカリに側に傾きすぎて(オーバーアルカローシス)異所性石灰化が進む可能性、イオン化カルシウムが低下してQT延長など催不整脈性が上昇する可能性を危惧する向きもあります。透析液A剤に添加する酸として、クエン酸が酢酸に勝る点を明確に挙げるにはevidence不足ですが、少なくとも無酢酸透析液の使用を直ちに棄却しなければならない臨床的なevidenceも有りません。同じワークショップで座長と講演を担当された腎内科クリニック世田谷の菅沼信也先生も指摘するところですが、もし悪影響のある透析液ならば粗死亡率が上昇するはずですが当院を含めむしろ全国平均よりかなり低く抑えられています。



曼珠沙華の季節
質疑応答では全国平均は入院患者を抱える病院も軽症が多いクリニックも全て包めているため比較は意味が無いとの意見もありましたが、クリニックの患者が相対的に多いとされるJ-DOPPSの粗死亡率を見ても7%前後であり平均3%を下回る当院の数値は十分に低いと考えます。上のグラフでは当院(KDC)のみならず、県内で従来型重炭酸透析液を使用して高血流高効率透析を行う別のクリニック(K-DAC)のデータも示しました。10年余に渡り低い粗死亡率を維持しています。




曼珠沙華の季節
つまりどの透析液を使用するかよりも、透析条件や使用薬剤を綿密に調整し十分量の透析を提供しつつミネラルや栄養のバランスを少しでも良い方向に維持補正することが元気で長生き出来る透析に繋がると考えます。





曼珠沙華の季節
9月と言えば金木犀、下旬になると泡のように黄色い花を纏い芳香が漂います。今年は夏前に大きく剪定されてしまい花付きはあまり良くありませんでした。金木犀の剪定は花後に限ります・・・。



今月の治療指標の達成度です。
曼珠沙華の季節


曼珠沙華の季節

血流量のアップにより透析量(spKt/V)は2.13±0.47迄上昇し下図の様に男女とも2.0を越えました。

曼珠沙華の季節
2009年末のわが国の慢性透析療法の現状から、透析処方関連指標と生命予後の結果でspKt/V 1.2以上1.4未満を対照とした場合、1.8以上で死亡リスクが最も低くなっており、当院でも男女ともに1.8以上を維持して来ました。

またβ2MGも前値が」23mg/L台まで低下しています。小さな物質は血流量を増やした方がよく抜けます。一方大きな物質は血液流量を増やしてもある程度で一定になります。しかし最近の透析膜は血液流量をあげるほど小から中分子の抜けがよくなると言われています。低分子蛋白の代表的な物質であるβ2ミクログロブリンも血液流量を増やす方がよく抜けると報告されており、それを裏付ける結果と言えます。

尿毒症物質の中には広く体内に分布し除去に相応の時間がかかるモノもあります。それらをしっかり除去するするにはやはり透析時間の延長が望ましいと考えます。現在は血流量で透析量を稼いでいる傾向ですが、本来は透析時間で透析量を担保することがベストです。その場合小柄な体格の方はむしろ血流量の下方修正が必要となるかもしれません。筋肉量の多い比較的若い男性の場合はQb 300で膜面積3.0㎡でも透析量が足りない位ですから時間延長は大きなメリットになると考えます。


曼珠沙華の季節
ハナミズキの実



曼珠沙華の季節
涼しくなり枯れずに残ったナスタチュームがまた花を付け始めました。


ワークショップの発表のため、何ヶ月かかけて開院後5年間のデータを分析してきました。逆にいくつかの問題点も明らかとなり可能な部分から日常臨床にフィードバックしつつあります。透析治療はある程度確立された治療法ですがまだまだ奥が深く、工夫できる点や改善を要する点は山のように存在しています。次の治療が更に良い治療となるように、次の5年間もブレずに進みたいと考えます。


須坂 腎・透析クリニック










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Posted by Kidney at 20:11│Comments(0)ひとりごと
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