2020年04月25日
卯月の先の連休とR<1について

体感温度の低い日もありますが気温は徐々に上昇しています。沈丁花に続いてクリニック玄関脇のジューンベリーが満開となりました。

ほんの数日前は蕾でしたが、

あっと言う間に満開、ただしこの白い花はサクラよりも儚く来週には全て散ってしまいます。

中庭もユキヤナギやムスカリが咲き、シラカバの若葉も開き始め春らしくなってきました。

手前からタイツリソウ、ムスカリ、ユキヤナギです。

令和2年4月7日に武漢を発祥とする新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する緊急事態宣言が主要都市に発令されました。その後4月16日に宣言は全国に拡大適応され連休を迎えようとしています。
新型コロナウイルスは人が運びます。ウイルスは宿主である人の体内でなければ長期生存(感染性の確保)が出来ないためです。先験的な抗体検査の結果が発表され感染者数はPCRで診断された人数のおよそ10倍程度いる可能性が指摘されています。逆に言えば致死率は10分の1になりますが安心材料ではありません。
都市部で既に生じている医療崩壊が拡大すれば当初数%であった死亡者数は人工呼吸器を使用しなければならない5%、更にICU管理画必要な15%まで跳ね上がる可能性があります。感染初期の武漢や欧米の一部の国で現在進行形で起きていることです。
長野県でも感染者数は漸増傾向です。その特徴は帰省者からの感染が糸口となり家庭内感染で広がるパターンが多いことです。
次に感染者がいわゆる三密(密閉・密集・密接)環境に出掛けて次の感染を引き起こし、最悪クラスター化しています。
繰り返しますがウイルスは人が運びます。東京都市部では有病率が上がりPCRの陽性率もかなり高くなってきました。陽性の可能性が高い人が移動すると移動先で感染源になってしまう確率も上がります。従って感染が収束するまで県境を跨ぐ移動は流通のみに限定し個人の外出も可能な限り控えることが最短でこの危機を乗り越える策であると考えます。
帰省できない人への物心両面への援助も忘れてはなりません。

感染力を示す数値として基本再生産数R0があります。簡単に示すと、
R0=β×κ×D
β:1回の接触あたりの感染確率
κ:一定時間あたりの接触頻度
D:感染力を有する期間
麻疹(はしか)で16〜21,水痘(みずぼうそう)で8〜10、インフルエンザで2〜3とされます。
COVID-19では武漢で流行し始めた当初の最大値でR0=3.86
都市封鎖後の武漢での推定値はR0=0.32~1.58
現在は二次感染者数を含む数理モデルとして実効再生産数(Rt)も用いられていますが基本的な考え方は同じで、
R>1:1人の感染者から1名以上の二次感染者が生じて感染が収束しない→感染は拡大し時に感染爆発が起こる
R=1:1人から1名の二次感染さらに高次感染が生じて爆発的な流行はしないが収束もしない
R<1:二次感染者は現れず感染は収束する
人の移動は接触頻度を上げるためRも上昇します。
マスクや頻回の手洗いは感染確率を下げRは低下します
外出を控えることも感染確率の減少と接触頻度の低下に繋がりRは低下します。
将来的にワクチンが完成すれば感染確率が下がりRは低下するでしょう。
免疫獲得者が増えればやはり感染確率は低下しRは下がります。
(ただし現時点では抗体の感染性中和力や効果を有する期間が明確で無いため抗体の取得=免疫の獲得には必ずしもならない可能性があります。)
治療薬の有効性と安全性が確立すれば治療期間も短縮しRも低下するでしょう。

よってStay homeが現時点での最適解と言えます。
今月の治療指標の達成度です。


日本透析医会の項目では概ね90%以上の達成率を維持しています。今月はPの達成度が高い反面、栄養指標のアルブミンは低下しておらずnPCRも維持していることから、栄養にならない添加物中の無機リン摂取の割合が低下した可能性があります。引き続き純粋な蛋白質の摂取を推奨しつつ、添加物の多い加工食品(ハム、ソーセージ、ベーコン、練り物)は控えめにするように回診でお話ししています。
COVID-19の感染拡大でスタッフも体調管理、環境管理に一層心掛けています。また都市部では急患の受け入れ制限も始まっており、患者さんにも普段に増して体調管理に留意するように呼びかけています。
・スタッフは37.5℃以上の発熱があれば原則出勤停止。
・患者さんにも毎日体温測定していただき発熱があれば来院前に連絡。
→症状により保健所に問合せ、通院可能であれば時刻の調整、乗合タクシーは使用不可、CRP, CBC, fluのチェック。
・来院時37.5℃以上の発熱 and/or SpO2の低下で治療開始前に保健所に問合せ。
透析患者さんが新型コロナウイルスに感染した場合一般人とは異なり自宅療養の対象にはならず入院対象となることが厚労省から通知されています。しかし感染症指定病院および基幹病院でも新型コロナウイルス感染透析患者の受け入れ可能数は2名程度とかなり少数です。病床運用もより重症者から受け入れると想定されるため、感染した透析患者が増えれば普段透析をしている施設での透析継続を余儀なく行うことになりかねません。現在基幹病院でも医療用防御装備が不足しており無床クリニックでは装備を揃えることは不可能です。代替え可能なレインコートやマスク・手袋は一定量備蓄していますが院内感染を完全に防ぎつつ長期戦を行える体制とは到底言えません。
報道やネット上では楽観論や外出自粛に対する異論も見かけますが医療現場から見える風景は随分異なります。

ライラックは開花待ち。

日陰の水仙はやっと開花。

レンギョウは葉が出始めて終盤。

駐車場の芝サクラはしばらく楽しめそうです。
経済を大きく圧迫する自粛期間を最短とし感染死亡者数を最小とするには行動変容が最適解でしょう。
R=0ではこの状態が出口も見えず長期化し結果的に経済も不可逆的なダメージを被るでしょう。
R>1では数ヶ月で一旦収束するかもしれませんが感染死者数は一部の欧米並みとなるかもしれません。
R<1を選択可能なリミットはすぐそこに近付いています。
武漢に始まったこの感染症が社会主義でなく自由主義体制のわが国で無事収束することを願いつつ、
こんな時だからこそ日常の診療を抜かりなく粛々と進めたいと思います。
須坂 腎・透析クリニック
Posted by Kidney at 16:47│Comments(0)
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