2023年04月27日

10年目の春

10年目の春
早春の花が終わり中庭の景色は次の季節にかわりつつあります。芽吹く前は枝にリンゴが刺さり鳥たちの餌場であった藤、大きめの花芽が現れるとあっと言う間に成長し開花しました。撮影していると今年もクマバチの羽音が聞こえました。


10年目の春
ヤマツツジ越しの藤の花。ヤマツツジの樹勢が年々衰えているのが心配です。



10年目の春
八重の山吹、他に白山吹、一重の山吹も開花しています。


盆暮れ正月、祝日も含めて週三回治療に通う透析患者さんに季節の移ろいを身近に感じて欲しいとの思いから、季節ごとに変化のある庭の設計を造園会社さんにお願いしました。10年が経過し庭も成熟し風景を楽しむ患者さんの声を聞くと、企みは成功したとほくそ笑んでいます。某金融機関には無駄な土地の利用方法だと暗に指摘されましたが、計画通りにして本当に正解でした。ちなみに現在のメインバンクは別の金融機関です。



10年目の春
当院の定期検査レポートの解説、今月は貧血管理です。腎臓は尿を生成し水・電解質のコントロールを行っていますが、血圧を上昇させるホルモンや赤血球の産生に必要なホルモンを産生する臓器でもあります。後者はエリスロポイエチン(EPO)と呼ばれ腎臓で作られ骨髄の造血組織に作用し血球成分(赤血球、白血球、血小板)のうち赤血球の産生に必要不可欠な存在です。エリスロは「赤」をポイエチンは「生成促進因子」を意味します。腎機能が低下し腎臓を構成する組織が荒廃するとEPOの産生も低下し貧血(腎性貧血)が生じます。腎性貧血は透析導入前から顕在化することが多く、合成されたEPO製剤(ESA)を投与し貧血のコントロールを行います。近年ではEPO産生を促す低酸素誘導因子(HIF)の分解に関わる酵素HIF-PHを阻害して造血を促す薬剤も登場しています。

透析患者の腎性貧血はEPOの不足以外にも鉄欠乏性貧血が合併している例がほとんどです。腎不全では消化管からの鉄吸収が低下するためであり、ESAを補充するだけではなく赤血球の材料となる鉄の動態にも注意が必要です。血液中に存在する鉄の指標であるトランスフェリン飽和率(Tsat)は20%以上が目標、組織中に貯蔵される鉄の目安であるフェリチン(ferritin)は100以上300未満が目標です。鉄が過剰とならないように毎月この2項目を測定し鉄の補充が必要か検討しています。貧血自体の指標は酸素を運搬する赤血球中の赤い色素であるヘモグロビン(Hb)であり10〜12g/dlにコントロールしています。同時に他の血球成分である白血球(WBC), 血小板(Plt)も評価し白血球数と相関しやすい炎症反応(CRP)も見ています。

β2MGは血液透析で除去されにくいややサイズの大きな尿毒素の指標として透析前後の濃度と除去率を2ヶ月に一度評価しています。この物質は血液濾過で除去されやすく両者のいいとこ取りとなる血液濾過透析では通常の透析よりも除去効率が上がります。この物質の血中濃度を低く保つ事で長期透析の合併症の一つである透析アミロイドーシスを予防することが出来ます。

検査レポートの解説はひとまず終了となります。当院ではこれらの項目を中心にそれ以外の検査項目も含めて毎月透析患者一人一人にレポートを作成し、その結果と注意点を回診でお話ししています。


10年目の春
玄関脇(向かって左)のライラックも開花し良い香りが漂います。




今月の治療指標の達成度です。
10年目の春

10年目の春
個別の指標は透析医会、当院独自含めて大きな変化はありません。開院した10年前と比較すると一時期2.0を越えていた平均spKt/Vはやや低下し栄養指標も低下傾向にあります。もう少し詳しく見ると、平均偏差が大きくなっており比較的若い方で栄養状態も良く高効率の透析を継続している群と、高齢者で栄養状態があまり良くなく透析の効率も抑え気味の群と二極化が進んでいるように見受けられます。高齢者でも食欲旺盛で最大血流で透析を行っている方もおり、個々に合わせた透析条件の設定がますます重要になってきた印象です。


10年目の春
政府は、新型コロナウイルスの感染法上の分類を5月8日から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げると決めました。今までは結核やSARS, MERS, H5N1鳥インフルエンザ等と同類の2類「相当」でしたが季節性インフルエンザとおなじ5類の扱いになります。新型コロナウイルスはオミクロン株に流行株が移行してからウイルスの呼吸器細胞への攻撃性・毒性が弱まり重症肺炎の発症率は下がりました。一方で季節性インフルエンザの3-4倍の感染性の高さは変わらず、高齢者や持病持ちの人、ワクチン無接種の人ではインフルエンザ以上の致死率を未だ保持しています。感染者数が欧米と比較し少なかったわが国ではその分死亡者数も少なく経過してきましたが、十分な集団免疫が形成されておらず今後の動向次第では新型コロナ感染による世界トップクラスの高齢者死亡数を記録するかもしれない(第120回日本内科学会総会、COVID-19シンポジウムより)という指摘もあります。


10年目の春
重症化率が下がったにも関わらず第8波の死亡率は第7波を越えました。死亡例の多くは高齢者です。


10年目の春
5類に移行してもウイルスの性質は何ら変わりません。リスクに応じて感染予防、ワクチン接種を継続し「かからない」「うつさない」を個人レベルで徹底することが望まれます。特に高齢者の日常的な予防対策やワクチン接種体制の維持、高齢者施設での感染対策の支援、医療体制の確保が求められます。ワクチンを接種するか新型コロナウイルスに感染して得られた免疫は時間とともに減衰します。ワクチン接種後に感染した場合に誘導されるハイブリッド免疫も8ヶ月程度で効果が減弱されるようです。高齢者への感染を防ぐため、慢性疲労や集中力の低下など若年者でも生ずる可能性のあるlong-COVIDを回避するため、小児でも多系統炎症性症候群等の重篤な合併症があるため、全年齢での的確なワクチン接種が個人的には望ましいと考えます。


10年目の春
玄関脇(向かって右)のハナミズキ、今年は花が少なめです。


10年目の春
その手前のハナミズキ(白)花芽を増やす方法を検討中です。


10周年が終わり11年目を迎えました。
10年目の春
次の10年も安心で安全かつ確実な透析医療を提供したいと思います。

須坂 腎・透析クリニック




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Posted by Kidney at 16:08│Comments(0)ひとりごと
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